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3『午前2時15分、葦原駅にて』

夢日記を通してみた一つの世界のお話です。

ゆっくりと目を開けると、霧が立ち込めるあの駅のホームに立っていた。今日も相変わらず人が居る。


此処は葦原駅。死後の世界らしい。人は死ぬと地獄か葦原か天国に行くそうだ。葦原はどちらかと言うと天国のよりらしくて、ただただずっと広い世界が広がっていて、其処に人々が生前宜しく住んでいる。


葦原は微罪、または生きていく為には仕方ない犯罪を反省している者が行くという。地獄は罪を犯した者が行くところだが、天国は全く罪を犯していない人間が行く。


故に天国はこの三つの世界の中で一番狭く、海とビルと山しかない。それで満足するらしい……が、どうにもこうにも、天国連中とは気が合わない。


ただ黙って笑っているだけだし、正しければ何でも良いっていうのは、ねぇ。


だから葦原の連中が天国に旅行に行くことが多い。生前見れなかった龍とか、空に駆け巡る金色の線を見る事が出来るから。


何より天国のあの大っきいテーマパークにある湖が良い。湖の底に何か大きい遺跡があるからだ。……だけど天国連中はあんまりそれに対して思っていることはない。正しければそれで良いから。



さて、420円手元にある。地獄は行かない方が良いし、天国に行ける金額なら行った方が良いけれど。葦原は地下が多いし気が滅入るからなぁ。


でもいつまでも電車が来ないということは、あの男の命令を私は聞かなくちゃいけないということで。


夢の中に出てくる男と契約した。……らしい。死後の世界に行きたいと願った。……らしい。


夢の中の男は茶髪で、胡散臭い笑みを浮かべて、その上ムラサキの導士服を着て、『閻魔』と名乗るどっかで聞いたような事があるような男なのだけれど。


これに関してはあんまり気にしていない。私の夢のナビゲーターは、皆こんな感じで『何かの人物』が私を誘うからだ。


と、思っていたのだけれど。


そういう訳にはいかないらしい。実際夢を私に見させ続けているのはこの男なのだし、(またはこの男の皮を被った『何か』)ある約束をしてしまったのだ。


それは、私が× × × の× × × をする代わりに、私が夢で死にそうになった時にこの男が助けてくれる、というもの。


事実、名を叫んだら助けてくれたし(それは死にそうな時に限ってだけど)、いつのまにか背後にいるのは凄くビビるし怖いけれど、いざと言う時は助けてくれるし。


彼無しでは、私の夢は終われない。その役目はランタンを持った赤い服を着た少年の役目だったはずなのに。


× × × の× × × をする、の意味は知らない。男は意味なんて知らなくて構わないと言う。私も知らなくて良いと思った。だけど、葦原の街を一つ壊してしまった時に気付いたのだ。


目の前で死んだ、あんまりにもリアリティしかないその光景に、私は許されぬ事をしたのでは、と。


最近、あの男は私の夢には現れない。でも私の夢を始めているのはアイツなのだ。葦原の地下鉄に居る紅茶狂人が淹れた紅茶を飲む。


砂糖を入れていないのに理想の甘さというのは大変結構だが、これが死の甘さなんていうのは嫌だ。(私は死後の世界に居るのだから一時的に死んではいるのだが)


今でも覚えている。夢だと分かって、鮮明な光景。真っ暗闇に一つの声が響いていた事を。『死後の世界がそんなに知りたいのなら、連れて行ってあげましょう。』


ウソツキ。元々そちら側に手を招いていたクセに。夢を終わらせなければ。終われ、終われと願う度に。あの男は手招く。暖かい腕で向こう側へ引き寄せる。


……いや、お前は『あの男』じゃない。『あの男』はもっと、いや、お前は、本当は誰なんだ?


そう叫んでも帰ってくる言葉は無い。ジャックの世界が狂っていると罵っていた私を返して。この世界に違和感を感じ出した私はもういいから、お願いだから、私を返して。


葦原を望み、そして忌む。愛している。私はあの世界が好き。そう思ってしまうのが恐ろしくて、そしてあの男を望んでしまうのが怖い。


どうして名を呼んだら出てくるの。お前は私が死にそうになった時に現れるんじゃ無かったの。私は、葦原でも死ぬの?お願いだからそんな目で見ないでよ。お前が呼んだんでしょう!?


葦原で死んだらまた同じ事の繰り返しって、分かっているからって助けるのを止めないで。お願いだから、私を助けてよ。アンタがこの夢に連れて来たのなら、私の事も知ってるでしょ。私は明晰夢をリアルタイムで過ごしてしまうから、だから……。


どれだけ助けを呼んでも、目の前の男はうっそりとした視線で私を見詰めるだけ。ぼろぼろと涙を零せば無視する癖に、手を伸ばせば嬉嬉として痛いくらいに握る。


ただただ、助けて欲しいだけ。それだけなのに。私は葦原で楽しく過ごせればそれで良かった。利用されても良かっ、た、けれど……。


いい加減冷たい地下から抜け出さなければ。葦原は恐ろしい。どれだけ関係の無い夢でも『葦原を現実として』認識している、狂った脳みそを持っている私は、何処までも夢と夢を『あの駅』で繋いでしまう。


何処の夢でもあの私の夢を終わらせる力を持ったランタンを持つ少年と出会わない。葦原では出会えないのだろうか。


どれだけ葦原の事を忘れようとしても、ずっと夢の中で木霊する『お前は葦原を知っている』の言葉で忘れられない。私は、葦原から出られない。


終わらせなければ。そう思って目を瞑っても葦原を望んでしまう。なんと愛しき葦原の中つ国。今度こそ、あと一回だけ、を私は何度繰り返せば良いのだろう……。

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