7話
「だとしたら?」
「ぐ、ぐぎぎ、貴様を捕らえれば俺様の……」
人外がこの期に及んで下らない野心を言おうとしているみたいだが、どうやら纏っている炎のが仕事をし出しているみたいで、言葉を言い終わる前に苦悶の表情を浮かべ頭を抱える。
せめて命乞いをするならばまだ可愛い気があるものの、クズね。
私は人外との距離を1M程までゆっくりと詰め、
「言い残した事はそれだけかしら? 安心して、貴方には死んでも消えない炎と死んでも消えない自然治癒魔法を掛けておいた、貴方が炎に焼かれて死ぬ事無いわ」
私はこいつ等に殺された国民の恨みを晴らすべくゆっくりとした口調で告げる。
「何を……きさ……ぐぎゃあああああ!? 熱い!? 痛い!? ぐわああああああああ!?!?!?!? 」
奴は身体にまとわりつく炎を消そうと地面を必死に転がり出した。
どれだけ転がった所でこの炎が消える事は無い。
炎に焼かれる痛みと苦しみが奴を襲い続け、けれど自然治癒の効果で肉体は確かに動く、身体が力尽きると言う感覚が一切感じられないだろう。
苦しみから逃れる為に死にたくても死ねない、1人の敵兵に対し国民を虐殺した報復として出来る事はこれが限界だろう。
地面を右往左往と転がっていた人外だが、何かを思いついたのか何処かを目指し転がり始めた。
仲間との合流? いや、奴が転がってゆく先には確か池があった?
奴は鎧以外の金属製防具は身に着けている、池の中に沈む事になれば浮上する事は難しいだろう。幾ら私の自然治癒が高性能とは言え窒息死を防ぐ性能までは無い。
少しだけ詰めが甘かったか? けれどじっくりと考える時間があった訳ではない以上こればっかりは仕方が無い事か。
敵隊長を討ち取った私は周囲の気配を確認する。
私の方へ向かって来る敵兵の気配は無い。
私達を探し出す部隊を産み出させない為にも出来る事ならもう少しばかり敵の戦力を削っておきたい。
私が思案していると、私の考えを察知したかの様に風の精霊シルフィが自らの意思で私の目の前に姿を現した。
私の手の平に丁度乗っかれる位の大きさで、薄緑色の小鳥に近い姿をしているシルフィ。
その姿に対し可愛さを感じる私は、少しばかり心に安らぎを覚える。
「そう。お願い」
私の言葉を受けたシルフィは小さくうなずくと敵兵視察の為空へ向け飛び立って行った。
敵をある程度せん滅させた後どうするべきか。
私はシフォンとアランと合流し、共に森林エリアを抜けセントラルジュ国と同盟国であるマギーガドル国へ逃げ延びるしか無い。
マギーガドル国のナナリィ王女にセントラルジュ国が陥落した事を伝えなければ、敵兵の攻撃を受けマギーガドル国までも陥落してしまう事になる。
いや、それ等の事を伝えた事で敵性国家であるモスケルフェルト国、マシンテーレ国からの奇襲を防げる程度かもしれない。
いえ、私の力と共にどうにかするしかない。
考えても悪い事しか浮かばない、私は一つだけ小さくため息をつくと丁度敵兵の視察に向かっていたシルフィが戻って来る姿を確認出来た。
シルフィは私の手の平に舞い降りるとまるで私を励ますかの様に3度うなずいた後に
周囲の様子を伝えた。
シルフィによると、私から見て丁度右手方向にマシンテーレのアンドロイド分隊が2つあるみたいでどちらも8体編成との事。
その2つの分隊は私の存在を認識しているのか、私の方へ向かっているみたい。
相手の動きがある程度把握出来る以上、相手の方から攻めてくれる方が逆に有難いか。
それとは別のモスケルフェルト兵の部隊が、残っている家屋等から物資を略奪しているみたいだけど、残念ながら今居る場所からかなり離れているみたいでそれ等のせん滅は悔しいけど諦めるしかなさそう。
「シルフィ。行きましょう」
シルフィを召喚している間、私は彼女の力を借りる事で空を自由に飛び回る事が出来る。
アンドロイド兵は金属の身体で出来ていると聞いた事がある。
ならば、炎による攻撃よりも雷による攻撃の方が効果がありそう。
私は炎の精霊サランの召喚を解き雷の精霊ラディンを召喚し、瓦礫の陰に身を潜めつつ敵アンドロイド分隊を待ち構える。
アンドロイド兵達は前に4体後ろに4体の並びでゆっくりとこちらに近付いて来ている。
アンドロイド兵は機械で作られた人間らしいが、遠くで見る限り普通の人間と変わらない様に見える。しかし、人間とは違い何処か無機質な雰囲気を感じ取れる。
前衛のアンドロイド兵は近接戦闘用に剣を装備しており、刀身が青みを帯びている。
パッと見、魔法により産み出された武器に似ている様に見える。
あの剣はレーザーブレードと言ったか。刀身を産み出す為に使用者のエネルギーとやらをつかう。魔力と似ている気がするけど、以て非なる物らしい。
その切れ味は、モスケルフェルト内で採取される最高の金属を加工し作り上げた剣よりも鋭いとの事。
その武器が、今私に掛けられている防御結界を貫通出来るかは試してみなければ分からないが、出来る事なら試したくはない。
後衛の4体は手に銃を持っており、後方からの射撃攻撃を担当するのだろう。
これも聞いた話だけど、その銃とやらは口先から強力な弾丸を発射するらしく、弓から放たれる矢とは比べ物にならない速度で発射され、更に連射性能をも備えている射撃攻撃をする武器としては非常に高性能な物らしい。
前衛のアンドロイド兵との距離が近くなって来た。
疲れを知らない機械の身体だからか、此方に向かい走って来る速度は思っているより早いみたいだ。