43話
「有難う御座います」
「お主の様な優しい心を持つ女性に頼み事をするのは少々気が引けるのじゃが……、見ての通りこの村は領主が好きな様に統治した結果、村の至る所に石化された村人が散乱している様じゃ。ワシ以外に生存している村人はあまりおらぬ、出来る事なら何か手助けをして欲しいのじゃ。代わりと言っては何じゃが、お連れの者含め寝床を提供しようと思うけれど、如何なものだろうか?」
旅人にとって雨風を凌げる寝床を得られる事に対する価値は高い。このお爺さん、一応は対価を提示して来たが……。身の安全に関しては精霊に任せれば良いし、何なら聖銃で撃ち抜いて蘇生させて従順な下僕にしてしまえば良い。
勿論、この村に居る他の村人に与える影響を考慮した場合出来るだけ使いたくない選択ではあるのだけども。
いや、しかし、ただの旅人のしかも女性に対して手助けを要求するのは少々違和感がある。
ただの女性が出来る事なんてたかが知れているワケだし、一応頭目達なら力を使う何かは出来そうだけど。
何か違和感を覚えるのだけども、お爺さんの提案に乗らなければ何も進められないのも事実。
幾ばくかの危険があるかもしれないが、それは必要経費と考えるしか無いか。
「分かりました、しかしながら私の様な若い女性では大して助けられないと思います」
私達はお爺さんに連れられ、石像の前に辿り着いた。
今度の石像は年端もいかない少年の物だった。
この様な少年迄も石化させてしまうのは少しばかり気になる所だけど。
「この石像に治癒魔法を掛けて欲しいのじゃ」
「治癒魔法ですか? 治癒魔法でしたらセントラルジュ国民なら誰でも出来ますし、とっくに皆さんの方で試していると思いますけど」
皆が誰でも出来る方法を試させると言う事は恐らく、私の魔力を試すつもりとは思うけれど。
とは言え、それは当り前の切り込み方と言われればそうなる。
どうするべきか。魔力量を調整して様子を見るか、いつもの魔力量で治療魔法を掛けるか。
この石像に対して後者を選んでも効果が無い事は明白であるが、私の手から広がる治療の光。
使用した魔力量によりそれが広かったり光量も高くなったりする。
一先ずは、相手の出方をうかがう事も考えて、一般的なセントラルジュ国民が扱える治療魔法に近いレベル、ミドルソード辺りにより傷付けられた肉体を治癒出来る程度まで抑えるとしよう。
私は魔力量を抑え、目の前の石像に対し光霊治療を掛ける。
私の手の平から生じた、手の平と同じ大きさで薄く白い光が石像の腹部を照らす。
仮に生身の肉体相手ならばゆっくりと傷口が塞がるけれど、石化した肉体に対してはただたら白い光で照らされる以外何の効果も無い。
ふと、老人から放たれた鋭い視線が突き刺さった気がする。
「お嬢さん。遠慮なさらなくて良いですよ」
まるで私が魔力消費量を抑えている事を知っている様な口振りだ。
「いえ、その様な事は」
と、私が一旦お爺さんの申し出を否定するが、
「お嬢さん、貴女の紋章良い光をしていますよね」
お爺さんがカマを掛けて来た。
少なくとも、お爺さんは紋章の個体差について知っていると判断して良さそうだ。
さて、気のせいと知らないフリをするべきか素直にもう少し魔力を放出するか。
けれど、紋章の個体差を知っているとするならば、私が王族である可能性も考慮していると思う。
そうなると、一々情報を小出しにするのもめんどうな気もする。
数手先で王女とバレるなら今から正体を明かして良いかもしれない。
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