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クールな彼女と穏やかな日常

作者: 楓蘭 仁

○○は二十歳になってから。

風村(かざむら)さん、ありがとー!私頑張るね!」


「頑張って」






今日の昼休み、また一人悩める相談者の悩みが解決された。隣の席で行われてるやりとりだから、話の内容は机に突っ伏している俺にもわかってしまう。


「お疲れさん、美奈(みな)


顔だけ向ける俺。


「ん」


簡単な返事が返ってくる。


「今週で何人目?」


「6」


「頑張ってんなー」


「そうでもない、(けい)は…悩みとか無さそう…」


「うるせー」


俺達の会話はいつもこんな感じだ。特に目的は無く、他愛も無い会話。こういうどーでもいい感じが俺はたまらなく好きだ。

だけど、相談してくる人以外、こいつはほとんど口を聞かない。自称人付き合いが苦手、だそうだ。


「俺はお前が思ってるよりナイーブだぞー、傷つきやすいぞー」


「そ」


「うん、そう」


「そ」


よく友達に言われるのが、会話してて楽しいのか?なのだが、これが意外と楽しい。…なんか安心感がある。


「あー……昼休みくらいまで寝るから、適当に起こしてくれ…」


「うん」


隣の席だから、というだけかもしれないが、俺は美奈となんか仲が良い。…もしくはうまく付き合えてる。それくらいの自信はある。

まあどーでもいいか。


………寝よ………










「…き…崎……瀬崎(せざき)……」


……声が聞こえる。名前ではなく、名字を呼ぶ声。


「瀬崎啓、起きろ」


「…あー」


なんでフルネーム?とかは別に気にならない。


「フルネームだと、起きやすい?」


「さぁ、な」


体を起こす俺。後別段起きやすかったわけでもない。普通だ。


「…時間は…?」


「昼休み終了15分前」


微妙だ。とっても微妙な時間だ。…てか


「もうちょっと早く起こせよ…」


「時間が具体的じゃなかったから」


ああそぅ…。俺が悪いのね、はいはい。


「えーと…5時限なんだっけ?」


「体育」




そうか……よし……


「俺食堂で飯食ったら帰るわ」


そう決断を下す俺。だってめんどくさいし。


「そ」


あくまで簡単な返事の美奈。


「止めねーの?まあ止めても変わらんと思うけど」


「んー…」




いや何故悩む。というか何を考えている。




「…適当に切り上げようかな…。啓の家でゲームしたいし。そのうち帰る」


……変な所で変な提案しないでほしい。理由がゲームしたいからって……けしからん。他人の事言える立場でもないけど。


「どーぞ勝手に」


ふあぁ……と欠伸をして、鞄を持って食堂に向かう。クラスメートがジロジロと俺を、もしくは美奈を、……多分両方かな、を見ている。別になんとも思わんけど。


「んじゃ…。お先」


「ん」







飯食って、俺は帰った。

途中教師になんか言われたが、自慢の脚で振り切る。。俺をなめんなよ。










「ふぅ…どうすっかな…」


帰ったはいいものの、やる事も実は無い。でも授業がめんどくさいから帰ってきたわけで、学校に戻る気もさらさら無い。




……いー天気だなー…こんな日は…こんな日は……




「……寝よ」




結局惰眠を貪る事にした。

鞄を適当に投げ、ベッドに倒れ込む。ボフッ、と音と共に体が沈んでいく。あぁ……気持ちいい……最高だ……。










「啓。起きろ。瀬崎啓。起きろ。」


「………」


名前呼ばれたので、ムクッ、と体を起こす。


「お前はロボットか…?目覚ましロボットかなんかか?」


「ん?」


いや、ん?じゃなくて……


「起こしかたがちょっと前と全く変わってないって事。」


「そ」


……いいや。




「ん……っと……今何時?」


「14時32分」


「……お前も途中で抜けてきたのね」


「そ」


13時ちょっと過ぎに帰ってきたから……まあ一時間くらいは寝たんだな。


あー…そうだな……




「どうせ明日学校休みだから好きなだけ居な…。ゲームは…もう決まってんだっけな…」


「ん」


そう言うと美奈は俺のプレ○テ3を起動する。某有名なステルスゲームをセットして。


「ん〜」


なんか機嫌良さそうだ。そんなにやりたかったのかメタル○ア。

……俺は黙って、ベッドの上から彼女のゲーム風景を見ているだけだ。







「………」


「………」


しばらく無言で、お互いゲーム画面を見ている。


「お、……おぉ…」


「……っ……!」


上手い……いや本当に上手い人と比べるとあれなんだろーが、少なくとも俺よりは確実に上手い。俺の知ってるス○ークの動きじゃない。


「……あ、あぁ〜あ」


「うるさい」


「……はい」


駄目だ、静かに見てよう。こいつに怒られるとヘコみそうだ。


……美奈と仲良くなったきっかけは、多分ゲームなのかもしれない。隣の席だからちらほら喋ると、少なからず情報は手に入る。……持ってるゲームの話をちょっとしたその日に俺ん家に来た事は一生忘れないだろう…。


何しにきた?って聞いたら


ゲーム、って答えた時の美奈は今でもしっかり覚えてる。


それ以来、なんか俺ん家に来るようになった美奈。肝が据わってるというか、度胸があるというか、……傍若無人というか。






そんな美奈の事を考えていると


「ふぅー……」


一息つく美奈。


「……あら」


画面を見る俺。




全クリしやがったこいつ。




「……美奈」


「ん」


「俺まだこのゲームクリアしてねんだけど…」


「……ん」


ん、じゃないよ。ん、じゃ。持ち主より普通に先にクリアする奴って……おい。


「……まー…いいや。お前のプレイ画面だいたい見てたから、ストーリーはわかったし…」


「そ………ゴメン」


いやそんな一応、みたいな感じで謝られても。


「いーよ、エンディングでも見てなって……」


「ん」


そしてエンディングを二人で見る。




ただいま20時10分。エンディングを見始めて30分くらい。………なっげぇ……


「………」


「………」


にしても、置物かなんかかこいつは?とか思ってしまう。


「………」


「………」


寝て…ない…よな?

ベッドから静かに降りて、そっと顔を覗き込んでみる。







「……あ」


「…ん?」






目が、合う。


少し細めな目だけど、端正な顔立ち。うなじにかかるくらいの長さの髪。柔らかそうな、肌。

……綺麗だとは、正直思う。しかし、




「起きてる、か…」


「ん」


なんだか、そういった気分には不思議とならない。嫌いか好きかと聞かれたら、全然好きな部類に入る。が、……なんでだろうな…。


「飲み物、持ってきてやるよ」


「ん、………とう」


とりあえず下の階に向かう俺。


「…いいって」


立ち上がると同時に、美奈の頭の上に、ポンっ、と手を置く。






……よく聞こえなかったけど、言った事はすぐわかった。




ありがとう、だろな。










「ほい、なんかあったから持ってきた。」


ペットボトルの普通のお茶、そして、


「俺も初めてだけど一応これも」


多分、おそらく、親父の


「ワイン、だけど………ん?」


まあバレないだろ。適当にごまかしゃーいい。


「……ん」


意外といい反応。もしかしてイケる口だったり?


「適当に注いでやっから、適当に飲めー」






トクトクトク……






とりあえず注ぐ。静かに注いだつもりだけど、部屋が静かなもんだから音が響く。「ん、一応、な」


「ん」


チンッ、と小さな音をたてて……まあ、乾杯。




よくわからんが、香りを楽しみ?クイッ、と軽く飲む俺と美奈。


……どーやら俺にはまだワインは早かったようだ。あんまり…あれだ。

…しかし美奈はなんの変化も無い。俺も表情には出したつもりは無いが、美奈は本当に何も変わらない。こいつはすごい、のかな?


「…美味い、か?」


「んー……、ん」


どっちだ。


「そ、そっか」


「そ」


わかんねーよ結局。









全クリしてから一時間くらい経つ。ちびちびとワインを飲むが、俺はあまり進まない。美奈が普通のペースで飲み続ける。まあ普通のペースがどんなもんかは知らんが。




突然


スクッ、と美奈が立ち上がる。


「ん?」


いっちょ前にグラスを持ち、ベッドに腰掛けてる俺に近づき、




「ん」


隣に、ポフッ、と座る。




「…どうかしたか?」


「………」




返事は、無い。寝てるわけでも、無い。


「なんだよ?」


「………」


ただ座りたかっただけか…、と一人で結論を出すと









フワッ









俺の肩に美奈の頭が乗る。






ドクン






心臓が一瞬、いつもより大きい反応をした。




しかし




一瞬だけだ。またいつもの感じに戻る。




「顔、赤いぞ。酔ってんじゃねーか?」


「そ……かも」


そーだろーな。


「ほら、手ぇ貸すから、家まで送るぜ?」


立ち上がり手を伸ばす。




ギュッ、グイッ




強い力で握られ、引っ張られる。


「っとと」


自分がさっきまで座ってた位置に、戻される。




そして、フワッ、と美奈の頭もさっきまでの位置に戻る。


「…親が心配すんじゃねーの?」


「連絡、してある。最初から」


要するに初めっからこーするつもりだったのね。


「何か、起こったらどーするつもりよ?」


「何も起きない、……信用、してるから」


確かに何もする気は無いが、


「それでも、何か起こったら?」


少し、意地が悪い気がした。







「啓なら、……許せる、かも」







………全くこいつは




「………」


何も言わずに




ギュッ、と肩を抱き






「……なんかさ、こう…嬉しいもんだな…」


耳元で、囁くように言う。


「……ん」


満足そうな表情で目を閉じる美奈。






しばらく、……10分くらいこうしていたら、




スー……スー……




美奈が寝た。


ズルズルと頭の位置もズレてきて、


ポフッ


と俺の膝に頭がくる。


「……よしよし、ってか」


優しく撫でる、気持ち良さそうな、満足そうな顔になった気がする。


寝てる美奈をジッと見て、いろいろ考える。






俺は美奈の事を好きだったのかもしれない。

正確には今も好きだけど、その……ガムシャラに好き、とか熱い恋、とかいうのは超越して、あったかく…大切にしてやりたいとか、愛してるとかのほうがしっくりくるのかもしれない。

言葉ではうまく表現できないけど、とにかく大事にしていきたいと思ってる。






「おやすみ…美奈…」




俺はそれから10分くらい、美奈を眺めていた。










……それにしてもエンディング長いな……










俺が起きたのは昼頃だった。

美奈はまだ寝ている。が、




「…ん…ん?」


あ、起きた。


「おはよ、美奈」


「……はよ」


寝ぼけ眼でとろんとした目で俺を見る。


「……啓」


「なんだ?」







「昨日の夜、なんか、あった…?」







覚えていない様子の美奈。……お前はアルコールが飛ぶと記憶も飛ぶタイプなのね。


「…別に。何もしてないから、何もなかったよ。」


本当の事をしっかり伝える俺。偉い。


「……そ」


落ち着いている様子の美奈。


「昨日の事、覚えてない?」


「……あんまり」


そっか……じゃあ……


「俺から、言いたい事言っていい?」


「……何?」


首を軽く傾げる美奈を






クイッと引き寄せ




優しく抱きしめる。




「っ!」


体が少し強張る美奈に対し、俺は


「俺もお前からだったら何されても大丈夫だよ……。大切だから…なんでも受け入れるよ…美奈」


「……そんな事…言ってた?」


「おぅ。お前が最初言ったから、それに対しての返事。」


「そ、そ…」


珍しく緊張している感じの美奈。いや本当に珍しい。




「なんか……綺麗だとばかり思ってたけど…可愛いな美奈」


ポロッと口から言葉が出る。言ってから、あっ、って思った。


「………」


ヤバい、美奈が動かなくなった。顔が赤い。酔ってる時より不自然な赤さだ。まずい。


「その、なんだ、お互いの気持ちがハッキリしたんだし……めでたしめでたしって事にしよ?な?」


抱きしめたまま、俺は言う。

元に戻って欲しいけど、今は離したくない。という矛盾を抱え、俺はちょっぴり焦る。


「ん、ん……」


美奈も首を縦に振る。わかってくれたか。でも、


「……もうちょっとこのまま、な……」


「……ん」


今は俺がわがまま言っても、いいかな…。自分勝手だけど、さ。










「あ」


「どした?美奈」


「エンディング最後まで……見てない……」


あれ、すっげえ長かったぞ……てか







「もう、いつもの美奈だな」




そういうと、




フワリ、と笑顔を見せた。




俺が大切にしたい人の一番の、


笑顔だ
















Fin

ではもう一度。お酒は二十歳になってからですよー。ノリで書き上げたちょっと実話シリーズ第7弾。あの時作者はワインを嫌いになりました。そして一時期ゲームに対しての自信を失いかけました。……あいつゲーム上手かったなー。今どうしているんだろうか…。……さて、最後までお読みくださり、誠にありがとうございました。ご評価、ご感想お待ちしております。長々とすみませんです。はい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 空気感がとても良くて、何回も読み返してしまいました。 もう活動されていないようなので、この感想をご覧になることはないかもしれませんが、素敵なお話と巡り会えて本当に良かったと感じています。 …
[一言] 間の使い方絶妙で、すごく上手いなあと思いました。
[一言] このまったりした感じが良いですねー。 個人的にはもう少しくらい美奈さんに喋ってもらいたかったのと、酒飲んだ時にもっと大胆な行動に出るのかと期待してたのが、ちょっぴり度合いが小さくて残念だった…
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