40話
「旅のモノかのぉ? 見ての通りこの村は酷い有様じゃ。すまぬがワシに出来る事は何もあらぬわい」
老人は申し訳なさそうに答えるが、頭目の姿を見て懐かしそうな表情を浮かべると、
「おぉ……お主はもしや、隣の区画に住んでいた子供かのぉ?」
おじいさんの問い掛けに対し、頭目が少し悩んで見せる。
この様子だと頭目はこの御爺さんの事を覚えていないだろう。
「お、おぉ、そうだ。久しぶりだな、元気そうで何よりだ」
頭目は作り笑顔を見せ、おじいさんに答える。
話を合わせるつもりだろう。
「ほっほっほ。ワシが聞いた話では食い扶持を減らす為山に捨てられたそうじゃ。よくぞ生きておったのぉ」
「ははっ、山には食いモンが豊富だったからな、何とか生き残れた」
「そうかいそうかい。生きていればそれが何よりじゃ」
まるでおじいさんは頭目が山賊の頭目である事を分かっているかのような口ぶりで言う。
「そう言って貰えると嬉しいもんだ」
続いて頭目は、あの時のおっさんか? と呟いた。
狭いコミュニティであるからか、15年以上も前の出来事も思い出せたのかもしれない。
おじいさんが私の方を見据え、
「して、その端麗な容姿の女性は」
何か深い意味を込めながら訪ねて来た。
「私はただの旅の者です。訳あってこの村に来訪しました」
何と無く、この御爺さんはロクでも無い事を言い出しそうな気がしたので、この御爺さんが予想した通り旅の者と答えた。
私がセントラルジュ国の王女である事は可能な限り隠しておいた方が良い。
ただ、私は嘘をつくのが得意じゃないから、それがいつまで続けられるかは自信が無いけれど。
「そうかの。この国の王女様に似ていると言われた事はないのかの?」
正体を隠したいと思った矢先、このお爺さんが妙な事を聞いて来る。
私はこの村に1度も来たことが無い以上、このお爺さんがセントラルジュ国へ来訪し私の姿を見たのだろうか?
「いえ、その様な事を言われた事はありません」
「何、現女王様の面影が見えたのでな」
つまり、この御爺さんは私でなくお母様を見た事がある。
お母様がこの村に来訪した事があるのだろうか?
「そうですか」
適当な相槌を打ちながら、お爺さんの様子を確認してみるが特に怪しい点は見当たらない。
ただの世間話だろうか?
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