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教会務めの神官ですが、勇者の惨殺死体転送されてくるの勘弁して欲しいです【連載版】  作者: 夏川優希


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6、革命的な聖水が作りたい




 蘇生費、呪いの解除費、毒の治療費については、勇者の実力によって取れる値が決まっている。

 これは俺たち神官が個々で決めたのではなく、教会本部の決定によるものだ。

 だからどこの教会でかかっても費用は全国一律。

 勝手に寄付金を上乗せして請求することはできない。どんなにバラバラの死体でも、どんな厄介な呪いでも、どんな危険な毒でも、得られる寄付金は決して多くない。


 だが本部によって価格が決められているのはこれら三つの基本的な業務のみ。

 逆に言えば、他の業務に関する内容と価格については神官一人一人に委ねられている。



「と、いう訳で今後この教会では聖水を販売していこうと思ってます。そのテスターをお願いしたいんです」


「なんで俺が……」



 口を尖らせるグラムを、アイギスが腕を組んで見下ろす。



「黙れ! 貴様に許された言葉は“イエッサー”のみだ」


「うっ……この女までいるし」



 グラムは落ち着かないように首を撫でながらアイギスの腰に差した剣に視線を向ける。

 彼女に首を落とされた事がよほどトラウマになっているようだ。

 俺は神官スマイルを携えてグラムの顔を覗き込む。



「きちんと協力してくれれば悪いようにはしませんよ。まぁ、今すぐ滞納した寄付金をお支払いいただけるなら話は別ですが」


「チッ、脅す気か? これが神官のやることかよ。人体実験じゃねぇか」



 グラムがふてぶてしい表情で悪態を吐く。

 俺は呻き声を上げながら腕を押さえてうずくまった。



「うっ……腕がっ……洞窟で暴漢にやられた右腕が疼く……これは教会本部に報告して犯人の息の根を永久に止めねば……できるだけ苦しませて……」


「協力させてください」


「よろしい」



 グラムは小悪党だが、勇者としての経験はそれなりにあり、冒険歴も長い。

 テスターとしては丁度良い勇者である。

 なにより、ヤツがサンプル聖水でどうにかなったとしても良心が痛まないという点が非常に都合良い。



「ではまず初めにお聞きしますが、グラムはどんな聖水が欲しいですか?」


「そうだな」



 ややあって、グラムは困ったように首をひねる。



「聖水ってそもそもあんまり使わないな。聖水の効果って弱い魔物を寄せ付けないくらいだろ? それもダンジョンとか魔物の巣とかじゃあんまり効果ないし。あとはアンデッドモンスターにちょっとしたダメージ与えられるくらいか。それも自分で戦った方が早いし……うおっ!?」



 アイギスさんが素早くグラムの胸ぐらを掴み、彼に凄む。



「貴様のくだらない言葉で神官さんの耳を汚すな。あと喋るときは語尾に“サー、シンカンサン”を付けろ」


「聞かれたから話したんだろ! っていうかホント誰なのお前!?」



 アイギスがギリギリとグラムの胸元を締め上げる。

 さすがに死なれると不味い。蘇生が面倒だからだ。

 こういうのに大事なのはなんといってもテンポである。いちいち蘇生なんて挟んでいたら「今日は疲れたからまた今度日を改めて仕切り直しましょう」となる。そして“また今度”は永久に来ないのだ。


 俺は平和主義者らしい穏やかな笑みを湛えて二人の間に割って入る。



「落ち着きなさいアイギス。ここは私に任せて」


「なんなんだお前ら……」


「まぁ、正直聖水に関しては私もそう思っています。初心者冒険者がお守り代わりにカバンに忍び込ませ、冒険に慣れてきたころカバンの隅から出てきた聖水を乱雑に捨てる……そんな光景を繰り返し見てきました。そもそも聖水捨てるって凄まじい罰当たりですよね。で、まずは単純にパワーアップしたものを作ってみました」



 俺の合図に合わせてアイギスが液体に満ちた瓶を取り出す。

 グラムは困惑気味にそれを手に取った。



「……凄い量だな。聖水って香水瓶くらいだろ? 一升瓶じゃんこれ」


「あんな量じゃ効くものも効きませんよ。十分な効果を出すにはこれくらいはないと」


「効果って、魔物避け効果とモンスターへの攻撃効果か?」


「そうです。まぁ使ってみてください」


「あ、ああ……」



 グラムが瓶の蓋に手を掛ける。

 俺とアイギスは素早く彼から離れた。

 蓋を開けた瞬間、もわりと白い湯気が瓶から立ち上った。



「……クサッ!?」



 悲鳴を上げ、悶絶するグラム。

 俺は鼻をつまみながら答える。



「魔物を強力に寄せ付けなくする匂いです」


「これ人間も寄らなくなるだろ。まさか魔物への効果ってのも……」



 グラムは半目で聖水を睨みつけ、そして瓶を少し傾ける。



「あっ、ちょっ!」



 止めようとしたが間に合わない。

 瓶からドロリとこぼれ落ちた聖水は、煙を上げながらカーペットに穴をあけた。



「ひえっ……」


「あー、もう。カーペットに穴が開いたじゃないですか。どうしてくれるんです」


「俺の体に穴が開くとこだっただろ! ふざけんな! あがっ!?」



 グラムの髪をひっつかみ、アイギスが詰め寄る。



「口の利き方を教えてやろう三流勇者。まずカーペットを舐めて綺麗にしろ」


「ステイアイギス! ステイッ!」


「ぐるるるるる……」



 今にも噛みつきそうなアイギスをなんとかグラムから引きはがす。

 グラムは子ネズミちゃんのようにガタガタ震えている。可哀想に。



「なんなんだその狂犬! まともじゃねぇぞ!」


「まぁとにかく、魔物に有害な物は人にも有害ってことです」


「分かってんなら試させるなよ……もう本当こわいわお前……」


「なので既存の聖水の効力を向上させるのではなく、新しい効果を付与した聖水を作ってみたんです。それがこちら」



 アイギスが新しい瓶を取り出し、グラムに差し出す。

 金色の澄んだ聖水を半目で見つめるグラムの横で俺はその聖水の効能効果を謳う。



「試作品第三四号。通称DCS。体力、魔力、腕力すべての肉体パラメーターを向上させる至高にして究極の聖水。血管から注入たべる事で効果は更に数倍になる。さ、どうぞ」


「ど、どうぞって……それもう聖水って呼べなくないか? そういうバフポーションはもうあるだろ。だいたい自分で注射なんて打ったことねぇし」


「そうなんですよねぇ。カジュアルさが足りない。それにこれ、作るのに七日七晩かかるんですよ。材料費も手間もかかるし。あとこれは大きな問題ではないんですが、強い効果を出そうとすると副作用が強くて……」


「大きな問題だよ! なに入ってんだコレ? っていうかDCSって何の略?」


「それはちょっと言えませんね。で、このポーションから色んな意味で扱いにくい成分を除いたのがこちらになります」



 アイギスがまた新たな瓶を取り出し、グラムに押し付ける。

 見た目はDCSとほぼ変わらないが、やや透明度が増しているか。



「う……」



 受け取ったはいいが、グラムはなかなか聖水瓶の蓋を開けようとはしない。



「さぁ飲んでください。大丈夫、これにはヤバイ成分は入っていません」


「やっぱりさっきのには入ってたんじゃねぇか! お前の言葉は信用ならん!」


「……アイギス」



 俺が合図を出すと、アイギスはグラムの頬を両手で挟む。

 タコのような間抜け面で、グラムは声を上げた。



「ひゃ、ひゃめほー!」



 俺は聖水を手に取り、グラムのタコ口から聖水を流し込んだ。



「うっ、うぐっ……! ぐっ、げほげほ」



 むせながらも、瓶の中身を飲み干したようだ。

 グラムはカーペットに手をつき、ぜえぜえと肩で息をする。



「どうでした?」



 尋ねると、グラムは血走った目をカッと見開く。

 震える唇を大きく開く。

 わなわなと体を小刻みに痙攣させる。

 そして腹の底からせりあがるような声を上げた。



「う……うまぁい!」





 新作聖水は冷めても美味しく、その場で狩った魔物の肉などを具材にすればスープにもなる戦闘糧食レーションとして勇者たちの間で話題になった。





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― 新着の感想 ―
[一言] DCS...懐かしい響きですね。 究極の料理を思い出しました。
[良い点] きっとすっごい美味しいコンソメスープなんでしょうねえ… やったねシンカンサン、人気商品だよ!
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