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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

おとぎ話をモチーフにしたショートショート集

神通力を奪われ奴隷にされた女神の怒りが頂点に達した時、女神は覚醒する~復讐はとろ火でじっくりと~

作者: 茜子

 木こりは神秘の泉の周りで木を切っていたが、ある日斧がすっぽ抜けた。

 すると、頭に斧が突き刺さった女神が泉の上に現れる。


 木こりは恐縮して、地面にひざまずき、女神にあやまった。


「よい、よい、わらわは寛大な神じゃ。このくらい、どうという事はない。

 だが、斧は鉄製で魔力を吸収する。それがわらわの神通力を封じてしまったようじゃ。

 すまぬが、お前の手で斧を抜いてもらえないだろうか?」


 木こりは、何と優しい神様だろうと感動し、斧に手を伸ばしたが、斧はビクともしなかった。

 どうやら、斧は魔力を吸収すると同時に強力な吸引力を産んでいるようである。


「女神様、恐れながら申し上げます。斧が抜けません。私も長年木こりをしているので、腕っぷしには多少の自信がありますが、まったく抜ける気がしません」


「弱ったのう、このままではわらわも困る。わらわはこの泉と村を守る女神なのに、務めが果たせないではないか。何とかしてくれ」


「私も一本しかない斧が無くなると、明日から仕事が出来ません。弱ったなあ。

 そうだ!世界中から勇者、英雄を探すのです。きっと斧を抜ける人間が見つかります」


「そうは言っても、わらわは泉の女神じゃ。この泉を出ることは出来ん」


「お任せください。私がこの泉に斧を抜ける人間を集めてごらんに入れます」




***




 初めは純粋に、斧を抜ける者を探すための呼びかけだった。木こりは村を駆け回り、力自慢の村人や旅の冒険者に声をかけた。挑戦者たちは次々と泉に集まり、斧に挑んだが、誰一人として成功しない。


「おりゃああ!だめだ、動かない!」

「こんなに堅く刺さった斧、見たことがない!」

「これが抜ける奴がいれば、間違いなく英雄だな。」


 次第に斧をめぐる噂が広まり、町や遠方からも挑戦者が現れるようになった。

 ある日、一人の吟遊詩人が泉を訪れた。そして泉で見た光景を面白おかしく語り始めた。


「この斧は、古の神々が遺した秘宝なのだ! 抜いた者は世界を救う力を得るという!」


 話は瞬く間に広がり、「伝説の斧」として語り継がれた。そこで木こりは考えた。


「これ、もしかして商売になるんじゃない?」





 木こりはショーを開始した。挑戦者からは参加費を取り、見物人からは見物料を取った。泉のそばには屋台が並び、泉の周りでは、特製のお菓子や記念グッズも販売され、どんどん賑やかになっていく。


「はい、挑戦記念の女神斧ペンダント、 1個銅貨 3枚だよ!」


「こちらは斧型のチョコレート菓子! 女神の加護付き!」


 さらには、泉の水を瓶詰めして「泉の奇跡の水」として販売。挑戦に失敗した者たちにも絶大な人気を博した。



「はい、順番ですよ。並んで、並んで。そこ、横入りしない」


 参加者やら見物人が泉の周りに一杯だ。わいわい、がやがや、うるさい。


「おーい、伝説の斧の挑戦者が並ぶのはこの行列でいいのか~?」


「斧が抜けたら天下の英雄になれるんだよな?」


 元木こりの興業主は、伝説の斧の挑戦者たちに叫ぶ。


「挑戦者は、参加費として銀貨 1枚を払ってくださーい」


 彼は、見回りのアルバイトに念を押す。


「見物客は銅貨 1枚だ。きちんと取れよ。只見はさせるな!」


 木こりは、女神の近くの席に座る見物客に向かって叫ぶ。


「特等席は、銀貨 1枚ですよ~。

 女神様、表情硬いですよ。もっとにっこり笑ってください」


 アルバイトの女の子が見物客の間を歩く。


「女神せんべいに、女神饅頭いかがですか? 泉の水で炒れたお茶いかがですか?」





「女神様、これは斧を抜くための資金集めです! もっと、笑顔でお願いします!」


 一方で、斧が刺さったままの女神様は、日々自分が見世物にされていく状況に心を痛めていた。


「木こりよ、これはどういうつもりじゃ? わらわをこんなふうに使うとは、話が違うぞ!」


 女神様は怒りと悲しみをこめて問い正したが、木こりはそれを聞き流した。



 最初は「女神様を救うため」という言葉に納得していた村人たちも、次第に木こりのやり方に疑問を持ち始めた。


「これはさすがにやりすぎだろう」「女神様に失礼ではないか」――心ある村人たちからそうした声が上がり始めたのだ。


 しかし、木こりは自分の地位を守るため、強引な手に出た。彼は元冒険者で力のある悪党を雇い、村人たちの反対を力で抑え込んだ。さらに、商人たちには「保護料」と称して金銭を要求し、逆らう者には暴力を振るった。


 それだけではなかった。ショーに参加した勇者や英雄の中で、本当に斧を抜けそうな人が現れると、木こりは仲間を使いその人をだまして、参加させないようにした。


「斧を抜かれたら自分の権力が終わる」と恐れたからである。


 こうして、木こりは村の実権を握り、村長の座にまで登り詰めた。村は次第に木こりの支配下に置かれ、かつての平和な暮らしは失われてしまった。


 女神様は泉の中から村を見つめ、心を痛めながらも何もできなかった。彼女はただ、いつか自分を助け出し、この村を元の姿に戻してくれる者が現れることを信じていた。



 木こりの興業は日ごとに規模を拡大していった。挑戦者の列は数百人にもなり、ついには王国中の英雄や騎士団が集結する騒ぎとなった。泉の周囲には特等席が設けられ、金貨を支払えば至近距離で斧を観賞できるサービスも始まった。


「特等席のお客様には、女神様の直筆サイン入りパンフレットをプレゼント!」


 女神は心底呆れた様子で、木こりを見つめた。


「木こりよ……お前、本当に斧を抜く気があるのか?」


 木こりはにっこりと笑った。


「もちろんですとも! 抜ける日を楽しみにしていますから!」


 ある日、とうとう国王が現れた。国王は噂を信じ、斧を手に入れることで自らの王位を不動のものにしようと考えたのだ。しかし、国王が全力で挑んでも斧はビクともしなかった。


「これは……本当に伝説の斧なのだな!」


 国王の挑戦がさらなる噂を呼び、ついに泉の周りは祭りのような騒ぎとなった。木こりは興業で得た富を元に屋敷を建て、使用人を雇うまでになっていた。元は筋肉質だった木こりは、今や肥満体で腹は出てきたが、これも貫禄がついたと喜ぶ始末だった。


 村も見物客が増えたことにより宿屋、食堂、土産物屋などが増え、大いに栄えてはいった。


 女神が文句を言おうもんなら、逆に木こりに逆ギレされる始末であった。


「泉の女神が村や村人に尽くすのは当たり前だろう。神の力を失った今、勤労で恩を返すのが筋だ!」


 さらに、木こりは泉にカップルがコインを投げると結ばれる、というトレビの泉のような噂を流して、その投げ銭を女神様に集めさせる。


 女神はただただ疲れ果てていた。朝から晩まで、泉の底に溜まった投げ銭を拾い集めたり、泉に投げ込まれたゴミを回収したりして過ごす日々だ。泉から離れることもできず、彼女の神通力は斧のせいで完全に封じられている。


 木こりの扱いは日に日にひどくなる一方で、女神は涙にくれ、何度も「いっそ、この泉に身を投げてしまおうか」と思うことがあった。




 そして、ある夜、木こりは越えてはならない一線を越えた。


「斧の刺さったお前は、ただの人間の女と変わらん。色んな美人との楽しみも味わいつくしたし、たまには女神様から、私にサービスしてもらいましょうか」


 木こりは好色な表情を顔に浮かべて、女神にゆっくりと近づいていった。


「あんたほど美しい女は、人間にはいないかならな!」


 木こりは女神の顔に右手を伸ばした。


「実は、お前をどうしても抱きたいという需要は、王侯貴族の中にも多くてな。

 その前に俺が味見するという訳さ。昼はショー、夜は夜伽で、アンタが稼いでくれると、こりゃ、笑いが止まらないぜ」


 何という、とんでもないことを言う下郎だろう!女神の怒りは頂点に達した。しかし、斧に力を封じられている女神には逆らう手段はなかった。もし、命を断つ手段があれば、このとき女神は迷いなくそうしだろう。


 その時である。斧から「チャージが完了しました!」というメッセージが流れ、斧が女神の頭からコロリと落ちた。


 女神はたちまち神通力を取り戻した。






 朝の光が差し込む泉のほとりに、村人たち全員が集まっていた。泉の女神が語る大事な話があるというのだ。


「皆の者、聞いておくれ。わらわの頭に刺さっていた斧が抜けた。これで、もうこれまでのようなショーを開くことはできん」


 女神の言葉に、一瞬の静けさが村を包んだ。しかし次の瞬間――


「「バンザイ、バンザイ!!」」


 村人たちの歓声が響き渡った。大多数がこの知らせを喜びましたが、中には不安な表情を浮かべる者もいた。ショーによって村が賑わい、外から人々が訪れるようになっていたため、これが無くなることで村が寂れるのではないかと心配していたのだ。


 そんな村人たちに、女神は優しく微笑みかけた。


「心配はいらぬ。わらわはこの村の守り神じゃ。これからも、村の皆が平穏に暮らせるよう手助けをしよう」


 村人たちはホッと胸をなでおろした。

 本当ならば、女神は怒りに任せて村全体を滅ぼしてしまっていたかもしれない。

 しかし、斧にほとんどの怒りのエネルギーを持っていかれたため、女神はなんとか務めを果たすことができたのだった。






 泉の村はかつて静かな場所だったが、今では活気あふれる観光地だ。観光の目玉は「泉の女神の伝説の斧ショー」から、「新しい出し物」が話題をさらっている。村人たちは全力でこのショーを盛り上げており、観光客の笑い声が途切れることはない。


 舞台は村の中央広場に設けられた特設リング。観客席は朝から大混雑。観客たちは期待の目を向ける。


「さあ、始まるぞ!」


 村の司会役を務める鍛冶屋のエルヴィンが声を張り上げる。


 木こりが斧を放り投げると、泉が青く輝き始めた。静けさが広がり、一瞬、観客全員が息をのむ。そして……女神、現る!


 泉から登場するのは、優雅な衣装をまとった美しい女神。しかしその手には、どう見ても場違いなチェーンソーが輝いている。


「お前の斧はこれか?」


 女神は微笑みながらチェーンソーを高々と掲げる。その刃がギラリと光ると、村の空気が一変。観客たちは期待の歓声を上げた。


「違います!普通の斧です!」


 木こりは叫ぶが、女神は聞く耳を持たない。


「なんと正直な木こりじゃ……それでは、このチェーンソーもくれてやろう!」


 チェーンソーが豪快な音を立てて動き出す。


「頑張れ、女神様!」


「逃げろ、ジョージ!今日も持ち堪えろよ!」


 チェーンソーを振り回す女神と、それから必死で逃げる木こりのジョージ。村の狭い路地を縦横無尽に駆け巡る二人に観客たちは笑いが止まらない。


「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ、助けてくれぇぇぇぇぇぇ!」


 木こりは、路地を曲がり、干された洗濯物の下をくぐり抜けた。追いかけてきた女神が洗濯物に引っかかり、一瞬立ち止まる。


「ふふっ、なかなかやるじゃない!」


 木こりはその隙に全速力で走り出したが、次の瞬間、チェーンソーのエンジン音がさらに大きくなる。


「待ってくれ、冗談だろ!?」


 振り向くと、女神は空を飛びながら木こりを追いかけていた。村人たちはその光景に拍手喝采だ。木こりのシャツが高速のチェーンソーの歯に触れ巻き込まれて、一瞬にして粉々になる。


 最終的に、木こりは村の端にある大きな水桶に飛び込み、かろうじてチェーンソーから逃げ切った。


「今日も逃げられたわね、木こり。でも次はどうかしら?」


女神はチェーンソーのスイッチを切り、にっこりと微笑む。その顔を見た木こりは、全身を震わせながら水の中で息をついていた。






 ショーの人気はうなぎ上り。村は観光収益で潤い、新しいお土産屋や宿泊施設が次々にオープンしている。観光客の間では「チェーンソー・チェイス」のTシャツが飛ぶように売れ、女神のミニフィギュアは子どもたちに大人気だ。


 木こりはというと、体型も木こりをしていたころ以上にスマートになった。


「もういや、こんな仕事、やめたい」


 時々泣き出す。だが、村人はそんな木こりの願いはガン無視だ。


「何言ってんだ、村の発展のため、これからも全力で頑張ると言ってただろう」


「そうだ、そうだ。女神様だって、村の発展のため協力してくださってるんだぞ。お前が頑張らなくて誰が頑張るんだ」


「そんな、他人ごとだと思って……」彼は涙ながらに呟く。


「お前の代わりはいくらでもおるからな、本気で逃げろよ!」女神は嬉しそうにささやく。


 そうなのだ。女神様の神通力は、木こりとその仲間だけこの村から外には出られない、大きな結界を張ったのである。


 そして今日もまた、泉ではチェーンソーの音が響き渡る。


木こりに対する復讐はどうでしょうか?生ぬるいとか、こうして欲しかった、とかコメント頂けると今後の参考になります。


もしも、少しでも「面白かった」「良かった」などと思ってくださいましたら


ブクマや評価頂けると励みになります……!





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