9話
「おねえ、様……? ご無事です……の?」
突然目の前に私の姿が現れ、シフォンが目を丸くしている。
極度の疲労のせいだろうか? 表情は暗く足取りも重そうに見える。
王族が身に纏う一般的なドレスを身に纏ったままここまで歩いて来たのだから無理もないか。
「フィア様! お戻りになられ安心致しました」
一方のアランは軽鎧を中心に小手や具足を身に着け騎士の中では重量が低いと言えど一般人からすれば十分な重量の防具を身に纏いながら歩いて来た訳だが、普段から鍛錬されているお陰か私に対し笑顔を見せる余裕がある。シフォンに比べ疲労の色は薄そうだ。
「私としても、二人が無事逃げられて安心した」
私は二人に対しそっとした笑顔を見せる。
それを見てシフォンは緊張の糸が切れたのかガクッと力が抜ける様に座り込む。
「シフォン様!?」
シフォンが座り込む様子を見たアランが反射的にシフォンを支えようと手を伸ばす。
「アラン様、わたくしは大丈夫ですの」
シフォンは、アランが伸ばした手を取る事無く言う。
「そうでしたか、申し訳ありません」
金髪の近衛兵アランはシフォンに無礼を働いたと思ったのか丁重に詫びる。
私としては自分がシフォンに気を掛けた以上、それを拒否されたからと詫びる必要まで無いと思うのだけど、この辺彼が平民だからなのだろうか。
確かに私もシフォンも王族なのだけど、だからと言って自分達の命を守る人間に対しておごり高ぶるのは何か違う気がする。
この辺りシフォンがどう考えているかまで分からないのだけど、少なくとも私はそう思う。
「アラン? そこまで丁重にしなくても良いわ、疲れるでしょ? ただでさえ緊迫しているこの状況下で私達の為に精神すり減らす必要は無いわ」
だからアランに対して直接言ってみたが、等のアランは首を小さく横に振り、
「いえ、フィア様。私は平民に過ぎません平民である私が王族であるフィア様、シフォン様とお近付きになれる事だけでもどれほど光栄な事でありましょうか」
私が懸念している通りの事を言うアランだ。彼は根が真面目なのだろう。いやそれだからこそ厳しく苦しい鍛錬の末若くしながらも親衛隊と言う地位に就く事が出来たのだ。
まぁ、アランがそう言うなら私としてもそれ以上強制する必要は無いか。
で、シフォンが何か言うつもりは無さそう。私と考えが違うのかもしれないし私の妹である以上私の言動を遮るつもりが無いのかそこまでは確かめ様が無いけど少し位何か言っても良いんじゃ? って気にはなるが。
だからと言ってそんな細かいところまで咎める必要も意味も無いから今言う気は無いけど。
「そんなもんかしら? 私とアランとの違いなんて精々血筋位よ、その血筋だけでありとあらゆる要素が私達だけ優位になると言うのも変な話と思う」
「懐深きお言葉、誠に恐縮であります」
私の言葉に対して、更に畏まるアラン。
これじゃ逆効果みたいで、これ以上彼に対して言わない方が良いかもしれない。
「そう。無理しないで頂戴」
「ハッ、承知いたしました」
アランが私に対し敬礼を見せる。
ここは素直に、高い忠誠心を抱いていると考えれば良いのか。
それはそうと、今からどうするか? セントラルジュ国内に居る敵兵が私達を探す為此方に向かって来る可能性が0と言う訳ではない、出来る限り安全な拠点を確保したいところだけども、如何せん今居る場所は樹々に囲まれたエリアである為に少なくとも安全な平原まで移動しなければ拠点とする場所を確保する事も難しいだろう。
この樹々に囲まれたエリアを抜ければセントラルジュ領を越え自国と同盟国であるマギーガドル領へ向かう事が出来る。
マギーガドルは同盟国であり、特にマギーガドルの王女、ナナリィ王女とは昔から度々親交を取っていて、シフォンも含め3人で遊んだ事もあったっけ。
それ以前に、今回セントラルジュ国が壊滅した旨はマギーガルド国に報告しなければならない。
ここからマギーガドルへ向かう道中、敵国の兵と遭遇する危険もあるが上空からこまめに確認すればある程度回避は可能だろう。
若干危険だけど、セントラルジュ国を滅ぼす事に成功した敵国は次にマギーガドルを侵攻する事は容易に想像が付く。
勿論、セントラルジュ領内の田舎にある村を探し、そこに身を潜めセントラルジュ国を取り戻す為の機を伺うと言う手もあるが、パッと考えるだけでも敵兵を打ち倒す為の兵力を確保する事が難しく私が地道に敵戦力を削っていくしかない、だから猶更マギーガドルへ急いだ方が良いだろう。
「これからの事だけど、マギーガドル国に向かい今回の件をマギーガドルに報告しに行く。それと同時に可能ならマギーガドルを拠点とし敵兵のせん滅及びセントラルジュ国奪還を目指したい」
考えのまとまった私は二人に対し大雑把に今後の方針を説明すると、
「仰せのままに」
と再度敬礼をし、賛同するアラン。
何か考えがあるのか、シフォンは暫しの沈黙を経た後私の方を見上げ、
「お姉様、実はもう暫く先に拠点に出来そうな場所がありますの」
「そうなの? こんな辺鄙な場所にそれは意外ね」
「はいですの、もう暫く歩いた所に雨風が凌げそうな洞窟があって、そこを拠点にして様子を伺いたいですの」
シフォンは私の意見と真逆な事を言う。
「シフォン? 怪我でもしたのかしら? 光霊治療を使う魔力ならまだ残っているけど」
「お姉様、有難う御座います。わたくし、少しお疲れですの」
シフォンの声が弱々しい。
確かに普段あまり外を歩かない上にドレス姿のシフォンがここまで歩いて来るだけでもかなりの疲労を感じているのは当然だろう。