34話
「フィア様! 凄いぜ!」
「ほんとうですぜ、身体が凄く軽かった、お陰で凄く早く歩けましたよ!」
「ああ。いつもなら1時間は掛るけどそれよりも早かったな」
「大した事無いわ」
私はそっと髪を掻きあげながら返事をする。
賛美されている事自体悪い気はしないけれど、手放しに喜ぶ気も起きない。
目の前にいる2人は従順な下僕であると分かっていても、相手の煽てに乗るとロクな事が無いと分かっているからその癖が出てしまっている。
「謙遜する、なんて素晴らしい王女様なんですか!?」
「ああ、それに何度見ても素晴らしく美人だ」
「やっぱ王族は凄いんですね」
私に対してベタ褒めする二人。
これが従順な下僕出ないなら気にも留めないのだけど、従順な下僕に言われてしまうと正直気持ちが緩みそうになって来る。
「そうかしら? セントラルジュ国、いえ別の大陸なら私より凄い神聖魔法使いがいても可笑しくないけれど」
「かぁー、既に国内最強と名高いフィア様。けど常に高みを目指す意思を持つ、なんて素晴らしい方なんだ!」
「本当ですよ! あっしらの領主の娘にも知らせたい位ですよ」
つまり貴族令嬢の1人で、高みを目指す精神も無い恐らくは井の中の蛙或いは貴族令嬢と言う地位に慢心している所かしら? 貴族令嬢ならば普通と言われればそこまでだけれども。
「感謝するわ。けれど城が陥落した今じゃ何も出せないわよ」
「へっへっへ、良いんですぜこんな美女を目の前に出来るだけであっしは幸せですからさぁ!」
「その通りだ。美女と会話出来るだけでも悪い事じゃねぇ」
「そう。国を取り戻す事が出来た時何か考えておくわ」
従順な下僕だからと油断し、べた褒めされたせいで乗せられた気がしなくも無い。
大丈夫とは思うけれど、聖銃の影響がない人間からべた褒めされた時は改めて注意した方が良いかも知れない。
「勿体無いお言葉でさぁ。そん時はあっしら山賊なんかよりもまっとうな人達をお救い下さいな」
これも聖銃の影響なのか? それともコイツ元来の性格なのか? もしこれが元来の性格ならば山賊になった理由がある気がする。この辺り少し気になる。
「そうだな。よし、アジトの中に案内するぞ」
頭目が指差した先には、木製の建物があった。
中に何人居るのか分からないが、住むだけならば10人以上住む事が可能な位の広さをしている建物だった。
頭目に案内され中に入ると、彼の帰りを待ちわびた他の手下達がいた。
この場に居るだけで6人。聖銃の支配を受けていない彼等の目つきは悪く、いかにも悪人と言った感じだ。
幾ら頭目を私が抑えているとは言え万が一は有り得る。プロテクション位は張っておかなければならないだろう。
アジトに居る山賊達は、私を捕らえた事に対して物凄い賛美をしている。
やれ幾らで売れるだの、やれ回す順番の話だのロクでもない、山賊らしい話が繰り広げられているが、その辺りの話は頭目が一喝する事で止め私を重要な客人と説き、私に手を出せば命は無いと脅しを掛けていた。
頭目から脅しを受けた手下達は彼の命令に従うが、ぼそぼそと今日の頭は何かおかしく無いか? と声も聞こえて来た。
段々と、自分の身に危害が及ぶ前に冥具の糧にすべきか? という気持ちになって来るのだが、せめて事が起ころうとした時でも遅くは無いか。
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