1.『満月考』
夢日記エッセイです。しくよろ〜。
目が覚めた。朝はまだ先の様だ。携帯を見れば午前3時48分。目はガンギマリ。
眠れない夜には手順がある。独自の取扱説明書だ。……さぁ、満月考を始めよう。
満月考のやり方は簡単。
①中途覚醒をする。
②シャッターを開ける。
③月が見えたら本を出す。本はなんでもいい。私は大抵李白集だ。後はリビングから水を持ってこよう。
本は読んでもいいし読まなくてもいい。個人的おすすめは物憂げに見つめる事だ。
……満月考は、成長期が終わり始めたタイミングで編み出した夜をやり過ごす為のものだ。そして、成長期らしい尖った感覚で名付けた特に意味もない夜の受容のことである。
幼い頃からハリネズミの様に神経質で寝つきが悪く、街の広場の噴水くらいあっさい眠りの私は、2時頃に目が覚めることがよくあった。
子供の頃は丑三つ時を怖がっていれば勝手に眠れたが、成長期を過ぎると怖がろうが面白かろうが全く眠れなくなる。高校後半になればテスト期間は1時間に1回目が覚める覚醒状態が誕生した。──武士だったら重宝されたに違いない。
紆余曲折あり、眠れないのなら寝るなということでこの満月考を始めたわけである。
何をする訳でもなく、何かを思考する。例えばこんなのはどうだろう。私は考えることが好きだ。何かに紐づけて連鎖的に思考する。やめた方がいい癖の一つだ。
さっき水を持ってきた。これでやってみよう。
水は英語でwaterという/開国してから日本では似非英語が流行った/ボトルのような発音だった/外国人も面白がって間違った発音を教えることも多かった/長崎の出島では許可された国のみが交渉を許された/西洋諸国/トランプはかつて西洋かるた/トランプを初めて作ったのは任天堂/社名の由来……
……こんな感じである。常日頃頭がこんなだからお前は気を病むのだと……おっと、別の小説が出てきた。良くない思考である。
思考といえば(諦めてもう少し付き合って頂きたい)侵入思考というものはご存知だろうか。
望まない非自発的な思考、イメージ、不愉快な考えが思い浮かぶ……トラックがいきなり突っ込んできたり、自分が目の前の人を押したりとか、そんなのである。
アレに別の侵入思考をぶつけたらどうなるのか、試したことがある。結果、思考が終わってめっちゃ良かった。多分思考することになるから途切れるのかもしれない。
……と、満月考はこんな事を繰り返す。十分しか経っていない時もあれば、これだけで三時間経っている時もある。そして決まって眠る前、空に浮かぶ月を眺める。
月に魅入られた者は狂う、なんて伝承が西洋にあったが、アレは朝型の嫉妬だと思っている。黒に燦然と輝く満月はとても美しいし、朝焼けに飲まれる薄氷の月も美しい。間違いなくアレは嫉妬だ……そんなことを、月が沈むまでずっと思っている。