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幻実

作者: 黒宮杳騏

いつからから、僕は視界の隅に小さな女の子が見えるようになった。

肩まである黒い髪に、黒づくめの洋服。

スカートから伸びる足は黒いタイツに覆われ、靴まで真っ黒いエナメルだ。

僕を見る目は虚ろなようで光が無く、顔色は蒼白とも言えるほどに白い。

どんな女の子なのかと思って女の子に目の焦点を合わせようとすると、不思議とスッと消えてしまう。

他人に言っても仕方のない事だし、どうやら僕に敵意がある訳でも無さそうなので、僕は時折現れる女の子について特に何も気にしていなかった。


幻覚か幽霊か。

そんな事は些事に過ぎない。

僕に害をなすかどうか、それだけが判断基準だ。


ある夏の日、僕は死んだ祖母に名前を呼ばれた気がして振り返った。

勿論、部屋には僕以外誰もいない。

部屋どころか家の中にも僕しかいない。

なぜ祖母は僕を呼んだのだろう。

寂しいから呼ばれた、という感じではなく、切羽詰まった声で、叫ぶように僕の名前を呼んだのだ。

まるで何か大きな危機が迫ってきている事を伝えるように、あるいは悪戯をした子供を優しく叱るように。


しかしそれ以降、祖母が僕の名前を呼ぶ事は無かった。

女の子の方は、忘れた頃にチラリと見かけるだけだったけれど、それでも、数年経つとぱたりと姿を見なくなった。


実体のない人影(女の子)と、死者(祖母)の声。

霊感なんて全く無い僕が認識出来たという事は、やはり両方共幻覚や幻聴の類なのだろうか。

祖母の声ではないが、今でも時々誰かの話し声が聞こえる事がある。

内容を聞き取る事は出来ないが、複数人が僕の頭の中で話し合いをしているようだ。


僕の頭は随分と昔に壊れてしまったらしく、リノリウムの床がさざ波を立てていたり、頭の中で誰かと誰かが言い争いをしたりしている。

幸い、最近はどちらも大人しくしてくれているので、今の所頭を悩ます事は無い。


しかし、大好きだった祖母がまだ僕に憑いていてくれるなら、例え会話が出来なくても、そっちの方が幸せだと思う。

生前、祖母はいつも僕に優しくしてくれた。

僕はまだ、その恩返しをしていない。

墓参りだって、もう何年も行っていないのだ。

もしかすると、あの時の呼び声は墓参りに来て欲しかったからかもしれない。


黒づくめの女の子の正体が気にならない訳では無いが、多分「イマジナリーフレンド」という奴じゃないかと推察している。

じっと無言で見つめてくるという、不可解かつ少々不気味な点を除けば、多分仲良くやっていけそうな気がする。

ちゃんと目が合った事が無いので断言は出来ないけれど。

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