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亡国王女は諦めない  作者: うさぎ蕎麦
2章「ヘルツオーク教」
15/44

15話


―シフォン視点―


 姉であるフィアと若き親衛隊員アランを牢獄に閉じ込めたシフォンは一旦落ち着く為、このヘルツォーク教アジト内にある自分専用の個室と同意義の場所へ訪れる。

 シフォンはこの場所の隅に配置されているテーブルの前にある椅子に座り遠くを見つめながら思案にふけっていた。


(お姉様が私に従わない事は計算通りですの、それは当然ですのお姉さまは恐らくマシンテーレの野望も知らないのですから。ヘルツォーク教の拠点をマシンテーレに作る事で、マシンテーレ国は巨大な人型兵器を建造している事を知りましたの。お父様お母様もこの事はお知りになられていたけれど、でも、敵国と戦おうとしませんでした。ならばセントラルジュの民の魂を集めて、邪神ヘルツォーク様召喚に役立てるべきでしたの。わたしが何もしなくともセントラルジュ国は同じ様に滅ぼされるのでしたら少しでもマシな選択を選ぶ事に間違いは無かったのです)


 シフォンは首から下げている、小石程の大きさで丸い宝石が組み込まれたペンダントをそっと手に取り眺める。

 その石の色は灰色をしており、何処か禍々しい空気を纏っていた。


(少しだけ、このペンダントが迷える魂を吸収したみたいですの。お姉様により蘇生される可能性を知らない魂は肉体を失った現実を知ると浄化しようとします。それ等の魂をこの宝石が吸収するですの。どれだけの魂か分からないですけど、この宝石が満たされるだけの魂が集まれば、きっと邪神ヘルツォーク様を召喚出来ますの。ですが、わたしの魔力だけでは絶対に制御できませんの。少なくともお姉様の力が無ければ、あっても難しいと思いますけど。難しいのですけども、わたしがヘルツォーク様を使いこなせなければ、ヘルツォーク様によって大陸を支配し全ての敵を根絶やさなければルシド大陸に真の平和は訪れませんの。外交なんて言葉だけで平和は勝ち取れませんの)


 シフォンは机の端に置かれていた羊皮紙と羽ペンを手繰り寄せ、何かメモの様なものを綴り出す。


(お姉様は早ければ明日にはこのアジトから脱出するでしょう。わたしの邪術ですらお姉様を止める事は不可能ですの。ですが、アラン様を洗脳する事は容易ですの。お姉様がこのアジトに再訪してもらう為にもアラン様は人質になって貰いますの。お姉様には表舞台で戦ってもらいますの。わたしもお姉様も近接戦闘は苦手ですの。このアジトにわたし達が扱えそうな丁度良い武器がありますの。教徒ヅテでお姉様に渡す事にしますの。お父様とお母様の御遺体はもうすぐこのアジトに運び込まれてきますの。わたくしの邪術で蘇らせわたくしの命令通り動く忠実で優秀な駒になって頂きますの)


 シフォンは羽ペンの先をインクに浸し、羊皮紙に今後の計画を綴り出したのであった。


―フィア視点―


 私とアランはシフォンによって投獄された場所で一夜を明かした。

 部屋の中に1台だけ設置されているベッドは私が使う事になり、アランは洞窟内であるが故の砂利交じりな床で寝ていたみたいだ。

 私としてはシルフィの力を使えば空中で横になって寝る事も出来たけど、私を差し置いてベッドを使う事に強い抵抗を示すアランがそれを許す訳も無く。

 アランの性格を考えて私が折れなければ押し問答が続きそうで、また、シルフィを使うとなると少なからず魔力を使ってしまう訳でそこまで考えれば大人しく私がベッドを使った方が有益だと判断をした。

 王女の私が折れると言うのも少し変と言えば変だけど今の状況を考える限りそんな事は言ってられない。

 昨日の夜も今日の朝も私とアランに対し食事はしっかりと運ばれて来た。

 どちらの食事も少々硬いものの十分な量のパンと、野菜が十分に入れられた塩とコンソメで味付けられた温かいスープに近場で取れたと考えられる小型の魚が数匹でどちらかと言えば食べきる事に悩む様な量であり、投獄はされているものの洞窟内である事を考慮すれば私とアランの扱い自体は良いと考えられた。

 朝の食事を終えると、アランは日課となっている鍛錬を始め出した。

 鎧等の防具を脱いでいるアランの肉体は美しく鍛えられており、バランス良く付いている筋肉は中々の美しさを見せていた。

 日々の努力を積み重ねた成果だろう。

 器量も良く美しい肉体を備える金髪の美少年であるアラン、きっと一般女性の間ではさぞかし人気が高いのだろう。

 もしも私が王族で無いのならば、もしかしたらアランになびいているかもしれない、なんて考えが過る程度には魅力が高いと感じられた。

 のだけども、少なくとも私はアランに恋人が居た事があると言う話を聞いた記憶が無い。

 この辺、私自身色恋沙汰に対する興味が薄いから何とも言い難いのだけども。

 

「フィア様も何かなされないのですか?」

「魔導関連の著書も何もない場所じゃ何もしようが無いわよ」

「そうですか? 腹筋や腕立て伏せ辺りなら難易度も低いですし楽しいですよ」

 

 何だか無垢な少年の様に楽しそうに言うアランだ。

 しかし、生憎私はそんな泥臭い事を楽しいと思えない。


「そう。折角だけどパスね」

「そうですか、下らない事を言ってしまい申し訳ありません」

「別に良いわよ、そんな事」


 アランは相変わらず律儀な奴だ。

 このまま数時間私は時折アランの姿を眺めながら、固いベッドの上でゴロゴロしながら何も考えずぼーっとしながら過ごしていた。

 そろそろシルフィに偵察でも出そうかと思っていた矢先、ここに入って3度目の食事、恐らくは昼食が運ばれて来た。

 内容は大雑把に今までの2食と変わらず、スープに投入する具材や魚の種類が変わる位だったが、やはりこの環境ならば十分過ぎると考えるべきだろう。

 食事を終え、一息ついた所で私はシルフィを召喚しようとした。

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