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亡国王女は諦めない  作者: うさぎ蕎麦
1章「セントラルジュ陥落」
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5話

 何かが崩れ落ちる轟音が響く。

 多分、アッスが展開した岩壁が破壊されたのだろう。


「こんな壁如き、闘士の紋章を前には紙屑同然だぜ」


 壁を打ち破ったモスケルフェルト兵が得意気に言っている。


「武勇を語るのは結構だが、王女が居ねぇぞ? 何処に逃げた?」

「どうせこの先だろ、なぁに持久力も瞬発力も俺達に勝てる訳ねぇって」

「それもそうだな。だが、その中にはシフォン様もいると聞く。間違って斬ったりすんなよ?」

「俺がそんな間抜けに見えるのか? ピンク色の髪をした人間を間違えるワケねぇって」

「だと良いがな」


 シフォン様? 幾ら王女とは言え敵性国家であるモスケルフェルトの兵が、本人の居ない状況下で丁重な敬称で呼ぶ? 違和感あるが、一体それは?


「おい! これは!?」

「ダメだ、死んでいる」

「どういう事だ!? 俺達の仲間を黒焦げに出来るだと!? 誰の仕業だ!?」


 奴等はラディンが即死させた兵士達を見たのだろう。


「分からん。マギーガルドの連中が居るのかもしれん」

「あの雑魚共がか? こんな強力な魔法使えたか?」

「いや、そうだったな。俺達は対魔法用の装備もしている。その上で黒焦げの死体に出来る位強い魔法を放てる人間は、ナナリィ王女かその側近位しか思いつかん」

「けど、ナナリィ王女がこの戦場に現れた話は聞かん」

「だな。幾ら勇敢な王女とは言え同盟国の為に命を張って前線に来る訳が無い」

「ならいったい誰が?」

「分からん。今は逃げ出したフィアを捕らえるだけだな」


 やはり、私は呼び捨て。とは言え敵性国家の兵士なら当たり前ではあるが。


「おい、中はどうなんだ?」


 別の兵士の声だ。反対側の兵士と合流した?


「悲惨だ。女王が精霊憑依しやがった。俺と一部の仲間は上手くそいつの攻撃を掻い潜れたが、恐らく他の仲間は生きちゃない」

「つまり、フィアは知らないのか」

「ああ。知らんな」

「変だな。先発した奴等が、フィアが居たと叫んでいた。この通路の構造上俺達の部隊とお前達の部隊がフィアを挟み撃ちに出来ていなければならん」

「何処かに消えた? 神隠しか?」

「まさか」

「だが、どちらの部隊も姿を見ていないのだ」

「ここに隠れられる場所何か無いよな?」

「あるとは思えん」

「場内はまだ女王が暴れているかも知らん。一旦外に出るしか無い」

 兵士達の足音が遠く離れていく。

 奴等が言った通り一旦お城の外に出るのだろう。

「御姉様……?」


 シフォンが、私が着ている服の袖を引っ張りながら小声で呟く。

 不安な気持ちで溢れ返っているのだろう。

 私がすべき事は今からすべきことを示す事。

 アッスの力を借り地中を進むべきであるとして、何処に行くか? 同盟国であるマギーガドルへ向かうべきか。ナナリィ王女に、セントラルジュ国が陥落した事を伝えなければならない。マギーガドルの戦力と共に、敵性国家を迎え撃つ必要がある。

 私一人だけでも、マギーガドルの中隊以上の戦力はあると思うから、マギーガドルにとっても私の戦力は必要と思う。

 一応、セントラルジュ領内にある辺境の地に身を潜める選択肢もあるが、身を潜めている所敵軍に襲撃されてしまったらシフォンを守り切る事が難しい。それに、セントラルジュ陥落を知らないマギーガドルが敵性国家より奇襲に似た襲撃を受け、そのまま陥落してしまう危険がある。

 残念ながら、自分達が生き残る為には戦うしかないのだろう。


「マギーガドルに向かう」

「はい、ですの」


 シフォンは恐怖心を抱いているのか身体を小さく震わせている。

姉として、出来るだけ早く恐怖心を払拭させ安息を与えてあげたい。


「こっちよ」


 私は、敵兵が場外へと抜け出した方向から右側90度の方向へ向かう。

 そこを暫く突き進むとセントラルジュ城に隣接する森林エリアに辿り着く。

 私達は暫くの間地中を移動。お城からは1km位離れただろうか? これ位離れれば、索敵魔法を扱えないモスケルフェルトの歩兵が私達を見付ける事は難しい。

 このまま地上に出ればまず、安全な状況は確保出来るだろう。

 安全、か。

 城内の敵兵はお母様がせん滅させたと思う。ならば一度地中からお城に戻り、お父様を蘇生させるべきか。

 本当にそうなのか? このままマギーガドルを目指すならば自分が危険な目に遭う可能性は皆無に等しい。

 このまま素直にマギーガドルを目指さなければお父様とお母様が身を挺した意味が無くなってしまう。

 けれど、今を逃せば本当に二度とお父様とも会えなくなってしまう。

 この状況下、一時の感情に流されてはならない、冷静に打算的に物事を考える必要がある。

 お爺様からの教えの通り。

 いえ、私、シフォン、アラン。この3人に圧倒的足りないのは優秀な統率者、国王であるお父様は必要不可欠。

 私達には絶対的なリーダーが必要、だから危険を承知でもお父様を蘇生させなければならない。

 そう、それで良い、それが正しい。


「御姉様?」


 シフォンが心配そうに私の顔を見据える。

 シフォンだってお父様との再会を望むに違いない。

「これからの事を考えていた。ここまで移動すれば安全だから一度地上に出る。地上に出て、安全が確認出来次第二人はその場で待機して。私はお父様を蘇生させに行く」

 私の言葉を受けたアランが、神妙な顔つきを見せる。


「フィア様! それではフィア様の身に危険が生じます!」


 アランの言葉が強い。

 私の身を案じてくれる。

 私への忠誠心は問題無さそう。


「分かっている。けれど、私達には絶対的なリーダーが居ない。この先道を示してくれる年功者も居ない。だから、お父様とお母様の犠牲が無に帰してしまうかもしれないけれど、危険を冒してでもお父様を蘇生させる必要があるの」

「ですが。いえ、フィア様はまごうこと無きリーダーです。国王陛下でなくとも我々のリーダーは存在します」


 私が良きリーダー? 世辞にしか聞こえないが、そうと言ってくれるならば私の方としてもやりやすい。


「私をリーダーとして認めるならば私の命令に従いなさい」

「しかし、私はフィア様を失いたくありません」

「貴方の気持ちは嬉しい。けれど、お父様の蘇生を試みたとして必ず私が死ぬ訳じゃない。あったとしても精々10~20%位、成功する確率の方が高いのよ」

「その数字が合っている保証がありません!」


 アランの口調が強い。

 血縁関係にあるシフォンならともかくとして、一近衛兵に過ぎないアランが私を失う事がそこまで嫌な理由が浮かばない。

 祖国を失った王女なんて、ただの平民と大差がないのだから。


「そう。なら、力尽くでも従ってもらうわ。最も、精霊の力を借りて貴方を眠らせるか身柄を拘束だけど」

「それでも、私は反対します!」


 コイツは人の話を聞いているのだろうか? いえ、騎士である以上頭は思ったよりも良くないのは仕方が無いと捉えるべきか。


「そう。好きになさい反対する事自体貴方の自由だから」

「アラン様……」


 シフォンがそっと呟く。

 何処か寂しげな表情を浮かべているのは気のせいか?


「地上に出るわ」


 私は二人に合図し、地中の中から地上に向け浮上する。

 周囲は樹々に囲まれており、私が思った通り地中より移動した先は森林エリア内部だった。

 日差しが強い。時刻は昼位だろうか? 森林エリアを移動する明るさは十分ある。また、今は初夏である為か暑さを感じる。

 鳥のさえずりも聞こえて来る。今さっきまで敵国の兵士に襲撃された事を忘れさせてくれる様な長閑な空間が広がっている。

 一瞬だけ、出来る事ならこのままゆっくり過ごしたいと思ってしまう程に。


「そうね。明日の朝までに私が戻って来なかったならば、二人でマギーガドルを目指しなさい」

「御姉様……」


 私は、自分を心配する二人に見送られ、地中の中よりお父様の遺体があると考えられる場所に向かった。


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