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真祖吸血鬼、まだ存在しないアメリカに寄生する 〜合法的な血液供給のため、建国前から国家運用保守を始めました〜  作者: パラレル・ゲーマー


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第37話 真祖吸血鬼、十三植民地へ同じ質問を送る

 十二月末。


 フィラデルフィアのヴァレンタイン商会では、大きな机の上に二枚の紙が並べられていた。


 一枚は、俺が直接その凄惨な現場を目撃してきた《ボストン港茶貨物破壊確認票》。


 もう一枚は、俺が不在の間にアーサーやケイレブたちが動かし、一箱の損害も出さずに成し遂げた《ポリー号帰航完了確認票》だ。


【ボストン】三百四十二箱全数破壊。


【フィラデルフィア】約七百箱全数帰航。


「同じ茶法という法律を突きつけられたのに、結果が真逆だ」


 俺が独り言のように呟くと、部屋の隅で剣の手入れをしていたギデオンが顔を上げた。


「お前は、人間が違ったからではない、条件と手順が違ったからだと言っていたな」


「言った」


「その二つの港だけを比べて、それが十三植民地全体の結論だとでも言うつもりか?」


 ギデオンの問いに、俺は言葉に詰まった。


 確かにそうだ。ボストンとフィラデルフィアの二点だけを結んで直線を引くのは、あまりに乱暴すぎる。


 俺は最初、極めて単純な解決策を思いついていた。


「なぁ、アーサー。フィラデルフィアで成功したこの《安全停泊手順》を、各植民地の商会や水先案内人たちに配ってはどうだ? そうすれば、他の港でも同じように茶船を無事に帰せるんじゃないか」


 アーサーは帳簿から顔を上げ、静かに問い返した。


「どの植民地へ配るおつもりですか?」


「全部だよ。十三植民地すべてにだ」


「海に面していない内陸の町にもですか?」


「植民地単位で見れば、主要な港はどこにだってあるだろ」


「では、東インド会社の茶船が向かう予定のない港にも、その解決手順を送るのですか?」


 俺はハッとして口を閉ざした。


 東インド会社の茶船が正式に割り当てられ、直接送られたのはボストン、ニューヨーク、フィラデルフィア、チャールストンの四港だけだ。


 残る九つの植民地には、そもそも東インド会社から正式な茶船が割り当てられていない。


「……解決の手順を偉そうに送りつける前に、それぞれの場所で今、何が起きているかを確認する方が先ですね」


 アーサーの冷静な指摘に、俺は深く頷いた。


「過去に作った確認票を再利用しましょう」


 アーサーが書庫から持ち出してきたのは、以前のガスピー号事件の際に作り、今では複数植民地の商人間で共通書式として使われ始めている《遠隔事件確認票》だった。


 事件の原文、直接見聞、伝聞、布告などを整理して追記していく、民間情報網の土台だ。


「よし。これを、今回の茶法問題向けに作り直そう。ボストンへ送った質問状の十三植民地版だ」


 俺が言うと、ギデオンが眉をひそめた。


「なぜ十三すべてへ送る必要がある? 茶船が向かった四つの港だけで十分ではないのか」


「関係がないとは限らないからだ」


 船が来なくても、茶法への反対決議、不買運動、荷受人候補への圧力、他植民地への支援、新聞による報道は必ず存在する。


「船が来なかったから静かだったのか、船が来たらボストンと同じことが起きたのか、それともそもそも茶法への関心が薄かったのか。それをきちんと分けたいんだ」


「つまり、事件そのものではなく、事件が起きる前の状態まで調べるわけか」


 アビゲイルが大きな紙を用意してくれた。


 縦に十三植民地の名前を並べる。


 ニューハンプシャー、マサチューセッツ、ロードアイランド、コネティカット、ニューヨーク、ニュージャージー、ペンシルベニア、デラウェア三郡、メリーランド、ヴァージニア、ノースカロライナ、サウスカロライナ、ジョージア。


 横には、茶の割当、船の到着、税関申告、荷受人の対応、帰航の意思、町側の要求、結果といった項目を配置する。


「未来のアメリカ全州アンケートみたいになってきたな」


「旦那様、まだ州でも国でもありませんよ」


 アーサーが淡々と突っ込む。


「分かってるよ。あくまで事実関係の整理だ」


 俺は第一案を書き込んだ。


【茶船は到着したか】


【茶を受け入れたか】


【帰航したか】


【破壊されたか】


 アーサーがそれを一読して首を振った。


「これでは、茶船が最初から割り当てられていない植民地も、『到着していない』という回答になってしまいます」


「同じじゃないのか?」


「全く違います。船が予定されていないのか、予定されているが航海中なのか、悪天候で遅れているのか、別港へ向かったのか、到着したが市街地へは入っていないのか。これらすべてが『到着していない』の一言にまとめられてしまいます」


「……いきなり設計不良かよ」


 俺はペンを置き、質問の解像度を上げることにした。


【東インド会社から当該植民地への正式な茶の割当があったか】


 という大前提の項目を設け、その後に船の現在地を尋ねる形に修正する。


 アビゲイルが試作票を丁寧に複写しながら、ふと尋ねてきた。


「旦那様、こちらの欄が空白のまま戻ってきた場合、何と判断いたしますか?」


「答えがない、ってことだろ」


「それは、事件が何も起きなかったという意味ですか?」


「いや、それは分からない」


「では、回答者が事実を知らないのですか?」


「それも分からないな」


「もしかして、答えたくなかったという可能性は?」


 俺は頭を抱えた。


 空欄を許すと、受け取った側が後から都合のいい意味を勝手に当てはめてしまう。


 そこで、回答の選択肢を明確に分けることにした。


【なし】


【不明】


【未回答】


【回答拒否】


【該当なし】


「空欄は禁止だ。沈黙にも種類がある。何も知らないことまで、知っているふりをしないための欄が必要だ」


 水先案内人のケイレブが商会を訪れた際、彼にも港湾項目を確認してもらった。


 彼は「船は到着したか」という問いを見て、即座に指摘した。


「どこへ到着したことを指していますか?」


「港だよ」


「外海ですか、河口ですか、水先案内人が乗り込む区域ですか、植民地内の川ですか、市街地の港内ですか、それとも波止場に接岸した状態ですか?」


 俺は先日までの出来事を思い出した。


 フィラデルフィアのポリー号はチェスターへ来た時点で植民地には到達していたが、市街地港内へは入っていなかった。


 ボストンのダートマス号は波止場へ入り、税関申告まで済まされていた。


「……一里違えば、使える手順が全く変わるな」


 俺は現在地の選択肢を、ケイレブの言うとおり細分化して記載した。


 試作票には、当初、荷受人の個人名や急進派の指導者、水先案内人の名前を書く欄を設けていた。


 ギデオンがそれを見て、低く警告した。


「この帳簿が、英国側の役人に渡ればどうなる?」


「関係者が調べられるだろうな」


「調べられるだけか?」


 ボストンでの破壊行為の実行者捜索や、各地の反対運動への処罰のリストとして利用される危険がある。


 俺はゾッとして、人名欄を比較票から削り落とした。


「公開する比較票では、商人、船長、委員といった役割だけにする。個人名は書かない。必要な場合は原本にだけ残す」


「よし、十三通作ればいいな」


 俺が言うと、アーサーが怪訝な顔をした。


「各植民地へ一通だけ送るのですか?」


「そうだけど、足りないか?」


「その一通を受け取った人物が、紛失したり、政治的意図で改竄したり、あるいは廃棄した場合はどうします?」


 俺は過去の知識保存や原本管理の経験から、情報経路を一つに絞る危険性を思い出した。


「一植民地につき、複数経路で送ろう。商人、印刷業者、港湾関係者、法律家。それぞれ別々に送って、回答が一致しない場合は無理に一つにまとめない。『回答A』『回答B』とし、相違点としてそのまま残す」


 一月上旬。


 俺たちは、北部と南部へ向けて大量の確認票を発送した。


 北行きはニュージャージー、ニューヨーク、コネティカット、ロードアイランド、マサチューセッツ、ニューハンプシャー。


 南行きはデラウェア三郡、メリーランド、ヴァージニア、ノースカロライナ、サウスカロライナ、ジョージア。


 ペンシルベニアの分はアーサーたちが作成していたが、俺はついつい自分でその評価を書こうと手を出しかけた。


 アーサーがすかさず止める。


「旦那様。自分で作った手順を、自分で成功と判定するのですか?」


「事実を書くだけだよ」


「なら、旦那様以外が書いても同じ事実になるでしょう」


 結局、ペンシルベニアの回答はアーサーとケイレブが協議して作成し、俺は確認者に留まった。


 発送してしばらくすると、他植民地のある商人から警戒心を露わにした返事が届いた。


『なぜフィラデルフィアの一介の商会が、他植民地の政治状況を尋ねるのか。誰の権限で調査しているのか。回答は英国政府へ渡されるのか。これは反乱者の名簿を作るものではないか』


「ただの事実確認だっていうのに!」


 俺が頭を掻きむしると、ギデオンが冷たく言った。


「質問する者は、回答する者より多くの情報を得る。情報を集める行為は、それだけで権力になり得るのだ」


 俺はすぐに返信の手紙を書き、確認票に規程を明記した。


『回答は任意。個人名は公開しない。原本は現地保管とし、当方へは写しを送ること。植民地ごとの政治的優劣を判定するものではない。英国政府にも急進派にも名簿は渡さない』


 やがて、近くの植民地から回答が戻り始めた。


 ニュージャージーからの回答。


【東インド会社からの正式な茶割当:なし】


【茶船到着:該当なし】


【政治的反応:ニューヨークとフィラデルフィアからの新聞・一枚刷りが流入】


【港湾危機:なし】


 デラウェア三郡。


【東インド会社からの正式な茶割当:なし】


【影響:デラウェア川を共有するため、ポリー号問題と無関係ではない】


【水先案内:フィラデルフィア側の対応を参考にした者あり】


「船が来なくても、隣の港の事件で政治の空気が変わるのか」


 メリーランドからの回答にはこうあった。


【東インド会社からの正式な茶割当:なし】


【税関処理:該当なし】


【茶法への反応:新聞、商人間の議論、不買の呼びかけあり】


【町全体の統一方針:確認できず】


 俺は最初、これを【事件なし】とまとめようとしたが、アーサーが訂正した。


「事件がないのではありません。茶船がないのです」


「同じじゃないのか?」


「船が到着していないだけで、政治問題は存在しています」


 俺は表の欄を【物理的な茶事件】と【政治的な茶法反応】へ明確に分けた。


 マサチューセッツ、すなわちボストンからは複数の回答が届いた。


 俺自身の目撃記録はあるが、それだけを絶対視せず、現地の船員側、商人、法律家、新聞の回答を照合した。


【三隻】


【三百四十二箱】


【市街地港内への進入あり】


【税関申告あり】


【二十日期限進行】


【出港許可得られず】


【結果:全数破壊】


【船員死亡なし】


【船体への意図的破壊なし】


 という客観的な事実は一致していた。


 しかし、その評価は回答者ごとに見事に割れていた。


『正当な抵抗』


『暴徒による犯罪』


『避けられなかった破壊』


『計画的政治行動』


 俺は評価欄を無理に統合せず、そのまま併記した。


 ペンシルベニアの回答には、アーサーが事実を羅列していた。


【市街地港内への進入:なし】


【税関申告:なし】


【荷受人:受領拒否】


【帰航用補給:実施】


【結果:全数帰航】


【船員負傷:なし】


【超常的介入:なし】


 俺がその横に【成功】と書き足そうとすると、アーサーが無言でその文字を線で消した。


「結果欄へ評価は要りません」


「成功しただろ」


「質問は、成功したかではなく、何が起きたかです」


 俺は苦笑して引き下がった。


 サウスカロライナ、チャールストンからの回答が届き、俺たちの用意した用紙の限界が露呈した。


 茶船ロンドン号は十二月初めに到着し、二百五十七箱の茶を積んでいた。


 だが、荷受人が関税を処理せず、二十日の期限が過ぎた後、税関が茶を押収し、エクスチェンジ建物の地下へ保管したという。


 回答欄は奇妙なことになっていた。


【茶は陸揚げされたか:はい】


【町側は受領したか:いいえ】


【税は支払われたか:いいえ】


【茶は帰航したか:いいえ】


【茶は破壊されたか:いいえ】


【茶は誰の管理下か:税関】


「全部『いいえ』なのに、茶だけ陸にある……」


 俺は困惑した。


「旦那様の用紙は、帰すか壊すかの二択で作られていましたからね」


 アーサーが指摘する。


「保管という第三案か」


 ギデオンが補足する。


「町側が自発的に選んだ保管ではない。税関による強制的な押収だ」


 俺は項目をさらに細分化し、【物理的所在】【法的管理】【所有】【販売の有無】を分けることにした。


 確認票の書式を途中で変える必要が生じた。


「新しい用紙で全員へ送り直そう」


 俺が言うと、アーサーが止めた。


「最初の回答はどうします? 書き直してもらうのですか? 最初の質問が存在しなかったことにするのですか?」


 俺は手を止めた。


 初版を消さず、《共通確認票・第一版》として保存する。


 追加項目だけを《補足票・第二版》として送る。


 後から書式が変わったという事実も、そのまま記録として残す。


「質問を間違えた記録まで残すのか」


「回答だけでなく、当時何を尋ねられなかったかも、後で歴史の検証に必要になるかもしれません」


 ニューヨークからの回答には、こう書かれていた。


【船名:ナンシー号】


【船の到着:未着】


【結果:未解決】


 ナンシー号は悪天候で遅れており、まだ到着していない。


 俺は未来知識として、やがて四月に船が現れ、茶を降ろさずに帰航させられる結末を知っている。


 しかし、確認票へは書けない。


 アビゲイルが不思議そうに聞いた。


「旦那様は、どうなるかご存じなのですか?」


「知ってるかもしれないな」


「では、書かないのですか?」


「これは未来予想表じゃない。基準日までに確認された事実だけを書く紙だ」


 俺は全確認票に【回答基準日】を大きく記載させた。


 一月十日の【未着】と、二月一日の【未着】では、嵐、難破、別港への入港など、孕んでいる意味が全く変わってくるからだ。


「同じ質問でも、いつ答えたかが違えば、同じ答えじゃないんだ」


 ロードアイランドの商人からは、皮肉たっぷりの回答が届いた。


【正規茶の不買:あり】


【茶の流通:出所不明の茶は依然として流通】


 回答者は端にこう書き添えていた。


『正規茶を拒否した者が、密輸茶まで拒否しているとは限らない』


「愛国者だからって、茶そのものを飲まなくなったわけじゃないってことだな」


「税を払う茶を拒んで、税を払わない茶を飲んでいるなら、政治的には一貫しているのではないか?」


 ギデオンが言う。


「法律的にはただの密輸だけどな」


 大義と合法性と私的利益は、ここでも決して綺麗には一致していなかった。


 ヴァージニアからの回答には、逆に質問が添えられていた。


『この共通確認票は、どの植民地機関の承認によるものか。他植民地へ回答を共有する意図はあるか。今後、茶法以外の帝国政策にも使用するのか』


 ヴァージニアは他植民地との連絡を目的とする通信委員会をいち早く設置していた。


「待て。ペンシルベニアには、ヴァージニア型の正式な植民地間通信委員会がまだないのか?」


「はい。そのペンシルベニアの民間商会が、十三植民地へ同じ質問を偉そうに送っているのです」


 アーサーが平然と言う。


「……俺たち、正式な組織がない隙間を勝手に埋めてないか?」


 他の植民地からも、税関事件や船舶拿捕、港湾封鎖についても使えるようにしたいという依頼が届き始めた。


「茶法だけの用紙じゃなくなるぞ」


「ガスピー号の時点ですでに、事件確認の共通書式になっていただろう」


 ギデオンが面白そうに言う。


「お前が作った商会の紙が、本格的に政治の道具になるな」


 南部からの回答は、冬の天候や船便の遅れでなかなか届かなかった。


 俺が表の空欄に「反応なし」と書き込もうとすると、アビゲイルが【未回答】と丁寧に書き直した。


「回答が来ないことと、反応がないことは違います」


「何も知らないことまで、知っているふりをしないための欄だったな」


 ジョージアからの手紙には、短い返事の最後にこう注記があった。


『この回答をもって、植民地全体の意思とはしないこと』


 一人の商人の回答を、植民地の総意として扱ってはいけない。


 俺は各回答へ【回答者の把握範囲】を追加した。


 一個人、一港、一町、植民地全体としては未確認、など。


 二月中旬の基準日で、俺たちは一旦、十三植民地の暫定表を閉じた。


 すべての回答が完全に揃ったわけではない。


 届いた回答、未回答、回答範囲限定を含めて、その時点で確認できた状態を一度固定したのだ。


 茶船が正式に割り当てられた植民地。


 マサチューセッツ。


 到着済み、市街地港内、税関申告済み、三百四十二箱破壊。


 ペンシルベニア。


 到着済み、市街地港内へ入らず、税関申告なし、約七百箱帰航。


 サウスカロライナ。


 到着済み、二十日期限経過、税関差押え、二百五十七箱を陸上保管。


 ニューヨーク。


 未着、帰航方針あり、結果未解決。


 東インド会社からの正式な茶割当が確認されていない九つの植民地でも、政治的反応の有無や強度はそれぞれ異なっていた。


 一枚刷りを作ろうとやってきた印刷業者が、表を見て尋ねてきた。


「ヴァレンタイン氏。結局のところ、どの植民地の対応が最も勇敢で立派だったのです?」


「そういう順位表じゃないんだよ」


「しかし、ボストンは破壊し、フィラデルフィアは帰し、チャールストンは保管した。どれが正解です?」


「条件が違うのに、一つの正解を選べるわけないだろ」


 もし、フィラデルフィアで船を市街地へ入れ、税関申告し、二十日期限を進めていたら、ボストンと同じ破壊へ進んだ可能性は十分にある。


 逆にボストンで、入港前に下流で止め、補給と水先案内を確保できていれば、フィラデルフィアと似た結果になったかもしれない。


「人間の人格を入れ替えなくても、条件を入れ替えれば結末が変わるかもしれない」


 俺が言うと、ギデオンが釘を刺した。


「逆に言えば、手順だけを別の場所へ移しても、必ず同じ結果になる保証はないということだ」


 それに、表には載らないものも多すぎる。


 群衆の怒り、船長の恐怖、税関吏の責任感、私刑への嫌悪。


「全部、数字や選択欄には入らないな」


「だからこそ、原文の手紙も残すのでしょう」


 アーサーが言う。


 共通票は原文の代わりではない。


 比較の入口にすぎない。


 俺は完成した表を眺めた。


 十三植民地を同じ大きさの行へ並べると、人口も港の規模も本国との関係も違うことが見えなくなる。


「同じ幅の欄へ書けば、同じ重さの植民地に見える」


 ギデオンが指摘する。


「表は便利だけど、現実を平らにしてしまうな」


 俺は各行へ、


【人口・港湾規模・回答範囲は異なる】


 という注意書きを朱書きで付け足した。


 十三植民地分の回答がヴァレンタイン商会へ集まり始めるのを見て、俺はそれを厳重に自分の知庫へ保管しようとした。


「また、お前が唯一の完全な記録を独占するつもりか?」


 ギデオンが問う。


「安全だからな」


「お前の城にしか完全な記録がなければ、十三植民地はお前に聞かなければ全体像を知れなくなるぞ」


 俺は教訓を思い出し、《原本分散保管規程》を定めた。


 原本は回答地に残し、同じ写しを北部、中部、南部の複数地点へ送る。


 これで、俺の商会が燃えても全記録が消えることはない。


 回答内容は一致しなくても、出典を書く、基準日を書く、不明を不明と書く、訂正前を消さない、といった間違いを直す方法だけは共有され始めていた。


「意見は揃っておりません」


 アーサーが言う。


「揃える必要はない。揃ったのは、間違いを直す方法だ」


 二月下旬。


 ロンドンの取引先から、深刻な書状が届いた。


 ボストンでの茶の破壊の報せが一月に英国へ到達し、英国政府は二月に入り、事件関係者をどう処罰できるかについて法的な照会を始めているという。


 だが、英国側が血眼になって注目しているのは、ほぼボストンだけだった。


 誰が破壊したか。


 誰を処罰できるか。


 町や植民地へどう責任を負わせるか。


 財産をどう賠償させるか。


 フィラデルフィアの帰航も、チャールストンの保管も、茶船が来なかった九植民地の反応も、彼らの中心議題にはなっていない。


「十三行を同じ表へ並べたのに、英国にはボストンの一行しか見えていないみたいだ」


 机の上に、俺側の質問と、英国政府側の質問を並べる。


 俺の質問は、


「何が起きたか」


「どの段階だったか」


「どんな出口が残っていたか」


 英国政府の質問は、


「誰を処罰できるか」


「誰へ賠償させるか」


「どの権限で反抗を抑え込むか」


「同じ事件について尋ねているのに、随分と違う質問だな」


 ギデオンが言う。


「欲しい結論が違うからだ」


 壁に貼った大きな地図と、十三行の表を見上げる。


 破壊、帰航、差押え、未着、該当なし、不明、回答範囲限定。


 どの行も違う。


「結局、十三植民地は一つの答えを出しませんでしたね」


 アーサーが言う。


「当たり前だ。まだ一つの国じゃない」


「では、この確認票に意味はあったのでしょうか?」


 俺は、十三行を見つめながら答えた。


「同じ答えを出す必要はない。でも、同じ質問へ答えれば、自分たちがどこで違っているかは分かる」


 ギデオンが問う。


「違いを知ることが、統一になるのか?」


「統一じゃない」


 俺はニューヨーク欄の【未解決】、チャールストン欄の【税関保管】、ボストン欄の【全数破壊】、フィラデルフィア欄の【全数帰航】を見た。


「同じだと思い込まずに、同じ机へ座るための準備だよ」


 十三植民地へ同じ質問を送った。


 返ってきた答えは、一つとして同じではなかった。


 茶を壊した港。


 茶を帰した港。


 茶を税関の地下へ閉じ込めた港。


 まだ茶船が海の上にいる港。


 そもそも茶船が向かっていない植民地。


 同じ法律を突きつけられても、同じ場所には立っていなかった。


 それでも、違う答えを同じ紙の上へ並べることはできた。


 国になる前に必要だったのは、十三植民地が最初から同じ結論を持つことではない。


 互いに違う結論を持っていると、同じ形式で確認できることだった。


 俺たちが違いを並べている頃、海の向こうでは、別の質問が作られ始めていた。


 誰を罰するか。


 誰に弁償させるか。


 どの港を閉じれば、二度と逆らわなくなるか。


 十三植民地へ送った俺の質問は、違いを知るためのものだった。


 英国がボストンへ向け始めた質問は、答えを一つにするためのものだった。


最後までお付き合いいただき感謝します。


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