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アスターテール~今日から半分、神になったらしいですが~  作者: 小鳥遊一
第二章後編《連合王国》セルビオーテ編
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第63話『vsラスタ戦』

「フーッ……フーッ……!!」


「やっぱりお前か、ラスタ……ッ!!」


 彼女はやはり、現れた。カーペットの敷かれた床を破壊し、もくもくと砂煙が立ち上る中───こちらを睨みつける猫のように細められた琥珀色の瞳が煌めく。


「おい、ラスタ! 聞こえるか!? お前、何をされたんだ!?」


「……ああッ……あああああッ!!」


 彼女の目を覚まさせるべく呼びかけてみるも、ラスタは答えない。


 その代わりに一際大きな叫び声をあげると───俺に向かって飛びかかってきた。もちろんその手には、彼女の背丈ほどもある長大な大剣が握られている。

 大剣はラスタの雄叫びとともに振り下ろされ、圧倒的な質量が破壊的な威力を伴って俺の頭上に───到達するはずが、横から投げられたナイフがすんでのところで大剣の軌道をずらす。

 またもやレイナに助けられてしまった。飛行船での戦いからずっと俺は彼女を頼りにしてばかりだ。


 と、そんなことを考えている場合ではないと俺は慌てて意識を眼前に戻す。

 目の前に落下してきた大剣が再び小規模な爆発を引き起こし、凄まじい轟音とともに衝撃波が放たれた。


「っ……やっぱり駄目か……!」


 やはり、言葉ではラスタを正気に引き戻すことは難しい。

 だからこそあの男、クラウス・クラインロートの持っていた黒い指揮棒のような物体を破壊しなければならないのだが、しかし肝心の奴は一体どこに隠れているんだ───と、ちょうどその時。


 ロビーの最奥、そこから伸びる階段の一番上。最初オズボーン卿がいた場所から、突如として男の声が降り注いだ。


「おや、あなたは……どうしてここに? 危ないですよ」


「クラウス・クラインロート……ッ!!」


「名前を覚えていただけていたようで何よりです。あなたはたしか……すみません。名前をお聞きしそびれていましたね。お聞かせ願えますか? 少女のためにはるばる斯様な場所まで乗り込んできた、勇敢なあなた様の名前を」


「はっ、お前に自己紹介してなんになるんだよ」


「ふむ、どうやら随分私を嫌っていらっしゃるご様子。なぜでしょう? 私、あなたに何か失礼な真似をしてしまったのでしょうか? 悲しいですね、全くです」


「おお、クラウス殿ォ!! 私を助けに来てくださったのですな!? さぁ早くこの縄を解いてくだされ!!」


「……」


「あ、あれ……? クラウス殿……?」


 クラウスは自分を助けに来たと喜ぶオズボーン卿をガン無視し、階段の上で俺たちを見下しながらやれやれと肩をすくめる。

 その右手には───やはり怪しく発光する、黒い棒。

 あれだ、あれで間違いない。よく見ればその棒は、「はッ、はッ……」と荒いラスタの息遣いと全く同じタイミングで発光していた。


 やはり、何かの関係がある。


「ラスタ! こっちを見て! 私の声が聞こえていないの!?」


 ソフィアが賢明に声をかけるも、ラスタはまるで見向きもしない。

 先程ラスタを正気に戻しつつあった実績のあるソフィアだったが、今回は彼女の言葉も届かないようだ。

 それはつまり、ラスタはより深くベスタ化しつつあるということだろうか?


「ラスタ? ああ、『赤の従者』のことですね。彼女は既に私の制御下に入りました。未だ完全に目覚めてはいませんが───セラフィムとして覚醒するのも、時間の問題です」

「ッ! やっぱりお前が、ラスタを……ッ!」


「ああ、余所見なさらないで。危険ですから、そこ」


「ぐっ!?」


「ああ、あああッ!」


 突然男がゆっくりと、俺を指差したかと思えば───直後、俺のいた場所に大剣が振り下ろされる。


「クソッ……ラスタの狙いは俺か!? なんで!?」


「あああああッ!!」


「少年! 狙われてます、逃げてください!」


「言われなくてもっ!!」


 俺は身体の向きを変え、エルシェ達から遠ざかるように広いロビーを走り出す。


「ああッ」


「やっぱり俺だけ狙われてる!?」


 するとラスタは俺を追うようにして跳躍した。

 どうやら彼女は、俺だけに狙いを定めているらしい。

 ど、どうして!? ラスタからしたら、危険度───つまりは戦闘能力の高い脅威になり得る存在から排除していったほうが都合がいいのに。


 なんで俺だけを執拗に狙ってきているのだろう。まさか、ラスタを制御していると言っていたあの男がッ───と、


「ああああああッ!!」


「うおっ!! 危なッ!?」


 俺のすぐ後ろ、ほんの数センチ離れた場所に大剣が落下してくる。

 あとほんの少し走るのが遅れていれば餌食になっていた。


 ───これは、危険な状況だ。正直神格を抜きにした俺の純粋な身体能力は、この場にいるメンバーの中で最も低いといって差し支えない。

 レイナでようやく戦えるぐらいの能力を持つラスタ相手に俺一人が逃げきることは不可能。

 正直、今こうして思考してはいるが、一秒後にはミンチになっていてもおかしくないくらいの窮地なのだ。


 逃げ切れない。

 わりと普通に、死ぬかもしれない。

 ならば、使うか? アレを。

 神格化することで俺が全身に纏える障壁の硬さは、ぶっちゃけ言って今のところ未知数だ。

 だがあのユーリエンの渾身の一撃をも耐えしのいだのだ。大剣の一撃くらいならきっと防げるだろうし、そもそも神格化すれば俺のあらゆる身体能力は劇的に強化される。


 攻撃を食らわずに避け、気絶させる程度の一撃を当てて無力化───させることはできるかもしれない。


 けど。けれど、まだ使うには早い気がする。

 神格を使うべきはここじゃない。不思議と直感がそう告げていた。


 ならば。


 ならば、今のうちに。


 俺がラスタの気を引いている、今のうちに。


「レイナッ!」


 いつの間にか遠ざかっていた彼女を見る。アイコンタクトだ。

 レイナは俺を助けようと走り出そうとするエルシェを止めていたが、俺の視線を受け、その意図を察してくれたようで───。


「……」


 不満げな表情で何事かつぶやくとため息をつき、大きくその場から影となって真上に飛び上がる。


 驚異的な跳躍。そして階段の上へスタッと華麗に着地し、クラウスの目の前に姿を現した。右手に持っているのはお馴染みの黒いダガー。まさに暗殺者、という雰囲気だ。


「───!?」


 クラウスは目を大きく見開き、咄嗟に後退りする。


 当然だ。クラウスからすれば、何もない空中からいきなりコートを纏った黒ずくめの少女が飛び出してきたにも等しい。


 もはや超常現象の類である。


 だが、それでも護身用の武器は最低限隠しもっていたらしく、クラウスは袖から一本のナイフを抜き出すと、焦った表情のままレイナに向けて振りかぶり、


「……」


 しかしそれを許す《魔獣殺し》ではない。レイナは最小限の身さばきでナイフを交わし、隙だらけの姿勢となったクラウスの手、より正確にはその手に握られている黒い指揮棒に向け───黒いダガーを振り抜いた。


 一瞬。

 勝負は、今のわずか一瞬で決着した。


「───」


 男の手から弾けるようにして割れた指揮棒の破片が辺りに飛び散り、シャンデリアの光を反射してキラキラと輝く。それは、緊迫した状況に全く似合わないほどの幻想的な光景だった。


「よっしゃレイナ、さすが───!」


 と、俺は思わずガッツポーズをしてしまった。だがそこでガシャンと大剣の鳴る音がする。今のは……ハッと我に戻り、ラスタから目を放していたことを後悔する。


 しまった───だが背後を振り返ってみるとラスタは───「うう……ッ」と頭を押さえ、大剣を取り落としてその場にうずくまっていた。


「ラスタ……?」


 よかった、元に戻ったのか!? やはり、クラウスの持っていた指揮棒のような棒がラスタのセラフィムとしての覚醒に大きな影響を及ぼしていたらしい。


「ラスタッ!!」


「ソフィア、エルシェ」


 背後から聞こえてきた声に再び振り返れば、向こう側から慌てた様子で二人が駆け寄ってくる。


「はぁ、はぁ……ラスタ、大丈夫ですか?」


「うう……ううう……!!」


 到着した二人はうずくまったラスタを心配したのだろう、ゆっくりとその背中に手を伸ばそうとして、


「待って」


 突如入り込んだレイナの声に静止された。気づけばソフィアとエルシェの隣にレイナが立っている。


「レイナ!? いつの間に……あ、あそこからこの短時間でどうやってここに……いや、今はそんなことどうでもいい。あの男は……クラウス・クラインロートはどうなった?」


「例の指揮棒は完全に破壊したわ。あのクラウスとかいう男は指揮棒を破壊されるや否や、隠し持ってた煙幕弾を起爆させて逃げていったわよ。追っても良かったけれど、今はこっちの対処が最優先でしょう」


「ッ、逃げられたか……」


 ルフトヴァール船内で戦ったユーリエン・ユヴァーレン然り、こうも戦った敵に逃げられてしまうと、モヤモヤする。なんというか……必ずまた、顔を合わせることになる気がして嫌な予感がするのだ。だが、逃げられてしまった以上は仕方ない。


 レイナの言う通り、今集中すべきはこっち───ラスタのことだ。


「彼女、やっぱりまだ様子がおかしい。強力なベスタの気配もまるで弱まってないわ」


「うう……ッ!!」


 ラスタは頭を掻きむしっていたが、突然ピクリとも動かなくなる。


「お、おいラスタ……大丈夫、か?」


 心配になり、彼女に手を差し出そうとすると───。


「あ、あああああああッ!!」


「嘘だろ───ッ!?」


 ラスタは俺の手を振り払い、絶叫して大きく後ろに飛んだ。手と足が地面についたままの、四足歩行の姿勢で、だ。

 そして距離を取り、少し離れた獣の間合いから俺たちを睨みつけるその姿は───相変わらず、獣のソレ。


 ラスタであってラスタではない、その状態がまだ。


 まだ、続いていた。


「そんな……!! あの棒を、破壊したのに……!! あの棒とラスタのベスタ化は無関係だったということですか……!?」


「ラスタ!! しっかりしなさい!! 私よ、ソフィアよ!!」


「ううッ……あああああッ!!」


 ソフィアの呼びかけに頭を振り回し、ラスタは吠える。先ほどはまるで届いていなかったのに、今はソフィアの声が届いているのか……!?

 と、いうことは。


「ベスタ化は、弱まってはいる……!!」


 あの指揮棒を破壊したのは完全な無駄ではなかったのだ。これなら、まだきっと可能性はある。たとえば時間が経てば、ベスタ化が後退して彼女は元に戻るかもしれない。


 彼女を一定時間沈静化する手段を考えれば、


「───それでも。この状態の彼女を誰が、どうやって止めるというのかしら?」


 だが───そこで前に進み出たのは黒ずくめの少女、レイナだった。

 彼女の手には、先程クラウスの棒を破壊した黒いダガーが握られていて。

 俺はオズボーン邸に突入する前、彼女が俺に手を貸すにあたって要求した『条件』のことを思い出す。

 彼女の示した条件。それは、もし指揮棒を破壊しても尚ラスタが止まらないようであれば、自分がラスタを殺すというものだった。


「レイナ! 待て! ラスタのベスタ化はたしかに弱まって……!」


「でも、元に戻りはしなかった。それが現実でしょう? 彼女はまだベスタよ。このまま方っておけば、必ず誰かを傷つけてしまうわ。近衛兵、だったかしら? 足音からわかるのだかれど、彼らももうすぐそこまで来ているわ」


「でも、まだ可能性がなくなったわけじゃ……! 時間が経てば戻るかもしれない! 例えば動きを止めるなりして、無力化すれば……!」


「どうやって彼女を無力化するの? 言っておくけど、休眠状態にないベスタを拘束するのは難しいわよ。そもそも縄をかけることが困難だし、たとえ一時的に拘束できたとしても……そこらの縄では引きちぎられるわ」


「ぐっ……!」


 なんとかしなければならない。このままでは、ラスタはレイナに殺されてしまう。


 考えるんだ、考えろアオイ! これまでの記憶を、レーヴェで目覚めて、ルフトヴァールに乗って、このセルビオーテまでやって来た今までの記憶を辿って───この状況を打破しうる答えを導き出せ!


 レイナの説得は困難だ。それに、もし説得できたとしてもレイナの言う通りラスタを無力化する手立てがなければどうしようもない。


 神格化して、ラスタを倒す? それも一つの手段としてはアリだ。だが……神格化が切れる前に彼女を倒せるのかはわからないし、不測の事態もあり得る以上戦いはできる限り避けたい。


 何か、何か使えるものはないか?


 周囲を見回す。


 辺りに転がっているのは波際に打ち上げられた魚のように無様な姿勢でしくしく泣いているオズボーン卿。それから奴の私兵が持っていた武器に、奴が転んだ表紙にぶち撒けた宝石や装飾品。それから───。


「ん? あれは、まさか……!!」


 オズボーン卿の近くに転がっていたとあるモノを見つけ突如、俺の頭に閃光が走る。


 これがもしも、俺の思っているモノであるならば、あるいは。


 事態を打開する唯一の鍵に、なるかもしれない。


「───ソフィア!! あれを見てくれ!!」


 目を丸くするソフィアに向けて、俺はそのとあるモノを指差した。

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