表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

国を救った聖女は私の妹です。

作者: 海野いるか

誤字報告ありがとうございます。

読んでくださる方がいらっしゃるのに驚き、ありがたいです。


それは突然

流行りの小説を思わせる始まりだった。




「もう無理っ、私は元の世界に帰る!」

「聖女様の御心のままに。」


地下の一室、ロウソクの灯りを頼りに一冊の本を手にした少女。その傍らにはローブを着た優しい眼差しの男性。


「お別れね。」


聖女と呼ばれた少女は目的のページを開き微笑むと描かれた魔法陣を手でなぞり、内に秘めている魔力をありったけ注ぐ。

少女の身体が光で包まれ始めるとローブを着ている男性は悲しい表情を浮かべ頭を下げる。


「不甲斐ない我々をお許しくださいませ。」

「やめてよ、カイル。私が耐えられなかっただけ。」


光に包まれた少女の姿は徐々に消えてゆく。


「ありがとう、さようなら。」


その言葉を最後に少女の姿は光とともに消えていった。




そう、そのまま

この国から聖女様が居なくなりこのお話は終わるはずだった。

はずだったのに、少女の姿は消えたはずだったのに、その場所には着ている服が違う聖女と呼ばれた少女の姿があった。






ーーーーー

ーーー


「今日も連絡なしか。」


悲しげな眼差しを握りしめたスマホに向ける。


私の妹は半年前に居なくなってしまった。

交友関係をわかる範囲で辿って行ったけれど行方は分からず、警察に捜索願も提出したけど手掛かりもないまま。

自由奔放な性格だから、最初は友達のところにいるものかと思っていたけれど連絡もないまま半年も経つなんて。

何か事件に巻き込まれた可能性もあり気が気じゃなかった当初だったが、今は落ち着きを取り戻し連絡を待つしかできない日々だ。


「待つしかできないのは歯痒いわね。」


陽が隠れた空を見上げると、今夜は雲ひとつない満月。

何か不思議な力が働き妹が帰ってきてくれないだろうかと、柄にもなく不可思議なことを考えてしまうのは借りて読んだ異世界転移の小説の影響だろうか。

満月には神秘の力が宿ると記されていた。


「確かあの小説だと、この後自分自身の陰に呑み込まれるのよね。」


途端、足元に違和感を感じる。

いつもの道路を歩いているはずなのに、コンクリートの感覚ではない。例えるならガラスの上を歩いているかのような不思議な感覚。


怖くなりながらも原因を知るため下を見ると、私のいるところだけ真っ暗闇になっている。

街灯もあり明るい道、まして今日は雲ひとつない満月の夜。足元だけこんなに暗闇はありえない。

そう考えている間に彼女の身体は暗闇に呑み込まれていった。


そう、流行りの小説のように‥。




ーーーーー

ーーー


「っだーっ。暗闇の中すっごぉく長い、終わりの見えないウォータースライダーやトンネルの様な滑り台を勢いよく落ちているみたいだったけど何が起きて‥って、えっ??」


興奮した声は周りの雰囲気によって上書きされた。


だって明るい。

そう、周りが明るい。満月の夜とは言え、こんなに明るい訳がない。

窓から見える空は青いし、白いレースのカーテンが風になびいていてよくあるマンガとかの表現みたいだし。

おかしいおかしい。天井にはシャンデリア?繊細すぎる程な細工だし、今まで寝てきたベッドって実は身体のことを考えてなかったのねぇ的な程気持ちよすぎるベッドにいるし。肌触り気持ちよすぎて、ダメ人間作製機だよこの寝具。コタツなんて目じゃない。コタツ大好きだけど、ごめんなさい。


「夢?じゃないよね、きっと。」


不確かだけれど何処か確信がある。

夢と現実がわからなくなる様な気持ちで起きたこともあった。震えて涙したり、心から幸せな楽しい気持ちで起きたこともあった。

でも、夢は夢だったし現実は現実。


頭が、心が感じてる。

これはリアルだって。


「はぁ、まさか私がこんな体験するとは‥。」


頭を抱える。気弱な声しか出ない。

これを理解するには私のキャパでは厳しい!借りた小説の主人公みたいな『ここはもしかして異世界!?ワクワクしてきちゃう。ニコニコ。』みたいな適応能力が欲しい‼︎


「あれっ、ちょっと待って。」


着ている服が目に入る。ナニコレ。この服知らない。

確かバイトの帰りでシンプルなネイビーのワンピースにベージュピンクのカーディガンを着ていたはずなのに、レースをあしらったシルクとか使って高そうな感じのパジャマ?デザインはふわもこで人気の美味しそうな名前のところの服みたい。ちょっと憧れてだけど部屋着だしお高くて買う勇気がなかったのよね。


いろんな情報でこれ以上処理できないと現実逃避、そう放棄しかけたところで重厚な部屋の扉からノックの音が聞こえる。


コンコンっと規則正しい音。

驚いて返事をしないままでいたのだが、音を立てた人物はこちらの反応を待っているのかドアを開けない。

返事をするべきか一瞬迷う。しかし何が起きているかわからない状態で見知らぬ場所。恐怖はあるが、知るためには受け入れねばいけないだろう。


「はい。」


ゴクリと息を飲む。

何を言っていいのかわからず、発したのは一言だったけれど音の人物には伝わった様で失礼します。と聞こえた後にガチャリとドアが開いた。


部屋に入ってきたのは白い丸襟のダークグレーのワンピースに白いエプロンの、私より少し年上かなと言う感じの女性。

いや、いやね、おかしいよね。これはあれよね、雰囲気的にメイドさん?に見えるのだけれど。えってんぷれ?ひねりのないてんぷれーとなの?

実はさっきからチラチラと見えるの窓の外、ドラゴンみたいなのが見えるの。飛んでるの。お鳥さんにしてはおかしいなと思ってはいたのだけれど。

このメイドさんの周りにも羽の生えた小さな人が見えるし、妖精さん?なのかしら。


でも、なんだろう。

このメイドさん、当たり前のように私に紅茶の用意を始めたの。

そして紅茶に詳しくない私でもわかる、いい香りがする。絶対美味しい紅茶を淹れてくれる自信がある。

妖精さんは少し不思議そうな顔はしているけど、私の周りにきてニコニコ飛んでいる。大好きな緑色の洋服を着た大人にならない子供の彼の物語にでてきた妖精を思い出すわ。飛んでいるあたりがキラキラと輝いていて綺麗。

見惚れてしまい思わず感嘆の声がでてしまった。


「ふふっ、どうなさいました?」


メイドさんの優しい声色と微笑みで、ノックを聞いた時から緊張で握りしめていた手が和らぐのがわかった。汗ばんでいる。私、不安だったんだなと改めて思った。

何がどうなるかこの先わからないけれど、このメイドさんの雰囲気は落ち着く。


どうぞ。と出された紅茶は甘すぎず飲みやすくて、知らずに渇いていた喉を潤してくれた。ダージリンかしら。あっという間に飲み干してしまった。


「おいしい。えっと、美味しかったです。ありがとうございます。」


私の言葉に少し驚いた表情を見せたが、すぐにまたあの優しい柔らかい微笑み。いやぁ、和みます。


「お褒め頂きありがとうございます。これ以上の誉はありません。」


そう告げ頭を下げるメイドさん。

んっ?大げさ過ぎません?こんな一小娘の言葉でこれ以上の誉はないって。

一体私は誰と勘違いされているのだろう。また怖くなってきた。


「お召し物を代えましたら朝食をお持ちしますね。今日はどのお召し物が良いでしょうか?」


メイドさんがベッド横のクローゼットを開けると、私の恐怖が増した。

まずは広さ、このお部屋の五分の一くらいの広さなのだけれど私が19年間生活していた部屋の何倍もあるウォークインクローゼット。そして中には一生かかっても着ることはない数の洋服、ドレスに煌びやかな装飾品。‥レースや刺繍で華やかだわ。何処かのお店で見たドレス達の比じゃないくらい高そう。いや、あのドレス達もお安くなかったわ。ん十万とかしていたもの。


呆然としている私の前にメイドさんセレクトが用意されていく。深緑の落ち着いたデザインのそのワンピースは、私でも着れそうかなとつい思ってしまった。

目に付いた洋服は鮮やかな赤だったり黄色だったり刺繍やレースがふんだんに使われていたりしていたので、比べるとかなり落ち着いて見える。


私の様子に今日の服装は決まったようで、お手伝いしますと手を差し出された。

んっ?あっ私まだベッドの中だった。

差し出された手を取りベッドを出ると鏡の前に立たされ着替えが始まる。いや、あの、自分の全身映る鏡の前でのお着替えとか羞恥で倒れそうです。ダイエットしておけばよかったと少し泣けてきた。

着替えが終わると今度は椅子に座るよう促されるとヘアアレンジやお肌の手入れ、メイクが始まる。

恐ろしい程の至れり尽くせり。この後私は何処に行くのだろう。

鏡の中の私は私じゃないみたい。別人級のアレンジをされた私に、メイドさんは笑顔。満足そうです。


「不思議ですね。いつもとは違う雰囲気にしたいって思ってしまったのですが、正解でした。

沙奈様のお好みではないかなと不安でしたが、喜んでいただけたようで嬉しいです。」


えぇ、実はこの上なく喜んでいます。内心浮かれています。こんな綺麗にしていただけて、夢みたいです。ニヤニヤがとまりません。


「すぐに朝食をお持ちしますね。」


一礼するとメイドさんは朝食の準備のためか部屋を出て行った。私はというと、メイドさんマジックな自分の姿をまじまじと見入っていた。

大学の広い講義室さながらなお部屋に部屋を彩る装飾品の数々。寝心地バツグンなベッドをはじめとするお部屋の調度品もすごすぎる。


これ、誰かと私を勘違いしてるよね?勘違いがわかった後って‥怖すぎる。天国から一気に地獄へと落ちていく気持ち。カタカタ震えだした。

あれ?そういえばさっきのメイドさん、私のことサナ様って言っていたような。


コンコンっ。朝食の準備から戻ってきたのか、ノックの音がした。今回も返事があるまでドアは開かないみたいだ。

受け入れるしかない、心の中で何度も呟き返事をする。


メイドさんだと思っていたのに「失礼致します。」と、入ってきたのはローブを着た男性だった。表情が見えにくく無言のままゆっくりと私に近づいてくる。

身体が強張るのがわかる。どう対応して良いかわからない。この人とサナ様?はどういう関係なんだろうか。たまたまメイドさんにはバレなかったけれど、すぐにわかることだ。私が思っている人と違うことが。

ならば私から言うべきじゃないだろうか。先に謝罪して、少しでもいい方向にするしかない。サナ様を演じるのは知らなすぎるから無理だもの。

覚悟を決めた時、謝罪したのは男性の方だった。


「本当に申し訳ありませんでした。まさか、まさかこの国にとどまっていただけたなんて。ありがとうございます。あの時、光に消えるお姿を見た時に、もう二度とお会いできないと思っておりました。」


跪いて必死に心中を述べる姿に、呆気にとられてしまった。謝罪するタイミングを逃した。


「再び光の中から現れたからでしょうか?以前より神々しさが増した気がします。」


神々しい?えっ?誰?

周りを見るがこの部屋にはローブの男性か私しかいないけど。


「このカイル、今まで以上に沙奈様に尽くす所存でございます。なんでもおっしゃってください。」


いやいや、尽くすとそんな今にも泣きそうな顔で言われても人違いですから。男性の泣きそうな顔なんてドラマ以外で初めて見たから、対応がわからない。慌ててしまう。


「‥沙奈様?どうなさいました?」


いつもと違うのだろう。不思議そうな顔をし始めた。

話から察するに、この人はカインさん。カインさんが言うサナ様は素晴らしいお方で、この国を出て行こうとしたけれど戻ってきたと。んでいるのは私だからサナ様に私がそっくりなのかな?神々しく見えるなんて、サナ様フィルター恐ろしい。

一先ず、落ち着け。私はサナ様じゃない。バレるのは時間の問題。そもそも、騙したいわけじゃないから正直に言おう。すごく、とても言いにくいけれど。跪かれるって落ち着かない。


「あっ、あの。まずは立ってください。謝るのは私の方なんです。」


「我々を許してくださるのですか、沙奈様。なんと慈悲深い。」


あれ?余計に泣きそうになってる。頭まで深くさげだした、このままじゃ土下座とかされそうでやばい。


「許すとかじゃないんです、頭をあげてください。

私は えっとカイルさん?のおっしゃってるサナ様じゃないんです。名前は似ていますが私は佳奈なんです。

騙すつもりはなかったのですが、気づいたらここにいて。ごめんなさい。」


「沙奈様? そう言えば佳奈様と言う姉君がいらっしゃるとおっしゃっておりましたね?」


必死に謝罪の言葉を伝えたら、耳を疑う言葉が聞こえた。姉が佳奈のサナ?沙奈?まさか。


「貴女なの?沙奈。榎本沙奈。」


「そのお名前の沙奈様。久しぶりにお聞きしました。」


懐かしむような表情。

そうなんだ、沙奈。貴女はここにいたのね。探していた私の妹。目を閉じて沙奈がここにいたであろう姿を思い浮かべる。メイドさんやカインさんを見る限り、良くしてもらっていたのだろう。よかった。目に涙が浮かぶ。どうして私がここにいるのかわからないけれど、不安や恐怖は何処かへ行ってしまった。


「カイルさん。私は沙奈じゃありません。

沙奈の双子の姉の佳奈なんです。」


目を見てはっきりと告げると、カイルさんの顔がみるみる曇っていく。


「なっ、なんですか。沙奈様そんなご冗談。

えっ、いや、待ってください。まさかそんなことが。」


頭を抱え混乱しているようだ。

私の言葉を信じてもらえたのかしら。


沙奈はこの国でどのように過ごしてきたのか。落ち着いたらカインさんに聞いてみよう。カイルさんの慌てっぷりがすごいので、その様子を見ながらなんだか冷静に考えていた。




あの後。カイルさんが少し落ち着きを取り戻してきた頃にメイドのルーラさんが朝食を持ってきてくれて、私とカイルさんを見つけると呆れたように未婚の女性の部屋に男性一人で入るなんて何事ですか!と、怒りを露わにした。すみませんっとルーラさんに頭を何度も下げるカインさんの姿に少し笑ってしまった。


「へっ?沙奈が聖女様?」


ルーラさん監視の下、お話を聞くためカイルさんと朝食をとることになったのだが驚きの連続だ。


まず、料理がおいしいこと。素材がいいのかな、野菜とかシンプルながらおいしい。あっこれ重要なので繰り返し言いました、本当においしい。大地の恵みを受けているかららしく、今の味になったのは沙奈が来てからということ。

この国ネルファン国は周りの国々と比較すると小国ながら豊かな自然と聖獣様、精霊様妖精様に助けられて暮らしている。三年前に沙奈がこの国に現れるまでは他国からの脅威に怯える面もあったが、沙奈の力で他国との戦などはなく平和そのものになったらしい。

地球では半年行方不明だった沙奈は、この国では三年の時を過ごしていたようで時間軸が違うらしい。ってさっきかららしいばかり使っているが、聞いている話は何処か他人事で現実とは理解しているがすぐには信じ難くて。


佳奈〜佳奈〜と、私の名前を呼びながらニコニコしている妖精様の姿には可愛すぎてにやけてしまうけれど、はいキャパオーバーです。


カイルさんとルーラさんは私が沙奈ではないことを説明したが、驚くほどあっさり受け入れてくれた。

「沙奈様がきてくださってからのお世話は私がしており、好みもわかっているつもりでした。しかし今日は不思議といつもと違う雰囲気を感じお召し物を選ばせていただきましたが佳奈様だったからなのですね。」なんてメイドスキル凄すぎる。

魔導士のカイルさんは「言われてみれば纏っているオーラが沙奈様とは違いますね。」と気になる発言。オーラって何?芸能人とかで聞くオーラ?

我慢できずに聞いてみると潜在的な人柄や魔力の属性が見えるらしい。人柄は温度で、魔力の属性は色で感じるとのこと。人柄‥どうだったかなんて怖くて聞けない。




朝食を食べ終えお茶までいただいた。

ルーラさんのお茶やっぱり美味しい。これはほうじ茶かな?落ち着くなぁ。「ありがとうございます。」と伝えるととても嬉しそうな笑顔を返される。

ポッと胸が暖かくなる。

こんな笑顔をたくさん見れた沙奈は幸せ者だなぁ。

沙奈のおかげで私も幸せ者。

幸い国の魔導士召喚だったので常に王宮の庇護下にあり手荒なことはなかったようだけど、知らない場所での生活は大変だったろうな。

沙奈は一人で頑張ったんだな。


「沙奈が倒れていたと聞いたが大丈夫か⁈」


ドタバタと騒がしい音の後 乱暴に扉が開いた。

シルバーの輝く髪にブルーの瞳を持った整った顔立ち。細かな刺繍を施した見るからに高価な衣服を見にまとった男性が入ってきた。

誰だろう。

隣にいるカイルさんはお茶を持つ手が震えていてお茶が溢れそうだ。とても気まずそうなんだけど、どうしたのだろう。


「カイル、沙奈は何処だ?」


部屋を見渡しカイルさんに問う。

あれっ?私と沙奈が違うってこの人わかってるんだ。問われたカイルさんは立ち上がりはしたものの言葉に詰まり、顔色はみるみる悪くなっていく。

どうしたら良いのだろう。


「答えないのか カイル。なら別の問いをしよう。

隣にいる者は誰だ。」


カイルさんがビクッと震えたのがはっきりわかった。

部屋を開けた時と違い話し方に威圧がある。カイルさんを呼び捨てだし偉い人のようだ。


「しっ失礼しましたアルス様。

この方は沙奈様の双子の姉君 佳奈様です。」


「姉君?」


先程までの威圧ある態度が消え柔らかな表情に変わり まじまじと見られている。落ち着かない。


「はっ初めまして。榎本沙奈の姉 佳奈と申します。」


カイルさんに習い立ち上がり頭を下げ挨拶をする。

この国の挨拶なんてわからない。わからないけど、失礼のないようにしないといけない方なんだと思う。

多分、そう多分、てんぷれだから恐らく王族の人。


「沙奈の姉君、頭をあげてくれ。

貴女に頭を下げさせたとあれば沙奈に怒られてしまう。」


えっ?怒られる?

驚いて顔をあげると 優しい微笑みと目があった。


「いきなり失礼した。佳奈殿。

私はアルス・オルト・ネルファン。この国の王太子だ。」


やっぱりーきたぁー偉い人!

そしてそんな偉い人に怒る沙奈は何者ー。あっ聖女様?凄すぎる!!

キャパオーバーの上ってあるのかな?パンク?もう何が何だか。開き直って全てを受け止める?いや、無理。


「そうか、そうなのか。」


アルス王太子様は悲しそうに呟く。

カイルさんも悟ったように目を伏せた。


「佳奈殿がいると言うこと

すなわち沙奈は元の世界に帰ったのだな。」


そこまで大きくないのに アルス様の声が部屋に響いた。






異世界からの聖女は一人きり。

それが世界のことわり。


古より神にも等しい聖獣様をはじめ精霊様 妖精様に支えられ守られてきた。

世界の秩序が乱れ 聖獣様の意志のもとのみ神の使いともいえる聖女様の召喚を許される。


争いを治め世界に平和をもたらす聖女様。

世界のバランスが崩れてしまうため神の使いは一人のみ。

数千年の歴史あるこの世界で 聖女様はたった三人。

生涯この世界の平和を祈り発展させ続けたと言われる。


しかし真実は異なる。


百年に一回、聖女様召喚の儀はなされ何十人もの聖女様が存在する。

聖女様によって国益を増やし他国より有利になりたいが為 何十人もの聖女様が私利私欲のために犠牲になっていた。


帰りたいと望む者も多く、力に富んだ聖女様によって秘術として残されていた。聖女様のみ見ることができる形で。





「今回は四人めの聖獣様からの召喚でした。

しかし沙奈様はこの国ではなく元の世界に帰ることを望みました。」


「情けない話だ。」


カイル様の話に そう呟くアルス様の顔は自分を責めているようで、悪い人には見えなかった。


「聖獣様からの召喚で帰った聖女様の話は聞いていませんので、今回佳奈様がこの世界に来てしまったのは何か歪みができてしまったからなのかもしれません。」


「もっとも百年に一回召喚の儀がなされているのは一般的には知られていないことで、沙奈から神の使いにしか読めない書籍の存在を聞いて知ったのだ。

我がネルファン王族、王位継承の時に知らされるもので王しか知らないと言うくらい秘密裏に行われている。」


小国ながら神の使いを召喚できる聖獣様がいるのはネルファンのみ。他国が何度も利用しようと画策した過去はあったが叶わなかった。


「今までの神の使い 聖女への扱いを聞き、沙奈には誠意を持って対応していたつもりだったのだが。

知らぬ間に不快にし 追い詰めていたのだな。」




アルス様は忙しいようで、後悔を述べている途中で従者に呼ばれて部屋を出て行った。


‥いやぁ、重い。

キャパオーバーの後はこの重さですか。

次から次へと情報ばかりきて、処理能力追いつかないから。


沙奈に何があったんだろう。

知らない世界での三年は想像を超える辛さがあると思うけど、少なからずカイルさんやルーラさん。アルス様は悪い人には見えない。

となると、てんぷれ?お偉いさんや貴族からの重圧かな。嫌味のオンパレードとか。


「佳奈様。」


気がつくとカイルさんも部屋にはいなくて、側でルーラさんが微笑んでいた。

どうぞ。と用意された紅茶を受け取り口に含む。

甘めなミルクティ。ホッとするなぁ。

私お茶を飲んでばかりだ。気遣わせてしまってるんだろうな。

ありがとうと笑い返すと、ルーラさんはクローゼットから何かを持ってきてくれた。


本?


口元に人差し指を立てて渡されたその本を受け取ると、ドキリと鼓動が早くなる。

これは‥。

私がルーラさんに顔を向ける。

少し悲しそうな表情を浮かべると、お辞儀をして部屋をでていってしまった。


表紙に〝沙奈〟と書かれている本。多分これは沙奈の日記。

先ほどの話から、これは異世界からきた神の使いしか読めない。つまり、今は私しか読める人がいないということ。


「はぁ、考えても仕方ない。」


キャパオーバーの私は悩むのもやめて、日記を開くことにした。恐らく私の今後は決まってるもの。知る権利はあるし知らないと困る。





『お主が聖女か。』


「はい、お初にお目にかかります。

榎本沙奈の姉、佳奈と申します。」


白いワンピースを纏い両膝をつき祈りを捧げるよう手を合わせる。

さて、いきなりなぜこうなった。


聖女と呼ばれる存在によって支えられているこの国は毎日神殿より祈りを捧げ、祈りによって精霊様のお力を借りて平和を維持している。

太陽と月の交わる時、昼の時間が終わりを告げ夜の静寂が訪れる時間。聖なる力が最も高まるこの時間に聖女様が祈りを捧げる‥元々は沙奈が行なっていたことだけど。

そう、つまり今は私?になってしまうらしい。


あの後、沙奈の日記を読みながら優雅にお茶をして たぽたぽになったお腹に贅沢なお昼ご飯を頂きまったり過ごしていた。異世界一日目、キャパオーバーにてフリーズ通り越してまったり開き直り。そんな中あれよあれよと着飾られて、今に至る。


王宮の裏にある常に雲に覆われている高い山。

不思議な力に満ちている山で聖獣様が住んでいると言われ人々の立ち入りを禁止されている場所。

新月の日は精霊様の聖なる力が減ってしまう為にいつもの神殿ではなく聖獣様の祀られている山下の神殿にて直接お力をお借りするらしい。


そしてそんな新月の今日。目の前にいるのは恐らく聖獣様。

いきなりのご対面です。


ホワイトタイガーの様な光り輝くシルエット。

白虎様の方がいいのかなぁ、あぁ語録ない私。


『我が呼んだ娘の姉とな。ふむ。』


どうしたらいいかわからない。沙奈はどうしていたのだろう。神殿で平和を祈ればいいって言われたけれど、聖獣様が現れるとか聞いてない。キャパオーバー再び‥。


『落ち着いて良い、我らが聖女よ。

聖女が存在しているだけでこの国の平和は保たれている。』


えっ?そうなの?


『我が招いた聖女は世界の均衡を保つ。

愚法で呼ばれた哀れな聖女代理では成し得ぬ。』


聖女、沙奈の存在ってすごかったんだ。

じゃあ今は?


『お主は沙奈より強いぞ?』


んっ?


『歴代聖女の中で我を見、聞くことのできた聖女はお主だけだ。故にお主の存在は世界の均衡はもちろん、失われし我らに力を与えてくれよう。』


んんっ?


『面白い。最後の召喚だったが このようなことが起きるとは。もう少し見守るとしよう。』


んんんっ?

なんだなんだ?


理解できないまま呆然としていると、あっという間に白虎様の輝くシルエットから小さな元々の十分の一程のサイズの白い子虎が現れた。

中型犬サイズの聖獣様はクリックリの青い瞳でふさふさの毛並み。


「もふもふ、可愛い。」


思わず近づき抱きしめると温かな温もりと共にほわぁっと胸の辺りが暖かくなるのを感じる。


『無礼な、と言いたいところだが気持ち良い。お主の力は心地よい。』


腕の中の聖獣様はすやすやと気持ちよさそうに寝てしまった。

どうすればいいのだろう。

‥考えてもわからないし、聖獣様は寝てしまっているし温もりが心地よいのは私も一緒。

神殿の外にはカイルさんがいるし相談してみよう。




私にはわからないことばかり。

だってこの国を救った聖女は私の妹なんだもの。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ