13話
「だから、その才能を生かしたかったと」
「仰せの通りで御座いますの。折角この世に生を受け、そこに素晴らしき才能があると知ったならばそれを生かさなきゃ勿体無いと思いますの」
シフォンが邪悪な笑みを浮かべながら答える。
何だか今まで見せていたシフォンと言う人間は全てそれが演技により作られていたかのような邪悪な笑みだ。
「な、ならマギーガドル国に嫁げば……」
私は何を言っている!?
確かにマギーガドル国なら邪術使いが紛れていてもセントラルジュ国より目立つ事は無い。
けど、私レベルの邪術を扱えば周りから非難を浴びる事に間違いはない。
「お姉様何をおっしゃってますの? わたくしもお姉様の様に自分が扱う魔法で皆様から心よりの賛美をお受けしたかったんですの。お姉様が、高レベルの神聖魔法を扱う度、高レベルの召喚魔法を扱う度周りの皆様から賛美される事はもの凄く羨ましかったんですの。わたくしが貰える言葉は、同情に秘めた憐みの言葉だけだったですの。ですが、ここでならば、ヘルツォーク教ならばわたくしは皆様から心よりの賛美をお受けする事が出来る訳ですの。マギーガドルなんて下等な国家に嫁いでもわたくしの才能を賛美する人間は誰もいないですの」
私が周りに賛美されていた事を羨ましく思っていたのか。
私としてはちょっと魔法を使うだけで周囲の人物が賛美しに来て一々鬱陶しいだけで、むしろ必要以上に周りが関与しないシフォンの事を羨ましく思った事もあるが、その事を今言っても無駄だろう。
「だからと言って世界を混沌に導いてどうするのよ」
「お姉様? 混沌じゃないですの。世界を導くだけですの国の干渉を受けては世界を導く事が出来ませんの、だから私が邪神ヘルツォーク様による世界を導く為ヘルツォーク教の教祖になったんですの」
「アンタ何言ってんの!? こんなちっぽけな宗教だけでモスケルフェルト国やマシンテーレ国を倒せると思ってるワケ!? 確かにこのアジトを見付けるのは難しいけど、でもいつかどこか見付かってせん滅させられるわよ!」
シフォンの言葉に対し私は思わず強い口調で反論をしてしまう。
「お姉様? わたしがそんな間の抜けた事をすると思っているんですの? ヘルツォーク様を信仰する信者はモスケルフェルト国にもマシンテーレ国にもマギーガドル国にも居るんですの」
シフォンが不敵な笑みを一つ浮かべる。
「だからどうしたの? 各国にこの宗教団体が居たとしても、けれどそれは少数でしょ、少数の教団なんて見付かった瞬間造作も無く潰される」
「お姉様、お気付きになられませんですの? モスケルフェルト国やマシンテーレ国なんて野心の塊の国、少々野心を煽るだけで国の中枢に入り込む事なんて容易な事ですの」
つまりどういう事? ヘルツォーク教の人間がモスケルフェルト国やマシンテーレ国の中枢に入り込む、つまり政治に介入したと言う事? で、政治に介入し自分達を襲撃させないようにした? いや、それだけじゃない、だからその。
私の脳の中で埋めてはいけないパズルのピースが居場所を求めやって来た気がする。
けれど、揃う事を望むパズルがその求めていたピースを拒む事をする訳が無く。
それはつまり、ヘルツォーク教の人間達も結託しセントラルジュ国へと攻め込んだと言う仮説が成り立ち、それが意味する事は、妹のシフォンがヘルツォーク教の教祖であるならばその攻め込んだ件について裏で手を引く黒幕であった、と言う仮説も成り立つ。
だから、シフォンが、妹のシフォンがお父様とお母様を間接的に殺害したと言う事にもなる。
「つまり、シフォン、貴女が」
私の脳内で理解不能な予測が駆け巡っている現状、これ以上言葉を出す事が出なかった。
「そうですの。お父様とお母様はわたしに素晴らしい血を与えてくれませんでしたの。わたしが持つこの才能は、おばあ様のお陰ですの。素晴らしい血を与えられたお姉様はお父様とお母様を崇高しても、わたしは恨みしかありませんの」
私の代わりにシフォンがためらいも無く言う。
確かに、私の母型のおばあ様はモスケルフェルト国とマギーガドル国の人から生まれたマギーガドル国出身の人だ。モスケルフェルト国とマギーガドル国、そしてセントラルジュ国の血筋が混じった事で隔世遺伝を起こし邪術に目覚めるなんて事は有り得なくもない。
ふとおばあ様の事を思い出す。
確かにおばあさまは私よりもシフォンを可愛がっていた様な覚えがある。
そう言えば、おばあ様も僅かながらに邪術を使えた様な? 私が産まれる遥か前にもセントラルジュ国が敵国によって襲撃された際、おばあさまが墓に眠る死者をネクロマンス法により蘇らせ、戦闘兵として使役し敵襲を撃退したなんて事を聞いた事がある。
そのおばあ様は、私が10歳になった頃おじい様と共にこの国の戦闘力を高める手段を探しに行くと遠く旅だったと聞く。
具体的な場所は聞かされておらず、噂に聞く限りではルシド大陸とは別の大陸に向かったとかなんとかいう話で、少なくとも今現在セントラルジュ国に居た、なんて事は無かった。
「だけどアンタ、お父様とお母様が亡くなった時号泣したじゃないの!」
シフォンの言葉を否定したいのかもしれない。
気が付けば私はまた強い口調でシフォンに反論していた。




