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アスターテール~今日から半分、神になったらしいですが~  作者: 小鳥遊一
寸劇「はっぴー☆ばれんたいん」
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寸劇「はっぴー☆ばれんたいん」②

「ふむふむなるほど。つまり、ばれんたいんでー……もとい、バレンタインデーは主に女性が色々な意味合いでもって男性にチョコレートを渡す日であるということですね!」

 それから一時間後。エルシェの案内で出会ったメイドさんからバレンタインデーのざっくりとした概要を教えてもらい、俺たちは宮殿の廊下を歩いていた。

 曰く、バレンタインデーとはセルビオーテを中心に伝わる祝日のことであり、カップルや親しい間柄にある男女が贈り物を交換し合ったりして感謝や愛の意思表示を行う日らしい。

 セルビオーテ以外の国々にも似たような慣習はあるらしく、例えば同じ《旧列強》の双璧を担う西のキュラス共和国では男性が女性に花を贈ったりするのだそうだ。

 一方、ここエンブリアや遠い異国の地“東桜”では女性が男性にチョコレートを渡すらしい。

 なぜ贈り物がチョコレートなのかはわからないようだ。ただし、一節によればお菓子を取り扱う商会が歴史の裏に暗躍しているとかいないとか……。

「セルビオーテで毎年行なわれる恒例行事みたいだな。でも、なんでそれがあんなに俺の感情を刺激したのかは結局わからないままだ。ひょっとして俺はセルビオーテ出身だったのか?」

「可能性はあると思います。ただ、それならセルビオーテの町並みや文化に触れた時にその現象が起こらなかった理由がわかりませんけど」

「そうだよな。ぶっちゃけ、セルビオーテの《記章》を見た時も、エンブリアの宮殿を見た時も、別に懐かしさとかは全く感じなかったし。なぜかバレンタインデーって言葉にだけ反応したんだよな」

 うーん、謎だ。

「謎ですね……」

「だな。まぁ、わからないからには仕方ない。そのうち思い出すこともあるかもしれないしな」

 記憶のことは一旦置いておくことにする。

「それはひとまず保留ってことで……んでエルシェ、今日はどうする?」

 俺とエルシェ、それからもう一人は、訳あって連邦スフィリアを巡る旅をしている。

 ここセルビオーテ連合王国には道中ちょっとした縁があり、これまた語ると長くなる程度には色々なことがあって、しばし宮殿に滞在させてもらっているわけなのだが──出発を予定している日までにはもうしばらく日数があった。

 まぁ、魔獣と戦ったり密輸商人と戦ったり謎の傭兵と戦ったりハイジャックを阻止したり某貴族の謀反を暴いたりと、ここ最近はなかなか忙しい日々を過ごしていたので休養期間として束の間の平和な日々を謳歌している。

 昨日はこの宮殿の主にしてこの国の王女であるソフィアや従者のラスタと宮殿付近を散策した。ちなみに例の如く『もう一人』さんは未参加である。アイツ……。

「出発の日までにはまだ時間があるが、またエンブリアの街を一回りして散歩でもするか?」

 横を歩く彼女の方を向き、散歩を提案するとエルシェは「うーむ、そうですねー……」と腕を組んで唸った。

「それも悪くありませんが、今日は少し用事が入ってしまったので私は失礼します。大事な用事ですから、そちらの方を優先しますね」

「用事? 珍しいな、エルシェが?」

「なっ、私にだって大事な用事の一つや二つくらいあります! 誇り高き騎士なんですからね! 立派な騎士なんですからね!」

「誇り高き騎士であることと用事の多さとの間に因果関係はないと思うが」

「ともかく! 今日はダメです。ダメな日です。悪いですが少年、一人でお散歩してください」

「ええ……? まぁ、無理に誘うつもりはないけど……他に用事があるなら仕方ないか。ほんじゃレイナでも誘ってみるかな、はは」

 勿論冗談である。たとえ天地がひっくり返り俺が記憶を取り戻しエルシェが騎士を諦めソフィアがダジャレを卒業するようなことがあろうと、まさかあの《魔獣殺し》殿が俺のなんてことない遊びの誘いに乗ることなどないだろう。あったら逆に怖い。

 というかそもそも、レイナはどこにいるのかすらわからない。神出鬼没の彼女は今宮殿の中にいるのかすら怪しいのだ。

 従って、このちょっとした冗談は当然エルシェにも伝わるものとばかり思っていたのだが──。

「……レイナ、ですか」

 呟くとともに一瞬、彼女はひどく寂しそうな、悲しそうな表情を浮かべてうつむいた。

「……エルシェ?」

 何かまずいことを言ってしまったのかととっさに後悔の念を抱きつつ彼女の名を呼ぶ。

 だが、次の瞬間何事もなかったかのようにエルシェは平然と「なんですか?」と答えた。

 今のは見間違いだったのだろうか? 

 光の差し方が原因で、彼女の顔に暗い陰が映ったように見えたのだろうか?

 追求するべきかどうか迷ったがしかし、わざわざ言うほどのことでもないと判断して俺は「いや、なんでもない」と答えると、そのまま彼女と別れた。

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