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亡国王女は諦めない  作者: うさぎ蕎麦
2章「ヘルツオーク教」
22/44

22話


―シフォン視点―


 フィアがヘルツオーク教、セントラルジュ本部のアジトを後にした事を見届けたシフォンは、一つ深呼吸をし、アランに向けて笑顔を浮かべる。

 その笑顔は普段フィアを含め様々な人に見せる柔らかな笑顔よりも魅せられる、まるで女神であるかと錯覚してしまう様な美しい笑顔だった。


「アラン様。改めて宜しくお願いしますの」


 そっと腹部に両手を添えアランに向け丁重に一礼を見せるシフォン。

 王族であるシフォンが、親衛隊とは言え一般人であるアランに見せる態度としては低調過ぎて違和感を覚えてしまう位だ。

 しかし、セントラルジュ国第二王女シフォン・ラルジュとしてではなくヘルツオーク教、教祖、シフォン教皇としての応対ならあり得なくもないがそれでも高い立場を考えれば少し過剰な位だろう。


「シフォン様、私の方こそ宜しくお願いします」


 シフォンが何故自分に対しここまで丁重な様子を見せるか理解出来ないアランは、普段通りシフォンに対して行う一礼を見せた。


「お話したい事が御座いますの、アラン様私のお部屋にいらして下さい。ハルディオス様は任務完了後、いつも通りになさって下さいませ」

「承知いたしました」


 ハルディオス隊長は敬礼を見せ、洞窟の奥へと向かって行った。


「それでは参りましょう」


 シフォンはそっとアランの手を取るとアランと共に自室へと向かって行った。


「ここがわたくしの自室ですの。洞窟の内部にあります故に、セントラル城内部にあるお部屋より劣ってしまいますけどお許しくださいませ」


 謙遜するシフォンであるが、其の部屋の内部は壁が無機質な岩石である事を除けば地上に建造されている建物の部屋と大差はなく、少なくとも一般人が居住するには十分な広さは確保されている。

 強いて言えば太陽の光が届かない事が気になるが、部屋の明るさ自体は壁に飾られている魔法石により程よい物となっており、書物を読むにしても十分な光量であった。

 部屋の隅には王族が使うには劣るものの、一般人が使うには十分質の良いベッドが配置されており、また別の壁には事務仕事をする為の机も設置されている。


「その様な事お気になさってはなりません。しかしシフォン様、何故わたくしめ如きをシフォン様の私室にお招きしたのでしょうか? 仮にこのアジトを案内するならば他の者に任せればよいと思います」


 女性が男性を自室に招き入れる深い意味を知るよしもない真面目で無垢な青年アランが穢れ無き心のままシフォンに尋ねる。


「うふふ。それはですの」


 シフォンは、アランに対し妖艶な笑みを浮かべると、おもむろに自らが身に着けているローブを脱ぎ丁重に畳み部屋の隅に配置されているテーブルの上に置く。

 アランの視界には、美しき少女の背中。清楚な素肌が前面に映し出され、胸部と臀部を覆う白色の下着。それはシルクより織られているのだろう。少し遠目で見ても質の良さが伝わって来る。

 アランに背を向けるシフォンは、机の上に持たれ掛け少しばかり前屈みの姿勢を取り制止する。


「シ、シフォン様!?」


 シフォンの様子が、騎士道しか知らない少年には刺激が強過ぎたのか、アランは赤面させ両手で眼を覆いその場にしゃがみ込む。


「アラン様。殿方を前に綺麗な衣服への着替えは当然ですの」


 シフォンはくるりと振り返り、アランに向け妖艶な笑みを浮かべながら一言告げるが、洗濯済みで綺麗な衣服を手に持っている訳でも無く、着替えるつもりも無い様だ。


「で、ですが!?」


 このままでは極刑になってしまうのではないかと考えを過らせているのか、アランの声が乱れている。


「アラン様? 女性には不慣れですの?」


 シフォンは、顔を真っ赤にし屈んでいるアランに近付き、耳元にそっと吐息を掛ける。

 耳元より、慣れない空気を感じ取ったアランは背中をぞくりとさせ、慌てて立ち上がる。

 シフォン様との距離が近すぎる! 立ち上がったアランはシフォンとの距離を思わず1歩後退してしまう。


「は、はい。そうで御座います」


 アランは、王族であるシフォンの下着姿を見るなど言語道断、と思ったのか目を閉じながら返事をする。 

 シフォンは自分に対しての接し方に戸惑うアランの右手をそっと両手で包み込み、救い上げる。


「アラン様は真面目なお方ですね。けれどそれが素晴らしき事ですの。王女であるわたくしを嫌らしい目で見る殿方は数多く居ますの。その様な殿方で溢れる中、誠実にただ真っ直ぐに騎士道に励み、わたくしとも接して頂いている事、それはアラン様に好意を抱く理由の一つですの」


 シフォンは自分の表情を、日頃見せる柔らかな笑みに戻し、救い上げたアランの右手を自分の左肩へと乗せる。

 アランの手が自分の肩から離れようと力を込めているが、シフォンはその手が離れぬように力を込め、抑える。


「シ、シフォン様!? わ、私なんて騎士如きに好意を抱かられるなんてとんでもありません」


 シフォンに自分の右手を押さえつけられているアランであるが、強く抵抗してしまえばシフォンを傷つけてしまうと判断したのか、その抵抗を止める。

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