37話
「それは否定出来ない」
敵国を裏で操っていると匂わせていたのはシフォンだけど。
「ガッハハ、あの領主、敵国の奴等がぶっとばしてくれるかもしれねぇ、これはこれでおもしれぇかもな!」
その可能性はあるけれど、問題はモスケルフェルト兵であり闘士の紋章の恩恵を受けるお陰で近接戦闘が得意な奴等だ。
一方のセントラルジュ国民が持つ慈愛の紋章は神聖魔法が扱える反面筋力等の身体能力が低下してしまう弊害を持つ。その為、賊とは言えセントラルジュ国民である以上奴等に勝てるとは思えない。
仮に領主が惨殺され、統治する人間がモスケルフェルトの人間に変わったとする。
闘士の紋章を持つものは知力が低下する弊害を持つ。
知力が劣る人間が統治をしたところで今より良い統治が出来る可能性は低い。
しかし、この山賊は領主に対し強い恨みを持っているみたい。
その上その領主はヘルツォーク教との関係がある可能性もある。
領主が何をやっておくのか知っておいて損は無い、いえ、それ以前に領民に対しセントラルジュ城が陥落した事を伝える必要もありそうね。
「そうね。明日その領地に案内して貰えないかしら?」
「お? 良いぜ? お安い御用だ、俺達に任せときな」
山賊達の宴会は夜遅くまで盛り上げられた。
宴会が終わったころ私は寝床へと案内された。
そこは来客用の個室であるものの、寝る為の場所には藁が敷き詰められていた。
この藁は最低限クッションの役割と暖を取る為だろうか?
お城に居る間はこの様な環境について考える事は無かったし、寝床と言えば柔らかな布団が敷かれているベッドの上が当り前だった私にとって意外といえば意外とも言える。
正直寝るには環境が悪いと思うけれど、1度位この様な環境で寝てみるのも悪いとは思わない。
私は寝床として床に敷き詰められている藁の上で身体を寝かせ睡眠の態勢に入る。
藁がチクチクして少しばかり痛い。
夜も深くなっているからか、少しばかり肌寒い。
私は身体の上に藁を乗せ防寒を試みる。
この藁は思ったよりも防寒性能があるみたいで私が感じていた肌寒さはすぐに遠のいた。
お城は今どうなっているのだろう?
多分、モスケルフェルトの兵がお城を制圧したと思う。
奪還しなければならないのだけど、マギーガドル国の魔導兵にお願いすれば良いのだろうか? マギーガドル国自体、モスケルフェルトやマシンテーレからの侵攻だってあるのだからそこまでの余裕は無いのかもしれない。
聖銃を上手く使い敵兵を味方に付けなければならないのだろう。
精々日に5人位しか増やせないけれどやらないよりはやった方が良いか。
ナナリィ王女は元気にしているのだろうか? あの娘は昔から元気が取り柄だったから大丈夫だと思う。最後にあったのは3年前だったっけ? 悪報を届けに行く形になるのだけど、久しぶりに会えるのは楽しみかもしれない。
シフォンは私が知るシフォンに戻ってくれるのだろうか? あの娘が裏で敵兵を操りセントラルジュ城を陥落させたと言っていた。
邪神が支配する世界を望んでいると言っていた。
あの娘が召喚した邪神を操り切れると思っているからだろうか。
少なくとも精霊は、術者の力量を越え無理矢理召喚場合術者の命令に従わない。
概ね術者の魔力が枯渇する迄、無理矢理呼び出した精霊は術者の意思とは無関係に好き放題されてしまう。
それと似た何かが邪神にも適用される可能性はある。
いえ、邪神、つまり神である以上猶更その危険が高いと思う。
シフォンが邪神を制御出来なくなる可能性は十二分にある。どう考えても良い予感はしない。
山賊達の領主がヘルツォーク教と関与している可能性もあり、その領地はヘルツォーク教の資金源の1つとも考えられる。
シフォンを正気に戻す為、その資金源を潰す必要はある。
後は、アランは無事だろうか? アランを取り戻す為の目途は全く立たない。
取り戻す……? アランの事を気にし過ぎなのは何故? 気にしても仕方ない、今日はもうゆっくり休もう。
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