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Thread of Fate  作者: 壱川紬
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一針目


人の人生は、糸でできている。


誰もそれを見ることはできない。


誰もそれに触れることはできない。


だから誰も気づかない。


誰がその糸を紡ぎ、

誰がその糸を引いているのか。


 


ぼんやりと夜空を見上げる。


何かを考えていたような、

何も考えていなかったような。


曖昧な時間。


不意に通知音が鳴り、意識が引き戻された。


橘絢人は手元のスマートフォンへ視線を落とす。


動画。

ニュース。

トレンドランキング。


画面いっぱいに流れ続ける情報。


世界は今日も、誰かの話題で溢れていた。


 


ふと、イヤホンが指先から滑り落ちる。


「あ」


小さく声を漏らし、絢人はしぶしぶ腰を屈めた。


その時だった。


「……え?」


足元に見慣れないマークがある。


丸みを帯びた黒いハート。


ポップなデザインにも見えるそれを、何気なく見下ろす。


だが、よく見ると妙だった。


ハートの中心を一本の矢が斜めに貫いている。


しかし、矢が通ったはずの場所だけがぽっかりと抜け落ちていた。


傷ではない。


まるで最初から存在しなかったかのように。


心臓の核だけをくり抜かれたような、


不気味な空洞。


 


気になった絢人はスマホを取り出し、そのマークを撮影する。


そしてSNSアプリ《Spindle》を開いた。


『なんか変なマークあるんだけど、これ何?』


投稿ボタンを押す。


その瞬間。


近くにいた誰かのスマホが鳴った。


続いて、もう一人。


また一人。


通知音が連鎖するように響き始める。


 


ピコン。


ピコン。


ピコン。


 


周囲の人々が画面を覗き込み、

何かを共有し始める。


ざわり、と空気が揺れた。


まるで見えない何かに囲まれ、

閉じ込められていくような感覚。


 


この広い空の下で。


一つの投稿は瞬く間に広がっていった。


夜空を埋め尽くす星々のように。


 


そして。


絢人のスマートフォンへ向かって、


一本。


また一本。


光る糸が伸びる。


 


やがて十本になり、


百本になり、


千本になり。


 


気づけば何万本もの糸が、


彼の手の中にあるスマートフォンへと集まっていた。


 


――だが、絢人は気づかない。


このたった一つの投稿が。


自分の運命を大きく変えようとしていることに。

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