24話
3年前。
この頃セントラルジュ国は、3年後セントラルジュ国が滅ぼされる事など夢にも思えない程平穏な空気が漂っていた。
セントラル城内にある庭園もまた同じく平穏な空気が漂っており、庭園に設置されているテーブルの1つに設置されている椅子にフィアとシフォンはお互いが見合う位置に座りお茶をたしなんでいた。
「お姉様、今日もいい天気ですの」
シフォンがカップに注がれているお茶を1口、飲みながら姉のシフォンに対し柔らかな笑顔を見せながら問い掛ける。
ほんわかとした外見とは裏腹に、黒い事を考えているなんて事は3年前のシフォンには無い。
「そうね」
フィアも同じく、お茶を飲みながら相槌を打つ。
だが、父である国王クロード・ラルジュ・フィルトよりセントラルジュ国の平穏は長く持たないと知らされているフィアは妹とお茶を飲みながら雑談をしている状況にも関わらず険しい表情を見せている。
「お姉様、この様な平穏な日々が永遠に続けば良いと思いますの」
一方のシフォンは、セントラルジュ国が抱えている他国との問題を聞かされていないのか、やはり緊張感と言う言葉からはかけ離れた、無垢な少女の笑みを浮かべる。
「ええ、シフォンに同意よ」
フィアは唇を噛み締めながら言う。
セントラルジュ国は武力に乏しく、それ故に精霊召喚魔法の会得に成功した自分がセントラルジュ国の主力となり、セントラルジュ国の平穏を維持する為に戦わなければならない。
自らの類稀なる魔法の才能を父より幾度と無く賛美、肯定されているフィアは、自分が戦わなければならないと普通の少女、普通の王女ですらも背負う必要のない責任を負ってしまっている。
「お姉様? 険しい表情ばかりしていますの? どうかなされましたの?」
「険しい表情? そう? 気のせいよ」
父親より、セントラルジュ国が抱える問題をシフォンに話すなと念押しされているフィアは、自分に心配をかけるシフォンに対し素っ気ない返事をする。
「そう、ですの?」
「ええ、そうよ」
シフォンには精霊召喚魔法どころか神聖魔法の才能すらも無い事を知っているフィアは、シフォンに余計な心配をさせまいと何事も無い様に振舞う。
「フィア様、今宜しいでしょうか?」
フィア達の元に若い男がやって来た。
彼はセントラルジュ国騎士であるアラン・ハイリッドである。
14歳にも関わらず類稀な剣術の才能を買われ、今年セントラルジュ国の騎士になったのである。
少年のあどけなさは残るが整った顔立ちに加え短めの金髪に青色の瞳が彼の魅力を引き立てており、騎士である事に加え端麗なる容姿より同世代付近の女子からの高い人気を得ているのであるが、彼自身剣術の鍛錬を重要と思っている為にそれ等に興味関心が薄く彼女達の気持ちに応える事は無かった。
「構わないわ。どうせ私との訓練がしたいのでしょう?」
「ハッ、仰る通りで御座います。わたくしアラン・ハイリッドとの訓練をお願いしたいと思います」
アランは丁重なお辞儀を見せながら懇切丁寧な応対を見せる。
一般騎士が王族に対する対応としては当然であるが、
「相変わらず硬いわね」
アランの対応に対しフィアはもっと気軽に接すれば良いと言わんばかりの返事をする。
「アラン様、ご機嫌麗しゅうですの」
少しばかり間を置き、シフォンがアランに対し柔らかな笑顔を浮かべながら挨拶をし、
「シフォン様? わたくしめ如きに勿体無いお言葉で御座います!」
アランは、シフォンの方へ向きフィアと同じく丁重なお辞儀を見せる。
「そんな事はないですの。アラン様はわたくし達よりもお歳がお上ですの」
シフォンもまた、アランに対し自分との身分の差をあまり気に留めない様だ。
「しかしながら、平民であるわたくしが王族であるフィア様とシフォン様に無礼を働くなど滅相も御座いません」
フィアは、自分に対して丁重に振る舞い続ける方が無礼と思いつつも、口に出してしまっては少し面倒な事になりそうと思いその言葉を飲む。
「そう。ならアランの好きにして頂戴」
「ハッ! 有難きお言葉」
「お姉様がそう言うのでしたら仕方がありませんの」
シフォンもまた、自分が王族であるからと言って自分よりも年が上であるアランに対し丁重に振る舞わなくても良いと思っている様だ。
「シフォン、貴女はどうするの?」
「お姉様、わたくしもご一緒致しますの」
勿論、戦闘能力が皆無であるシフォンが訓練に参加するなんて事は無く、フィアとアランが訓練している様子を見学するだけである。




