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まんてんのそらもよう

作者: こひぐま

ある番組を見て、人によって見方が変わる、感じ方が変わるということを表現したくて書きました。

こぐまの兄弟それぞれの心模様。どんな形でも感じた気持ちに正解はないと思います。


ラジオ短編賞にエントリーしています。

とある深い深い森のなかに、三びきのこぐまの兄弟が住んでいました。


長男のチチは本を読むことが大好きでした。


次男のジジは食べることが大好きでした。


三男のササは面白いことが大好きでした。


それぞれ好きなことは違っても、毎日楽しく仲良く暮らしていました。



ある夜のことです。


面白いことを探しに家の屋根にのぼっていたササが、ばたばたと急いで部屋にもどってくると、


「みんなすぐ屋根の上にきて!早く!早く!」


と言いました。


チチは読んでいた本に葉っぱを挟んでとじ、ジジは残していたおやつのまんまる果実を一口かじるとお皿にそっとのせ直しました。


「今度は何を発見したの?珍しい色の虫?それとも木のかたちがおもしろかったの?」


チチがササに聞きました。


「とにかく見ればわかるよ!さっ早く!」


「いったいどうしたっていうだよー」


うろたえるジジに目もくれず、ササは二ひきの兄弟の手を引っ張り屋根裏部屋の窓から外にでて、屋根の上へやってきました。


チチとジジは、家の周りをぐるぐる見渡しましたが何もおもしろそうなものを見つけられません。ここは深い森です。夜になると、背の高い木にかこまれたこの森は真っ暗になります。

しんと静まり返った、深い深い夜になるのです。


そんな森のなかにある自分達の家の周りを、二匹はがんばって目を大きくして探しました。するとササが言うのです。


「下じゃないの!上だよ!上を見上げるんだ!」


うでとゆびを空にぴんと突き刺して「早く!」と言いました。


二ひきは指示されたとおりに上を見上げると、深い森の夜にはないほんわりした灯りがありました。


「うぁ、これは…きれいなきらきらだねぇ。」


ジジがほわんとした感想を言いました。


「そうでしょ!すごいでしょ!下から見ると真っ暗で何も見えないけど、こうやって屋根から見ると空が見えるんだよ!手がとどきそうなくらい近くになるんだよ!」


わくわくが止まらないササは大興奮です。


「この森は夜になるとなんにもないただの森だと思ってたけど、いや、夜でも空が見えるなんてはじめて知ったよ。夜の空はこんなにきらきらしてるんだ。お月さまだけじゃなかったんだね。」


ジジは心から感動している様子でした。

ふと、となりにいるチチの様子が気になり、ジジが話しかけました。


「ねぇねぇチチ?このきらきらはなんていうの?」


「…星だよ。きらきらは星って言うんだ。夜になるとこうやって光ってね、お月さまの次に明るいんだ。だからお月さまがいない時は、こうやってみんなで光るんだよ。ぼくたちもきれいでしょ?って光るんだって。」


本が大好きなチチは物知りです。他の二ひきがわからないことがあっても、チチがいれば大丈夫でした。チチも本の知識を話すときはいつもうれしそうに話します。


けれど、今日は少し違いました。


チチはとってもさみしそうに話しているのです。

二ひきもすぐに気がつきました。


「チチ?どうしたの?」


「元気ない?かじっちゃったけど、まんまる果実あとであげようか?」


「ぼくも!ぴんぴん草でつくったしおりをあげるよ!だから元気出そう?」


二ひきはチチを元気付けようと、いっぱい元気が出そうなことを話しました。

けれど、チチはずっとさみしそうでした。


やがてササが怒ったように言いました。


「もう!チチ!どうして元気ないの!?せっかく夜の森でも楽しいこと見つけたのに!なんでか言ってくれないとわからないよ!」


ササは少し怒った気持ちと、悲しい気持ちがまじってちょっぴり泣き出しました。

それを見たチチは「ごめんね。」と言うと続けて言いました。


「さっきまで読んでいた本に書いてあったんだ。夜になると出てくる星はね、もう『いなくなってしまったひとたち』なんだって。二度と会えないひとたちが星になって、こうやって光って見守ってるんだって。」


さらに続けて言いました。


「どんなに会いたいなって思ってても、星なったひとたちには会えないんだよ?そう思ったら、とってもかなしくなったんだ。きれいだけどきれいじゃない。そう見えないんだ。」


チチの話を聞いて、ジジとササも少しかなしくなりました。

特に、みんなが必ず喜ぶ発見をしたと思っていたササは、そんなチチの気持ちに気がつかなくてがっかりしてしまいました。


しんと静まり返った深くて暗い森に、ほわっとした白色の灯りが三びきをやさしく、やさしく包み込んでいます。

三びきがそれに気がつくまで…やさしく、やさしくみんなで光っていました。



おしまい





「おじいちゃん。このお話の続きはどうなるの?こぐまたちはずっと元気がないままなの??」


「ふむ。そうだねぇ。ササはきっとすぐに元気になるんじゃないかな。ジジは…そうさなぁ、まんまる果実を兄弟みんなで食べたら元気になるだろうねぇ。チチはきっと、元気になるまで一番時間がかかるねぇ。でも、大丈夫さね。チチもその内星空をきれいだって思えるだろうよ。」


僕のおじいちゃんはにっこりしながら言いました。

とってもやさしい声で、しわしわの顔をして話しました。


「どうしておじいちゃんはこの絵本を作ったの?なんだかこぐまたちが心配だよ。」


僕のおじいちゃんは昔、絵本を作っていました。どれも楽しくて、やさしいお話がいっぱいです。だから、この『まんてんのそらもよう』という絵本が気になりました。


「ふむ。それはねぇ、この絵本を何回も読んでほしいからだよ。大人になっても、何回もねぇ。きっと、読んだあとの気持ちが違ってくると思うんだよ。だから、何回も読んでおくれよ。」


そう言うと、おじいちゃんはしわしわの顔をして笑いました。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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