3話
「お母様の言う通りよ、シフォン。お父様とお母様の事はお姉ちゃんに任せなさい」
私は、シフォンの手を取り告げる。
お母様と私の言葉を聞いたシフォンは冷静さを取り戻すけど、零れ落ちる涙までは止まっていない。
お母様が、シフォンを抱きしめていた腕をゆっくりと解き右手を天高く掲げ、
「セントラルジュ女王マリアード・ラルジュの名の元、敵のせん滅に参ります!」
お母様の右手の平より白き神々しい光が溢れ出したかと思えば、お母様の手を包み込み、白き鳥の姿へと変貌させる。
これは光の精霊だ。精霊の中でも上位の精霊であり扱い切れる人間はセントラルジュ国内でも数える程しかおらず、私はその数える程の中に入っていない。
光の精霊がお母様の方へと振り向く。
そしてお母様が無言で頷く。
まさか!
「お母様ッ!?」
思わず声を上げたのはシフォンでは無く私だった。
「フィアよ心を強くなさい」
ダメだ! お母様は精霊を自分の身体に憑依させるつもりだ!
お母様の魔力ならば、下位の精霊相手よりも魔力量が多い。だから自分の意思で精霊との憑依を解ける。けれど、上位の精霊である光の精霊はそうもいかない。だから光の精霊を憑依させてしまったが最後2度と元の姿に戻れなくなってしまう。それはつまり、お母様がお母様でなくなる事、お母様自身が光の精霊になってしまう事なんだ!
それじゃ、万が一にもお母様の遺体の元に辿り着けた時に蘇生させる事が出来なくなってしまう!
ほんのわずかであるが残されていた、お母様と別れないで済む可能性が0である事を察知した私の精神が乱れ始める。
「嫌だ! そんなのっ!」
光の精霊がお母様の身体と重なり合った。
「私の精神は常に貴女の元にあります。強くなりなさい、私を迎え入れるまで強くなる時を待っています」
お母様の姿は消え、さっきよりも一回り大きくなった光の精霊が目の前に現れた。
お母様は私達の前で1つ羽ばたくとお父様の肩に乗った。
くそぅ。冷静になれ、私が取り乱してしまったら終わりなんだ!
今の戦況を覆すには、光の精霊を召喚するだけでは無理だったんだ。
だから、最終手段である光の精霊を自らに憑依させる選択をしたんだ、そうじゃなけれ戦況をひっくり返すだけの攻撃力が手に入らないから!
分かってる、仕方無いんだ、どうしようもないんだ! こうするしか私達が生き残る道が無いんだ、割り切れ、割り切るんだ私ッ。私には2人を安全な場所まで連れ行き、お父様を蘇生させる義務があるんだから!
「お母様! お母様ッ! 嫌ですの!!!!」
私に続いてシフォンも叫び声をあげる。
今にもお父様達の元へ駆けだしそうだ。
私がやらなくてどうする!
「アラン、シフォンを任せる」
私は精神を奮い立たせ、シフォンがお父様達の元へ向かわない様声を絞り出した。
シフォンがお父様達の元に戻ってしまったらお父様達の願いが台無しになってしまう。
「はっ、シフォン様、ご無礼をお許し下さい」
私の命を受けたアランが、シフォンを羽交い絞めにし無理矢理突き辺りの部屋目掛け引きずりだす。
シフォンは必死に抵抗するも、親衛隊員であるアランに力で勝てる事は無かった。
「こっちよ」
その様子を確認した私はこの通路の突き当りにある扉より入る事が出来る部屋へ先導をする。
木製の扉を開けると広がる部屋は、大人8人がある程度余裕をもって雑魚寝する事が出来る部屋だった。
ただし、この部屋は緊急時の際お城の中から外へ脱出する為の隠し通路への入り口がある部屋なので、普段この部屋を使う人間は誰もいなかった。
それでも、壁に何枚かの絵画が掛けられておりその合間を縫う様に明かりとして魔力石が付けられている。
つまり全く何も無い訳では無いが、お城の中にある部屋と考えればどちらかと言うと質素に感じるかもしれない。
部屋の中に入り、入り口の扉を閉めると、シフォンが平静を取り戻したと言いたげにアランの手をポンポンと叩く。
それを察したアランがシフォンを拘束していた手を緩める。
眼を真っ赤にしたシフォンは1度だけ扉の方を振り向くと、お父様、お母様と呟いた。
少なくともお母様を失った事に対する気持ちに整理がつかないのだろう。
私だってそうなのだけれど、だからと言って後ろを向き泣いている余裕すらない。
そんな事をしてしまえば敵兵に惨殺される事しかならないのだから。
「ぐわあああああああ!!!!」
外から断末魔の叫び声が聞こえた。
この声は、お父様だ。
光の精霊になったお母様と一緒戦っていたとはいえお父様は生身の人間に過ぎない、遅かれ早かれこうなるのは分かっている。
大丈夫、まだ蘇生出来る可能性はある、落ち着くんだ私。
「お父様!? お父様!? いやあああああ!!!????」
お父様の死を察知したシフォンが、大粒の涙を流しながら再度半狂乱しだす。
このままでは折角辿り着いたこの部屋の外を出てお父様の所まで行ってしまいそうだ。
「シフォン! 落ち着きなさい!」
私はシフォンに精神治療を掛け、半狂乱しているシフォンの精神状態を落ち着かせた。
「お姉様、申し訳無いですの」
「気にしないで頂戴、今はここから脱出する事だけ考えて」
この部屋にある隠し扉を開くスイッチは暖炉の中に隠されている。
私はそのスイッチを探し出し、押した。
直後、私の背後からゴゴゴゴゴゴゴと音が鳴り響き城の外部へと繋がる隠し通路の入り口が顔を出す。
「行くわよ」
私達は、隠し通路の中に入り近くの壁にあるスイッチを押しその入り口を閉ざした。
続いて私は照明の魔法を使い周囲の灯りを確保し、隠し通路の先を走り出す。
王族が身に纏う衣装を嫌い、動き易い衣服を身に纏う私は兎も角としてドレス姿のシフォンや防具を身に纏っているアランが走る事は厳しそうに思えるが今はそんな事は言っていられない。
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