42話
「お世辞の言葉、感謝します。私が貴方の尋ねた理由を教えました以上、可能ならばこの村の住民が石化した理由を教えて貰いたいと思います」
私の言葉を受けた老人が自分の頬を一撫でし、
「そうじゃの、簡単に言えば見せしめ者の。初めは、領主に税を納められなかった人間を見せしめで石化させたのじゃ。こうなりたくなければもっと必死に働き税を納めろと。しかしじゃ、ある日を境に領主は人間が石化した姿を美しいと感じる様になったのじゃ。すると、十分に税を納めた人間達も石化させる様になったのじゃ」
「つまり、ここの領主の趣味趣向でこの村の人達が石像にされた? けれど、そうしたら税を納める人間が居なくなって破綻すると思うのですけど、何故今も尚この村が存続しているのでしょう?」
村である以上、必ず村を維持する為の費用が発生するのだけども。
「わしが知る限り、じゃ。何やら領主は怪しい組織からお金を貰っている様じゃ。そのお金がある限り領主は優雅な暮らしが出来るのだよ」
怪しい組織、ね。シフォン率いる邪教か、山賊みたくヤクザモノの組織かその辺りだろうけど。
「頭目さん。ここの領主にお金を渡している盗賊団みたいな組織、知らないかしら?」
「さぁな、俺は知らない。もっと別の縄張りには巨大な組織があるかもしれないが、俺の縄張りでそんな話は聞いた事も無いし、別の縄張りでそんな噂話も聞かないな」
後者の可能性は激減したか。
そうなると、邪教が関わっていそうだけど、私が予想出来ない何かの可能性もあり得る。
直接領主から情報を集める必要がありそうなのだけど……。
何の特徴も無い、何のコネクションも無いただの旅人が領主に会えるとは到底思えない。
勿論、私がセントラルジュ国の王女だと分かれば別であり、その証明も神聖蘇生を使えば問題無いと思う。
後は、私の左手甲に浮かぶ慈愛の紋章を見ても分かる人には分るのだけども。
私は、ほんのりと淡い薄黄色の光を浮かべる自分の手の甲に視線を送る。
ほぼ全ての国民が持つ慈愛の紋章が発光する事は無く、その色も一部を除き純粋な白である。
その例外は、灰色を帯びた慈愛の紋章を持つシフォンと、話に聞く限り確かお婆様が持つ慈愛の紋章も似た様な色だったか。
私が知る限り、例外な地合いの紋章を持つものを殆ど知らない。
だから、それを知っている人間ならば慈愛の紋章を見るだけでその人物が何者なのかをある程度絞る事は可能だったりする。
私が視線をお爺さんの元に戻すと、お爺さんの口元が少しばかり緩んだ気がした。
気のせいか? 少しだけ背中にゾッっとする感覚が走ったのだけども。
「おや? もしかしてこの話が気になりますかね? 普通の旅人ならばこの話を掘り下げないハズじゃ。やはり貴女は優しい心を持つ女性みたいじゃの」
おじいさんがまたしても私を優しいと賛美する。
話の流れから少しばかり不自然な気がしなくも無いが、私を賛美する人間はゴマンと見て来た以上それは当たり前と言いたいけれど、今の私は只の旅人に過ぎない。
辛うじて、久しく来訪した若い女性へのリップサービスであると考えられなくも無いが、自分が抱いた違和感を果たしてどう処理すべきか。
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