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話の2 会長の、裁定

遅くなってすみません。今一つな文章ですが何卒。

-何こいつ、幽霊?

それが私が三つ編みの娘を見た時の第一印象だった。針金か糸にしか見えないような、全体的に細い体といい、習字の半紙みたいな白い肌といい、どうあがこうとも幽霊以上のものに例えようがなかった。もしこの場が生徒会の合同会議でなく、この場にいたのがわたし一人なら幽霊を疑ったかもしれない。だがわたしの回りには大勢の人がいて、しかも彼女の記録張もちゃんとあるのだから、幽霊でないことは間違いなかった。

「保健室に連れて行った方がいいかしら?それとも、自宅に連絡しましょうか?」

この三つ編みの娘の事を何も知らない以上、とりあえず頭に浮かんだ案を手あたり次第に言っていけばどれかを彼女をわたしより知る人が決めてくれるだろう、とわたしは考えてそんなことを口にした。

「どうもこの子、桜花寮みたいなんです」

「じゃあルームメイトの人なら何か知ってるかもしれないのね?」

「ごめんなさい、私たちもルームメイトの子が誰か知らなくって」

前言撤回。わたしが悪かったのではない。明らかに中等部の連中が使えなかった。同じ課外活動の相手なのにどうして把握しておかなかったのか。それと同時に自分がそもそも何もできないでいるというこの状況に、わたしの胸の中は屈辱感でいっぱいになっていった。誰かがやってくれないなら、せめて華々しく功績をあげたいのに、それができないのだから。


「そうね、油川さん?」

「ええ、はい……」

急に会長が口を開いた。思わずわたしは心の中で身構えた。嫌だ、こんな想定外な仕事を抱え込むなんて絶対に嫌だ。使えないやつの火消しをするのだからなおさら嫌だ。だが、会長は口を止めてくれなかった。

「油川さん、彼女が回復するまでとりあえず保健室で面倒を見てやって欲しいの。できる?」

できるか、できないかといわれたら絶対にできる。わたしにはその自信があった。最後に「はい」というのを邪魔するのはわたしの思いだけ。ここで断ることなど、状況に鑑みてできるはずもない。やああって、わたしは声を絞り出した。

「会長。任せてください」


中等部の保健室である程度彼女に関する話は聞きだすことができた。なんでも、間志依という名で、クラスナンバーだけならわたしと同じ中等部2年3組の生徒。入学した時からこんな貧相な体で、生徒会活動中に倒れたことも一度や二度ではないらしい。そんな人に書記を任せていいのかということは黙っておいてあげた。

ベッドの横にわたしは腰を下ろし、こんこんと眠っている三つ編みの娘を見下ろした。本当に生気を感じさせない肌は、見ていると吸い込まれそうになるほどだった。

しかし、どうにも解せないことがある。生徒会長はなんでわたしにこんな役立たずの面倒を押し付けたのだろう?あるいはわたしを、志依が倒れたのをいいことに遠ざけるつもりではないだろうか。きっとわたしを仲間外れにして夏休み中の予定が決まっているのだろう。大義名分さえあればすぐにでもひっくり返さなきゃならないな、とわたしが思考を走らせていると、

「んんう……」

とでもいうような声を出して志依という三つ編みの娘が起き上がった。あら元気になったのね、とわたしは声をかけた。役立たずではあるが、油川桂里奈の悪名を広めるよりはましだと思い全力で叱るのを我慢しながらだった。


きゅうう、という音がわたしたち二人しかいない保健室に響いた。志依が恥ずかしそうにうつむく。わざとやっているわけではないだろうが、それでも書道の半紙みたいに真っ白な顔を赤らめて下を向き、両手でおなかを抑えている光景は控えめに言って庇護欲を掻き立てられた。しかし座っていることすらままならない体なのだから、他人を使い走りさせるために身に着けた技の一環だろう。長くいればもっと他人を使い走りさせる技を見せてくれるに違いない。最も、わたしがそんな損なことをするなどあり得ないが。

などとわたしが下らないことを考えていると、

「油川先輩……その……お腹が、すきました」

という声が聞こえた。

確かにわたしは介抱したわけでもないのだから偉そうにするのは変かもしれないが、だからといってこの役立たずの使い走りをさせられる義務などないはずだ。しかも、大方支払いはわたしにさせるつもりだろうから、なんて厚かましいメスガキだろうか。わたしは心の中で憤慨した。とはいえ、わたしも馬鹿ではないから身に着けた処世術でもって声をかけた。

「何か、欲しい物でもあるの?」

「あの、苺のゼリーが……」

「わかったわ。ちょっと待っててね!」

わたしはさっと身を翻すと走るわけにもいかないから剣道のすり足の要領で購買への道を進んだ。どうかこの悪夢が早く終わってくれますように、と心中で願いながら。幸いにも、購買には苺のゼリーが残っていた。

「でも意外ねえ。桂里奈ちゃんがこんなもの食べるなんて」

「ああ、それわたしのじゃないんです。倒れた子にもっていってあげようと思って」

「そうだったの。早く元気になるといいねえ」

「ええ、本当に」

財布を開け、硬貨をカルトンに叩きつけるように置くのと同時に、思わず舌打ちの音が出てしまった。幸い、購買の店員には聞かれずに済んだらしい。長居するのは主義ではないので、行き同様すり足で保健室への道を急いだ。


保健室に戻ると会長・御津清歌がそこにいた。側近の西園寺なんとかすら連れていなかった。

「会長……会議は終わったのですか?」

「うん。後であなたたちにも送っておくね?意見があったらまた頂戴」

「わかりました……はい、苺ゼリー」

「あ、あの……ありがとうございます」

おずおずとゼリーを受け取って、包装をはがし、一口ずつ口へ運んでいく。いちいち所作がどこかとろくさく見え、それがわたしの不快感を増幅させていた。そんなわたしの気持ちも知らないで、よかったわね、と言いながら頭を撫でる清歌には腹が立つ。

「あ、あの……」

かなりの時間が過ぎたように思えたが、志依が食べ切ったのはゼリー一個でしかないし、まだ空も赤くなってはいなかった。

「どうしたの?」

「油川先輩って、どちらにお住まいなんですか」

「あら、菊花寮だけれど、どうかした?」

「時々、遊びに行ってもいいでしょうか?」

「もちろんよ」

黒髪三つ編み少女の顔が少し明るさを取り戻したようだった。

「よかったわね、志依」

そういってにこやかに会長はまた頭を撫でる。若干撫ですぎのような気もするがわたしにそれを言う気力はなかった。

「あの、会議の事なんだけれどね」

「どうかしましたか?」

「貴女たち二人に関わることだと……そうね、油川さんと間さんは肝試しのメンバーには入っていなかったけど、急遽入ってもらいます」

「別に予定はありませんが……そんなに?」

「うん、一応他の人にも割り振りはしたよ。でも……」

その続きはわかっていた。うちの特殊な事情-いわゆる悲鳴と矯正の夜というやつだ-ゆえに、まともに動けそうななメンバーがわたしや志依ぐらいしかいないのだろう。生徒会の業務も舐められたものである。

「全力を尽くします。ですから、どうかお気になさらず」

そういう声すらもどこか落ち着かない。やはりほかのメンバーは恋愛ごときにうつつを抜かすような連中でしかないことが改めてわかった。天寿組による初めてのりんりん学校を台無しにするつもりはない。

とはいえ大人しく会長の道具で終わるつもりもわたしにはない。会長はよろしくね、と言いながら保健室を出ていく。頭を下げながら、わたしはにやり、と笑みを浮かべた。


投稿が遅いわりに展開が他の作者さんに比べて若干早いですが、うまいことキャラクターを転がせないからです。ほんとにこんな流れでいいのか、作者も結構心配です。


また、前回に引き続き御津清歌さんをお借りしています。

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