17話
「ハルディオス隊長、生きていたのね」
私に声を掛けられた男は私の方へと振り返り、目を見開き暫し唖然とする。
筋肉質でこげ茶色の髭面をしている男はハルディオス隊長の特徴と一致しており、この男がハルディオス隊長である事は間違い無い。
ただ、私の姿を見て目を見開いて唖然とした理由が少し気にはなるが、この状況で何者かから話掛けられる事を想定していなかった故の挙動だと良いんだけど。
私が脳内でハルディオス隊長の挙動に付いて考えていると、彼は私がよく見て来た騎士としての真摯な表情へと戻し、手押し車から抜け出し私の元へ近付き敬礼を見せ、
「フィア様、よくぞご無事でおられました、このハルディオス。フィア様の事が気掛り故に夜も眠れませんでした」
その割に、ハルディオス隊長の目には隈が出来ていない。
単なる社交辞令と言う奴か? しかし、彼の言葉から第二王女であるシフォンの事を気に掛けている様には聞えない。
気に掛ける価値が無いのか、気に掛けないで良い理由を知っているのか、単に今彼の目の前にいる人間が私だけだから私に向けた言葉を発しただけなのか。
少し引っかかる所なのだけども、多分不用意に詮索しない方が良さそうか。
「そう、それは感謝するわ」
「有難きお言葉に御座います。折角の再会であります最中、誠にご無礼と存じ上げますが現在わたくし目は非常に重要な任務中であります」
それはつまり、見れば分かる通り今運んでいる物資をこの洞窟の奥へと運ぶ事だろう。
気になる事を言われた以上少し追及するべきか?
「第一王女との奇跡的な再会よりも優先される任務? 一体何かしら?」
私の問い掛けに対し、ハルディオス隊長が目を泳がす。
やはり、何かある気がする。
「申し訳ございません、王族からの御命令ですので」
ハルディオス隊長が目を泳がせたまま答える。
これでは何か嘘を付いている様にしか見えないが、シフォンとの関係性を隠したいと言った所か。
多数の敵兵と対峙した以上絶対に死んでなければ可笑しい状況で生き残っているという事はそれ以外有り得無いのだけど。
「そう。私を無視出来る王族ならおじい様おばあ様かしら? けれどお二方がルシド大陸に戻った話は聞かないわね」
ハルディオス隊長が一瞬だけ私に目を合わるがやはり視線を外し、
「国王陛下からの御命令御座います。この件は王族含め内密にとの命を受けております故に申し訳御座いませんがフィア様と言えど口外する事は出来ませぬ」
お父様からの命令? こいつは父上や私達王族を逃す為の盾となった。
多数の敵兵が城内に押し寄せた状況下で親衛隊の人間が生存する事は不可能で、つまり何かあった時このアジトに逃げ込めなんて命令を受けているとは考え難い。
つまり、嘘をつく事が下手な人間がこの場を取り繕うためについた嘘と考える事が妥当か。
シフォン自身、裏で他国のヘルツオーク教の信者を操って今回の騒動を起こしたと言っていた。ならば、セントラルジュ国内にもヘルツオーク教の信者が居ない訳が無い。
ハルディオス隊長が多数の敵と対峙しても生き残ったという事は、その時襲撃していた敵達とは内通していた為命を狙われる事は無かったのだろう。
私は、ハルディオス隊長がここまで運んで来た荷物をチラ見する。
雑に見るだけでも特殊な輝きを放つ宝石や金貨、絵画等セントラルジュ国内の宝物庫で見覚えのある物が積まれている。
聖銃ハイリング・カノンを含めこれらの物はセントラルジュ国の宝物庫から運んだと考えるのが無難だろう。
これ等の物資は、シフォンがハルディオス隊長に命じヘルツオーク教の資金源としてセントラルジュ国の宝物を運ばせたと言った所か。
「それは本当? つまりこの先にお父様が居ると?」
私が訪ねても、やはりハルディオス隊長は私に目を合わせようとはしない。
「……いえ、国王陛下はここにはおりませぬ」
ハルディオス隊長が私と目を合わせる。つまり、今この瞬間嘘は付いていないのか。
ならば、アプローチ方法を変えてみるか?
「そう? なら、何故セントラルジュ国宝物庫にあった物がその台車に積まれているのかしら?」
「それは口外出来ませぬ」
あくまでシフォンの事は隠すつもりか。
なら、
私は、ハルディオス隊長が私に対し武力行使をする可能性を考慮し護身の為ラディンを召喚する。
「お父様とお母様は、私達を逃す為犠牲になられた。だから貴方が言う通りお父様はここにはいない。けれど、面白い話があるのよ。シフォンが、実はヘルツオーク教の教祖だった。つまり、貴方はシフォンの命令に従い行動をしている、違うかしら?」
ハルディオス隊長は、再度目を泳がす。
「ははは、フィア様は想像豊かで御座いますね。まさかシフォン様がその様な事を……」
素直に真実を吐かないか、彼が腹の中で何を考えているか気になるところだけど。
「その様な事を本人が言っている。あのねぇ、貴方。親衛隊は私達王族を逃す為に戦ったのよ。で、今私がここに居るとなると、私以外にもお父様かお母様かシフォンとアランの誰かが居る可能性が高いワケ。けれど貴方は、100歩譲ってアランは兎も角としても私以外の王族の心配は一切しなかった。まるでそれらすべての安否を知っているかの様に」
ハルディオス隊長が唇を噛み締めだした。
彼にとって私の存在が邪魔である可能性が見えて来たが、さてどうしようか。




