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アスターテール~今日から半分、神になったらしいですが~  作者: 小鳥遊一
第二章前編 《飛行船》ルフトヴァール編
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第41話 『半神・殺し屋vs傭兵』

「───よし、行くぞレイナ!」


「───勝負は短期決戦。短時間で決着を付けましょう」


 右腕からゆっくりと手を離し、大きく深呼吸とともに槍を両手で構える。槍なんて使って戦うのはおろか、持ったことすら今回が初めてだ。けれど、やるしかない。

 幸いにも『神格』を引き出し、神格化することにはたった今成功した。あと考えるべきはこれがどれくらいの時間持続するのか、だ。


 参考になるかもしれないと、俺はこれまで二回にわたって神格化してきたレーヴェでの戦いを回想する。

 あの大蛇のベスタとの戦いでは───体感時間にして三分、その後の密輸業者との戦いでは五分と少しと言ったところだろうか。なら、少なくとも三分間は戦えると考えていいだろうか? 思い返してみれば『神格』に対する代償───全身に襲い来る激しい痛みは、一回目よりも二回目のほうが強烈で長引いていた。


 神格化していた間の時間とその後の代償には関係があると見ていいだろう。


 ───痛いのは、正直怖い。いやだ。


「でも……今はやるしかないよな」


 ここにはソフィアがいる。ラスタがいる。この飛行船で知り合った、たったそれだけの仲に過ぎないが……それでも、一度関わってしまった人間を目の前で見捨てることはしたくない。代償を後に払うことになるとしても、今逃げたくはない。


 自分で自分の頬を軽く叩き、活を入れる。そして覚悟を新たに、数メートル先のユーリエンをきっと睨みつけると───。


「お前今、なんて言いやがった……『神格』だと?」


「ッ!?」


 冷たく濁った、感情を感じさせない翡翠色の視線が俺を射抜く。


 何かがおかしい。先程までのユーリエンとは、様子が明らかに異なる。張り付いたような笑み、飄々とした軽快な雰囲気はもはや、彼のどこにも見当たらない。


「ああ、なるほどな。あの時デッキで出会った時にどこかシンパシーを感じると思ってたが、そういう訳か。ははは、なるほど道理で───」


 ユーリエンは両手を叩きながら、合点がいったという風にケラケラと笑う。

 だが───突如、青年の表情から笑顔が抜け落ちたかのように消え失せる。かと思った次の瞬間、ユーリエンはその場から消えた。


 違う、消えたのではない。まるで消えたかと錯覚させるような速度で───こっちに向かってきているのだ。


「テメェ俺を───嵌めやがったな」


「来る!」


 レイナが叫び、後ろへ大きく飛ぶ。俺は真っ向から片手で槍を構えると、手甲を振り上げるユーリエンに向けて───突き出した。手甲と槍の軌道が重なり、鋼同士が衝突する甲高い音が響くと同時に一瞬火花が散る。

 手甲と槍、一般的な戦闘において本来激突するもの同士ではないその二つはしかし、正面衝突して確かな衝撃を生み出した。


「ッチ」


 舌打ちしたユーリエンはすぐに拳を引き戻したかと思えば、大きく後方へ飛び退いて右手にもいつの間にか手にしていた手甲を金属音とともにはめる。そして手を開いたり閉じたりする動作を繰り返して手甲の調子を確認すると、両方の手甲を突き合わせてガシャンと鳴らしてみせた。


 その間、レイナがいることなどまるで気にしていないかのように片時も俺から視線を離さない。


 向こうから俺を見るユーリエンの表情は燃えるような憎悪に歪んでおり、明確な敵意とそれ以上のものが剥き出しにされていた。失望、怒り、憎しみ───ほんの少し前まで見せていた、余裕に満ち溢れる怪しい笑みを浮かべていた表情からはあまりに変貌している。


「驚きだよ、まさかお前さんみてぇな細っちい兄ちゃんが薄汚ェ教会の使いっ走りだったとはな。だがよくよく考えてみりゃあり得ない話でもない。連中の中には幼女やら少年やらガキの姿をした奴らもいる。答えろよアオイ、俺に名乗ったこの名前も、どうせ偽名なんだろう? お前らにゃ、いと尊き教皇陛下から与えられた名があるはずだもんな」


 今までとは打って変わって刺々しい、敵意の込められた口調でユーリエンは告げる。

 だが……その内容は俺には全く理解できなかった。教会? 教皇? 記憶を失う前の俺になにか関係している可能性もあるが、少なくとも今の俺にはない。


「お前……何を言ってるんだ?」


「ああ?」


 俺の言葉にユーリエンは眉をひそめ、より一層憎々しげな表情を浮かべる。


「てめぇ……この期に及んでしらばっくれるたぁ、奴らのご多分に漏れず相当な悪趣味だな。教会から『神格』を与えられてるってことは、少なくとも七戒使徒クラスの人間だろう? ハッ───全くいつまでもしつこいな、お前らはッ‼」


 窓のない船内に、ビュオっと風が吹き荒れる。ユーリエンは再び距離を詰め、感情に任せて叩きつけるように地面に手甲を振り下ろした。俺はすんでのところで後退して回避することに成功するが───、


「速い……ッ」


「へぇ、これを避けられるのか。そんな見た目して大したもんだ。さっきの嬢ちゃんを助太刀してやらなかったのは何故だ?」


 ベスタ、そしてあの密輸業者達とは明らかに異なる速度。神格化したことによって俺の身体能力は大幅な強化を遂げているはずだが、半神の動体視力をもってしても尚ユーリエンの動きは凄まじく、一挙一動が洗練されている。

 無駄がない。


「オラ、どうした! 見せろよ、お前の『神格』を! わざとやられてんのか? 相変わらず悪趣味だなッ!!」


 至近距離で次々と繰り出される乱打の数々。なんとか右を避ける、そして隙を見出そうとする───が、それよりも早く左からの拳が迫る。


 槍で反撃に転じたいところだが、そのための隙がまるで与えられない。


「ユーリエン、お前が何を言ってるのか……っと、俺にはわからない……!」


「おいおい馬鹿にするのも大概にしろよ、兄ちゃん。『神格』だと? そんなモン持ってんのは、そんなモン口にするのは、スフィリア広しといえどもほんの一部だ。兄ちゃんまさか知らないわけじゃないだろう? なぁ、使徒様よッ!」


「ぐ……ッ」


 ───強い。当然ユーリエンの化け物じみた戦闘力もあってのことだろうが、どうやら出会い頭にもらった蹴りの一発がまだだいぶ響いているらしい。視界が少しズレる。身体がレーヴェの時ほど動かない。


「っ、クソッ!」


 接近してきたユーリエンに対し、がむしゃらに槍を振り下ろす。ユーリエンは冷たい表情で避けるが、どうやら掠ってはいたらしく、彼の頬にスッと赤い線が通った。徐々に太くなっていくその線は青年の整った頬を真っ赤に染め上げていく。


「……お前、槍の使い方がなってないな。戦い慣れしてないのか? にしちゃ、異常に身のこなしが巧みだが。《大戦》時代に生きてきたわけでもないだろうに」


 そうにやりと笑みを浮かべるユーリエンの頬からはたちまち赤い線が消えていった。


「早く蹴りを付けないと、『神格』の制限時間が……っ」


「おい、なぜ『神格』を使わねぇ? まさか……まだ俺を馬鹿にしてんのか?」


 一際声のトーンが下がったと思った途端、次の瞬間には左からの鋭い手甲の一撃が迫る。

 空気を裂いてせまるこの拳をとっさに突き出した槍の柄で防ぐ。ガァン、と甲高い金属音が響き、


「舐めやがってッ‼」


 怒声ともに繰り出されたユーリエンの膝───蹴りが、俺の顎を目掛けて飛んでくる。


 しまった……! 予測外の攻撃、為す術はない。ユーリエンは拳だけでなく、蹴り技をも修めていたのだ。奴は紛うことなき戦闘のプロだ。

 傭兵としてこなしてきた場数が違う。

 思考している間にユーリエンの蹴りは大気を突き破るかの如く凄まじい勢いで迫り、ついに俺の元へと到達する───だが。


「ああッ……!? んだよ、こりゃ……!!」


 その瞬間、展開された不可視の概念───『障壁』が、ユーリエンの膝を弾き返した。

すいませんキャラクターの名前が初稿のままになってました(´;ω;`)

正しくは『シスタ』ではなく『ラスタ』です。

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