19話
「残念ながらそうよ。考えてもみなさい? ハルディオス隊長はセントラルジュ国に送り込まれた諜報員でもない限り生き残る事が不可能な状態だったのよ。その状況下で生きていたとならえば私に敵対する存在であっても可笑しくはない」
「ですが、あのハルディオス隊長が……」
「アラン? 貴方の気持ちは分かるけども、今起きている現実から逆算すればハルディオス隊長が私達を、セントラルジュ国を裏切った以外の答えが出てこないのよ。良い? 折角だから教えるけど、人間って表に見えている性格だけが全てじゃない。誰も見えない所で真逆の顔を見せる、なんて事は当たり前にある」
私は、自分の命に反論をするアランを叱ると同時に自分に言い聞かせる様に言ってる。
私自身、シフォンの裏の顔を見抜けなかった甘さはある。だからと言ってこの先第一王女である私が束ねばならない以上、自分の事を棚に上げる事になったとしても言わなければならない。
「申し訳ありません」
アランが深々と頭を下げ私に謝罪をする。
「いえ、分かれば良いのよ」
アランを納得させた私は、聖銃ハイリング・カノンの銃口を地面で突っ伏しているハルディオス隊長の胸元へと向ける。
「フィ、フィア様!?」
「ただの実験よ。この銃で倒された者を私のリザレクションで蘇生すれば私の下僕になるらしいからそれが事実か確認するだけ。最悪命を奪うだけになっても生き返らせれば何の問題も無い」
「そ、そうでした。失礼致しました」
セントラルジュ国内ですらも蘇生魔法が扱えるのは私だけだから、アランが蘇生魔法の概念を持たない人間と同等の反応をするのは自然な事か。
「な、何者だ!!!!」
私がハルディオス隊長の胸元に向け弾丸を発射しようとしたところ、洞窟の奥から人の声が聞えて来た。
多分、ヘルツオーク教徒で、この物資の搬入を任せられた奴等だろう。
さて、どうしたものか。正直なところ自分が供給した魔力に対するハイリング・カノンの威力が分からない。
今ハルディオス隊長が身につけているミスリル製の鎧を貫通し絶命させる為に必要な魔力量がどれ位なのか、鎧を貫通出来ず絶命出来なければ起こしてしまう事になるし、下手に魔力を注ぎ過ぎて肉片も残らないレベルで吹き飛ばしてしまったらそれはそれで彼の蘇生が出来なくなるだろうし、ハイリング・カノンの実験はこの邪教徒でやらざるを得ない。
「セントラルジュ国第一王女、フィア・ラルジュ。とでも言えば良かったかしら?」
私は、自分の髪をそっと掻き揚げ、ヘルツオーク教徒の心臓に向け銃口を構える。
「フィアだと!? おのれ、シフォン様の敵、覚悟しろ!」
こいつ等、麻薬か何かで脳内を支配されている? 私から突きつけられている銃口に対し全く動じる様子を見せない。いや、単にこの銃が何なのか理解をしていないだけ?
「そう、なら遠慮しない」
ヘルツオーク教徒が何かの詠唱を始める。
私の動きを拘束する魔法辺りか。
私は聖銃のトリガーを引き、ヘルツオーク教徒の心臓を目掛け魔力の弾丸を発射する。
パン、と火薬が爆ぜる様な音が聞こえた瞬間、私に魔法を掛けようと詠唱をしていたヘルツオーク教徒が大きくのけぞり地面に倒れ、胸元を押さえ始め呼吸を荒くする。
奴の胸元からは赤い血がにじみ出している。
どうやらこの銃から放たれる魔力弾の速度は凄まじい物みたいだ。
弾速重視の魔法で実現出来るか疑問に思える位には、トリガーを引いてからヘルツオーク教徒へ着弾する迄の時間は一瞬だった。
「おのれ、悪の化身フィアめ!」
目の前で仲間が倒れても私に対する敵意を失わない、その勇ましさだけは褒めるべきか。
「酷い言い草ね」
私は、仲間が倒れても自分に歯向かおうとする2人に向け1発ずつそれぞれの胸部に銃弾を浴びせる。
先に倒れた仲間と同じく、この二人も地面に倒れ胸元から血をにじみ出させている。
成る程、今の弾丸で心臓を打ち抜いただけでは即死しないか。
恐らくは失血死でその内死ぬ事になるのだろうけど、即死させたいならもう少し威力を上げるか頭部を狙う必要があるかもしれない。
「シシシ、シフォン様!!!!」
4人目のヘルツオーク教徒がシフォンを呼びに洞窟の後へ戻ったか。
シフォンがこの場に来るまで多少の時間はある。
出来ればハルディオス隊長を仲間にしておきたいけれど、私とアランとで安全に逃げ切るチャンスでもある。
……ここは危険だけども、ハルディオス隊長を仲間に引き入れよう。
私は、心臓を魔力弾で打ち抜かれ苦しんでいる3人のヘルツオーク教徒の頭部を目掛け1発ずつ魔力弾を撃ち込む。
魔力弾は綺麗に彼等の頭部を貫通、瞳からは光を失いぐったりとする。
彼等の頭部を撃ち抜いた以上即死で問題無いだろう。
続いて私は、最初に魔力弾で撃ち抜いたヘルツオーク教徒に近付き、神聖蘇生を掛け、蘇生を試みる。
私の蘇生魔法を受けたヘルツオーク教徒の身体に白い光が包み込み、その肉体目掛け天使の様な、白き美しき鳥様な形状な光が降り注いだ。
これで、数秒もすれば全ての傷を癒した後に彼は再び目を覚ますだろう。




