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小椋夏己の盛り合わせ  作者: 小椋夏己
2021年 8月公開作品
3/68

情報と欲望の海

「チャンスだ……」


 この夏は1年遅れの大きな運動会があり、その都合で休日を動かして4連休となっている。


「部屋を片付けるチャンス!」


 私の部屋は汚い。いわゆる「汚部屋」とまではいかないが、とにかく物が多い。

 なぜかと言うと、私は「捨てられない女」だからだ。


「だが、そんな私ともこの4連休でおさらばだ!」


 そう、世の中で受けてる断ったり離れたりするやつや、ときめくやつ、色んな知識を今までテレビや雑誌やネットで蓄積しているのだ。


「ためてたのは物だけじゃないのよ?」


 夏なのでねじり鉢巻の代わりにタオルをきりりと巻き、汚れてもいいヨレヨレのTシャツ、穴が空いたパンツで身を固め作業に取り掛かる。


「まずは服からね」


 服からやるのが処分するコツと皆さん口を揃えておっしゃいます。なるほど、1つ1つが大きいからね。

 この1年、ではちょっと心がざわつくので、2年だ、2年着てないのはこちら。青いビニールにひょいひょいと入れていく。


「これは、ちょっときれいだしなあ」

 

 迷うのは「保留箱」へ入れる。


「これは現役、レギュラー」


 クローゼットに戻す。


 延々と作業を繰り返すが、


「思ったより減らないなあ……」


 処分の袋が思ったより膨らまない。クローゼットもタンスの中もまだパンパン。


 このあたりでちょっと心がくじけてきた。


 だって、どの子も思い出いっぱいの服なんだもの。それに、まだ着られそう。そういうのが悪いと分かってはいるけど、だめなんだよなあ。


「よし、心を切り替えるためにいらない紙類だ」


 紙類はかさは減らないが、必要のない書類は分かりやすいので処分しやすい、はず。


 いらないレシート、ぽい! 通販の領収書、ぽい! 読み終わった雑誌……ぽい、しにくいけど、これはぽい!

 

 …………


 いや、ちょっとこの記事だけ……うーん、捨てにくいから、ここだけ切るか。


 じょきじょきじょきじょき

 

 よし、他の……あ、この記事読んだっけ? よし、今度こそぽい!


「本はちょっとこのへんにしとくか」


 予定では読まなくなったマンガもぽいする予定だったけど、今出してきたら絶対読んでしまう。なので後回し。


「よし、いらない文房具だ」


 インクが出なくなったサインペン、ぽい! ノックが壊れたボールペン、ぽい! 今は使ってない万年筆……


「うーん、これなあ……」


 あいつにもらったんだよなあ。もう会わなくなったあいつに。


「いや、なあ……もう別れたやつにもらったもんだし、思い切ってぽい!」


 …………


「でもなあ、物に罪はないんだよ、うん」


 文具箱にそっと戻す。


 そういうこと繰り返したら疲れてきた。ちょっと休もう。


「ご飯作るのもめんどくさいしなあ、なんか出前頼むか」


 パソの前に座って注文。ピザとコーラが来るまで一休みだ。


 まもなくおいしいものがやってきた。はくはくと食べて体にも心に栄養を与えたら、また続きがやれる気がした。


「でも、食後の休憩」


 今度は寝転んでスマホぽちぽち、してたら……


「ぐー……」


 寝てしまった……


「まあ、まだ初日だし、いいよね」


 あまり自分を追い詰めてもいけない。ゆっくり、気持ちに整理をつけながら処分作業を続けよう。


 夕方、まだちょっと早いかなと思ったけど、休みの日ぐらいしかゆっくりお風呂に入れない。作業を終えてバスタブで半身浴、連休初日を満喫した。


 2日目の朝。いつもなら仕事に行くのに起きる時間だが、たまの休み、もうちょっとゴロゴロしたい。


 いつもよりのんびり起きて、ゆっくり朝食を食べた。


「よし、じゃあ2日目を始めますか!」

 

 昨日一度中断した服からまた始める。


 今日は昨日よりちょっとリズムよく進んだが、予定よりは進んでないかな。


「まあまだ残り半分あるしね」


 3日目も2日目と同じで1日が終了した。


 そして最後の4日目。


「明日からはまた仕事だ、今日はがんばらないと!」


 日曜日だがいつもと同じ時間に起き、せっせせっせと作業を進める。おそらく、4日の中で一番はかどったと思う。


 お昼はカップラーメンでとっとと済ませ、とにかく作業を進める。


 夕方になり、汗だくで部屋を見渡し少し得意。


「に、なれると思ったのになあ……」


 おかしい……青いビニールはいくつだ? 6つ、7つ、8つは出てるのに、部屋の中があまり変わった気がしない。


「そ、それでもあれよ、こんだけ出てるんだからゴミの日にこれを出したらスッキリよ」


 ゴミ袋8つってことは、4日だから1日2つか。

 

「紙ゴミとかはあんまりかさは減らないからねえ」


 汗だくで疲れ果て、とりあえずぼーっとテレビを見て休むことにする。なんか適当にご飯食べて、お風呂入ったら今日はもう早く寝ないと、明日からまた仕事だ。


 テレビをいつものチャンネルにしたら、アイドルがあっちこっち開拓する例の番組をやっていた。


「日曜日はこれがないとねえ」


 毎週の楽しみ、ない週はぽっかりと穴が空いたような気がしてしまう。


 今週は私が好きな島の開拓をやっていた。

 いつもいつも思うが、よくまああれだけ漂着物だけでうまく色んな物を作るよね。二十年の積み重ねがあるからだろうけど、感心してしまう。


 今週は特に大物を作っているので見入ってしまう。あれもこれも、海から流れ着いた物なのよねえ。


「しかし、いつ見ても漂着物の多い浜だこと」


 あれは、片付けても片付けてもどうしようもないんだろうな。だって、島の周囲が全部海で、その周囲から全部流れ着くんだもの。


 そこまで考えてハッとした。


「私の部屋も……」


 どうして物が多いんだろう? どうして片付かないんだろう? いつもいつも思ってるけど、それはやっぱりどこかから流れ着くからなんだろう。


 仕事帰り、ふっと立ち寄った雑貨屋でかわいいにゃんこのカップを買った。それは今、使わずにビニールに包まれたまま押入れで眠ってる。


「いつか、いいことがあったら使おう」


 そう思って壊れないように、としまったんだった。


 ネットサーフィンしてる時、ふっと目に留まったおしゃれなバッグ。


「ちょっと高いけど、お出かけの時にいいよね」


 ポチッとな。


 買ったはいいが、今はお出かけしにくくて、箱に入ったままやっぱり押入れ。


「この本、面白そう」


 今は本屋さんをうろうろすることがないもんで、大抵はネットでポチって買ってしまう。


 で、来たけどちょうど仕事が忙しい時期で、そのまま読まずにどこかに置いた。

 

 ため息が出る……


「私の部屋はあの島と一緒なんだなあ」


 情報と欲望の海に取り囲まれたワンルームの部屋、気づけば何かがこの部屋に入ってきてる。


「これじゃあかん……」


 ポツリと言う。


 いや、知ってたのだ、分かってたのだ。分かっててもついつい入れてしまうのだ。


 ゴミ袋8袋分減らしたとて、また同じぐらいすぐ増える。


「これじゃあかん!」


 が、もうタイムアウトだ。


「よし、今度はお盆休みだ! どうせ今はどこにも出かけられないもんね」


 冷蔵庫から缶ビールを持ってきてプシュッと開ける。

 

 目をつぶって喉を潤す炭酸に身を預けながら、周囲を取り巻く海の、波の音を聞いていた。

※投稿サイト「ノベルアップ+」で2021年「夏の5題小説マラソン・第三週「浜辺の漂流物」」に参加するために書きました。投稿日は2021年7月22日です。


企画は第五週まで続き5本の小説を投稿していますが、その三番目の作品となります。


ちょこちょこっと手を入れてはいますが、ほぼ当時投稿したそのままです。

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