25話
そんなシフォンに対し、フィアは見ているだけで楽しいのか? と尋ねた事があるのだが、等のシフォンは見ているだけで楽しいとの事だった。
本人がそう言うのならばとフィアは特に気にする事も無かったが、等のシフォンは姉の戦い方を見たいとの思いとは別にアランの近くに居たいと言う気持ちも抱いていた。
だが、シフォン自身内に秘めるアランへの気持ちは誰にも伝えておらず、フィアだけでなくアランもまた、その気持ちに気付いていると言う事は無かった。
フィア達はくつろいでいた庭園から訓練場へと向かうのだが、その道中フィアとシフォンの父である国王クロード・ラルジュ・フィルトの自室近くを通る事になる。
だからどうしたと言う話となるのだが、その自室近くの廊下を歩いている所、部屋の中から国王と誰かが対話している声が聞えて来たのである。
「シフォンの神聖魔法はどうでしょうか?」
国王の声だ。
「日々勉強に励んでおるぞ」
男が返事をする。やや年期の入った声の主は国王の父、つまりフィアとシフォンの祖父に該当する者の声だ。
祖父は、国王に対し何かを隠す様にはぐらかした返事をする。
祖父が国王に対してはぐらかした返事をした通り、シフォンは神聖魔法の才能が無くどれだけ神聖魔法の勉強をしても、神聖魔法の初歩である光霊治療すらも扱う事が出来なかった。
シフォンは王族であるにもかかわらず、光霊治療すら扱う事が出来ない噂は王宮の中だけにとどまらず、セントラルジュ国民の間でも噂となっており、総じてシフォンに対する印象は悪いものだった。
勿論すべての人間ではなく、シフォンを好意的に見る人間もいたがどちらかと言うと少数に属していたのである。
「いえ、父上、シフォンはどれ位神聖魔法を扱える様になったかでして、シフォンが神聖魔法会得の為日々勉強に励んでいる事は承知しております」
「たわけ、お主は空気位読めんのか!」
祖父の怒鳴り声が国王の自室から響いて来る。
その部屋に併設されている廊下を歩いているフィア達は、思わず立ち止まり祖父が何を話しているのか聞き耳を立てる事にした。
「ですが父上。シフォンがどれ位神聖魔法を扱える様になったか、と言う事実は必要な情報です。私が把握している時点で、シフォンは全く神聖魔法を扱えていません。同じ私の娘でもフィアはもっと少ない勉強量で神聖魔法位扱えていました。もっと言えば、セントラルジュ一般国民ですら、光霊治療程度ならば比較的少ない勉強量で会得出来ます。けれど、シフォンは物凄い勉強をしても光霊治療すら扱えない。これはセントラルジュ王族に取って異常な事なのですよ」
「それがどうした?」
国王の熱弁に対し、祖父が一喝をするが、国王は怯まずに話を続ける。
「いえ、シフォンが神聖魔法を扱えない、使い物にならないならそれはそれで構わないのですよ。他国に嫁がせれば良いだけですから。私はその事実を知りたいだけで、その事実を知る事で最善の対応を早急に打ちたいだけです」
「貴様、それでも人の親か? ワシの息子の癖に情けない」
「話を逸らさないで下さい、私の質問に答えて下さい。私はセントラルジュ国家の事を想ってお尋ねしているだけです」
「フン……。シフォンはな、お前の言う通り神聖魔法の才能は無い。だが、それ以外の才能はある。少なくとも、セントラルジュ国にとって必要な才能はもっておる」
「それは誠ですか!?」
「嘘を言っても仕方あるまい。だが、それが何かお主が知る必要は無い」
「私は国王です、知る権利はあります」
「お前はまだ若い。この事実を知ったならばお前の命を狙う輩が現れても可笑しくない」
「父上!」
「これだけのヒントを与えても気付けぬならばお前には知力が足りん、大人しく博識な重臣でも置いておけ」
国王の自室内から、席を立つ音が聞こえた。
恐らく祖父が国王の自室から出るであろう、部屋から出て来る祖父と鉢合わせてもあまり良い事が無いと思ったフィアは、シフォンとアランに訓練場に改めて向かう様に告げるが……。
「シフォン?」
恐らくは、国王が発した『シフォンが神聖魔法を扱えない、使い物にならない』と言う言葉を聞いたせいで大きなショックを受けたのだろう、シフォンは小刻みに震えながら唖然と立ち尽くしている。
しかしながら、その事に気付くよしもないフィアとアランはどういう訳か分からなず唖然としているシフォンをまじまじと見つめる事しか出来ないでいた。
「おや? フィアにシフォン。それに……確か最近鍛錬に励んでいる騎士ではないか」
国王の自室から廊下へと出た祖父だ。
「ハッ。デートリッヒ様。わたくし如き雑兵を御記憶に刻ませて頂き光栄であります」
アランがフィアの祖父に対し、敬礼。
「元気があって宜しい。お主、名は?」
「アラン・ハイリッドであります!」




