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1話 声
声が聞こえた。何もない白い世界で誰かの声が。
「――」
内容は分からない。それでも自分に向けられた言葉だと感じられる。
「――」
苦しくて悲しい、それでもどこか力強い声で伝えようとしている。
「――」
やはり分からない。だがその声は困っているように思えた。だから俺は、
「大丈夫。俺がなんとかするよ」
そんな言葉を口にしていた。我ながら無責任な言葉だと思う。でも、そう言ってあげたほうがいいと思った。
「――」
聞こえてくる声が少しだけ明るくなった。俺の言葉で喜んでくれたのだとしたら嬉しいが。
そんなことを考えていると、視界がかすんできた。元々何もない白い世界だが、その白を認識することもできなくなってくる。
「――て」
視界だけでなく、意識もはっきりしなくなってきた。何も考えられない。それでも声が聞こえてくる。
「――叶えてあげて」
聞こえてきた声に返事をすることは、もうできなかった。