第27話 正義の魂
薮中が人として刑事として、沸き上がってくる怒りを抑えながら、
発破への距離を縮めようと模索している頃、曙埠頭に隣接する倉庫街を
発破の運転する白いプリウスがゆっくりと走っていた。
そこには大型の倉庫が数多く列んでいたが、辺り一帯に人が居る気配は無かった。
前方から警戒中のパトカーがゆっくりと近づいてきた。
発破は表情一つ変えることなくゆっくりと走り続けた。
パトカーとすれ違う時、発破は警官たちの方を見て不敵な笑みを浮かべた。
パトカーを運転している制服警官が発破であることに気づいて大声を上げた。
「あっ!」
助手席にいた制服警官が驚いた。
「どっ、どうした?」
「今すれ違った白い車の男、手配写真の発破に似ていたぞ」
「職質してみよう」
パトカーがUターンして発破が運転する車の背後についた。
そして助手席に乗っている制服警官がマイクのスイッチを入れた。
「すみません前を走る運転手さん。車を止めて頂けますか」
発破は素直に車を左に寄せながらゆっくりと車を止めた。
パトカーが発破の乗る車の前に止まると、制服警官二人がパトカーから降りて発破の車に歩み寄った。
パトカーを運転していた制服警官が運転席側から発破の顔を覗き込むように話しかけた。
「運転手さん、突然呼び止めてすみません」
発破は運転席の窓を半分程開けて無愛想に応えた。
「何ですか」
もう一人の制服警官がフロントウィンドー越しに見える発破と手配写真を見比べて確認すると、
発破に職務質問をする制服警官に目で合図を送りながらうなずいた。
制服警官たちは突然、拳銃を抜いて身構えた。
「頭に両手を乗せて車から出てきなさい!」
発破は起爆スイッチを制服警官に見せつけた。
「私の横にはかなり大きい爆弾がありますよ、やたらに撃ったらここで爆発しますよ」
発破は助手席に被せていた布をゆっくりと捲り取った。
助手席にはシートベルトで固定された爆弾らしき装置が制服警官たちからも見える。
警官たちは驚きをかくせない様子ではあったが拳銃を構えたまま
「スイッチを置いて早く車から出てこい!」
と強い口調で命令した。だが発破は不敵にあざ笑うと
「やだね」
とそっぽを向いた。
その時、もう一人の制服警官が助手席に回り込みドアを開けようとした。その行為に発破が気づいた。
「いきなり失礼ですねー」
発破はハンドルに仕込まれたスイッチを入れた。
すると車の低部両脇から火炎放射器の炎が勢いよく噴き出した。
その炎は二人の制服警官をいとも簡単に包み込んだ。
炎が制服に燃え移った制服警官たちは、とっさのことで何も抵抗できないまま、
その場に倒れて断末魔の叫びを上げながら悶え苦しんでいた。
発破はその姿を眺めてこう言った。
「悪い人たちは、死なないといけないんですよ」
発破は苦しむ制服警官たちを見つめたまま不敵に笑みを浮かべると車で走り去って行った。
善願寺の本堂で稲荷住職は激しい口調で御経を唱えていると、一瞬ふらつきながら独り言を言った。
「いかん。また惨忍な事が起きておる」
稲荷住職は再び激しい口調で御経を唱えた。
倉庫街で炎に包まれた制服警官の一人は既に絶命して路上に倒れていたが、
もう一人の制服警官は黒焦げになりながらも、目に涙を浮かべ苦痛に耐えながら
パトカーまでやっとの思いでたどり着くと、PC無線機のマイクを手にした。
「きっ、機捜3から…本部」
「どうしましたか!」
「爆、弾犯を…曙埠頭の倉庫街で発見。市街地方面へ、白いプリウスで、と…逃走。
ボディー側面に、は、火炎放射器、を装備して、爆弾、らしき物が、助手席、に……」
制服警官は無線マイクを力強く握りしめて目を見開き、無念な表情で崩れるように倒れて事切れた。
「しっかりしてください!」
無線機から何度も呼び掛ける声が続いた。
市街地を覆面パトカーで移動している豊田と堤に緊急無線が入った。
「本部より、全機捜隊員へ、連続爆弾犯と思われる容疑者が白いプリウスで市街地方面に逃走中。
車の側面に火炎放射器を装備して、助手席に爆弾がある模様。発見しても接近には注意が必要です」
豊田は運転している覆面パトカーのハンドルを握りしめると強い決意を口にした。
「堤、もう犠牲者は出さないぞ」
「はい」
堤は赤色灯とサイレンのスイッチを入れ、豊田はアクセルを踏み込んだ。
薮中とベルが眼下に市街地が見下ろせる高層ビルの屋上の縁から、市街地を見つめて立っていると、
複数パトカーや警察車両が赤色灯を回しサイレン鳴らしながら、あちらこちらを走っている様子が見えた。
薮中とベルは眼下で走っている警察車両たちの不可解な動きをじっと見つめ続けた。
薮中の眼下でうごめいていたパトカーや警察車両が複数の交差点などで、
パトカーや警察車両などを使ったバリケードを築きながら、同時に車両の抜け道も作るような
道路封鎖をはじめた。それは来る者をどこかに追詰めようと画策しているように見えた。
薮中とベルはビルの屋上からしばらくの間、パトカーから降りた警官たちが道路を塞ぐ光景を見つめていた。
ベルが薮中に疑問を投げかけた。
「ご主人様、お仲間は何をしているのでしょう」
「発破を何処かへ追詰めようとしているな」
「我々はどうします」
「まずは仲間と合流して、作戦の把握だ」
そう言った瞬間、眼下に見える交差点の死角から覆面パトカーやパトカーを引き連れた
発破が運転する白いプリウスがゆっくりと走ってきた。
「見つけたぞ」
薮中の目つきが急に鋭く変わった。
ちょうどその時、善願寺の本堂で稲荷住職は玉のような汗を流しながら激しい口調で御経を唱え続けていた。
曙警察署の連続予告爆破事件捜査本部では、藤堂課長が無線機のマイクを手にして、
発破の車を追い続ける覆面パトカーと連絡を取り合っていた。
「どうした月影くん」
「課長、容疑者は警察車両を引き連れて市街地をただ走り回っています。このままでいいんですか!」
「奴の車には爆弾がある可能性が高い、手出しはするな!」
「でも…」
「警官たちが逃げ道を塞ぐから、曙埠頭へ必ず追い込めろ」
「了解!」
薮中とベルは高層ビルの屋上から、両手を広げて飛び下りると、ムササビのように滑空して、
ビルの間をぬいながら何かを探しているかのよう飛び続けていた。
薮中はお目当ての覆面パトカーを見つけると、その覆面パトカーを追い抜き、
体を丸めて前方にクルクルと高速回転をはじめた。それはその先にある歩道橋の上に着地するために
減速しているようであった。薮中は歩道橋の中央にある手すりの上にベルと共に美しく着地を決めると
すぐさま後ろを向き直し、前方から来る覆面パトカーを見つめた。
そして近づいてくる覆面パトカーの速度を見計らって、薮中はベルに合図を送った。
「行くぞ!」
「はい!」
薮中とベルは歩道橋から華麗に飛び下りると、タイミングよく覆面パトカーの屋根に着地した。
その時、屋根から発生した微かな着地音が車内に聞こえていた。
「今の音は薮中さんか?」
助手席にいた豊田が後ろを振り向いた。
すると薮中とベルが屋根をすり抜けて体の向きを変えながら後部座席に座った。
そして薮中が警棒で軽く窓を叩いた。
運転中の堤がルームミラーを見ながら話しかけた。
「薮中さん、居るんですか?」
「あぁ」
薮中は警棒で軽く窓を叩いた。
薮中が後ろに居ることを確信した堤がこれからの計画を話した。
「今、発破を曙埠頭に追い込めている最中です」
と伝えると、豊田は
「薮中さん、埠頭でけりをつけましょう」
と言った。薮中は警棒で軽く窓を叩いて返事をした時、無線機から藤堂課長の声が聞こえた。
「豊田、堤、聞こえるか」
豊田が無線マイクを手にして応答した。
「こちら豊田」
「現在、警官たちが抜け道を封鎖して曙埠頭に発破を追い込めている。君たちは曙埠頭ヘ先回りしてくれ」
「了解」
その時、善願寺の本堂では、薮中の身を案ずる稲荷住職が、声を荒げながら
激しく御経を唱え続けていたのだが、突然、顔を苦しそうに歪め、背中を丸めて
痛みをこらえようと胸元を握りしめたのだが、
「薮中の魂を守らねば」
と苦しそうに叫ぶと、尚も御経を唱え続けた。
曙埠頭には既に多くの機動隊員たちも到着して辺りを封鎖している。
堤が運転する覆面パトカーが埠頭出入口の門を通過して入ると埠頭事務所の脇に覆面パトカーを止めた。
薮中たちが車から降りるとその脇をスコープの付いたライフル銃を抱えた
数名の特殊部隊の隊員たちが走って行った。
薮中たちは配置に着こうとする特殊部隊の隊員たちの去り行く姿を見つめた。
薮中たちが曙埠頭に到着して一分程たった頃だろうか、泉が運転する覆面パトカーやパトカーを
引き連れた発破の運転する白いプリウスが見えてきた。
ゆっくりとした速度ではあったが確実に近づいてくる発破を
薮中は無言のまま仁王立ちでじっと見つめていた。
発破の車がゆっくりと曙埠頭の門を通過しようとした時、薮中は発破の車に走りより
後部ドアをすり抜けて後部座席に乗り込んだ。
「ご主人様!」
ベルは不意をついた薮中の行動に驚いていた。
赤色灯を回した覆面パトカーやパトカーが発破の後に続いて曙埠頭に続々と入って来る。
堤はその光景を見ながら、自分の側にいると思っている薮中に声を掛けた。
「薮中さん、聞こえますか」
堤の問に答えるような物音は辺りに無い。
堤は辺りを見回して見えるはずのない薮中を探した。
堤の不審な行動に気づいた豊田が堤に声をかけた。
「どうしたんだ」
「薮中さんが、ここに居ませんっ」
「どこに行ったんだ」
曙埠頭の門が機動隊によって閉められ、機動隊の装甲バスが門の前を塞ぐように移動した。
ライフル銃を持った特殊部隊の隊員たちが倉庫の上やガントリークレーンの上から
発破の車を狙おうと配置についている。
特殊部隊の隊員たちが付けているヘッドセット無線機から命令が聞こえた。
「狙いが定まったら撃て」
「了解」
特殊部隊の隊員たちはスコープをのぞき見ながら身構えてトリガーに人指し指を添えた。
発破の運転する車はゆっくりとした速度で埠頭内を我が物顔で走行を続けている。
車内の後部座席に乗っている薮中が、あちらこちらからライフル銃が発破を狙っていることに気づいた。
「お前、私の声が聞こえるか」
「おや、もしかしてお化けですか?」
「これ以上罪を重ねるな、投降しろ」
「いやですよ。この恨みを晴らすまでは」
「恨みとは何だ」
薮中が言った途端、複数のライフル銃による発射音と着弾音が車内に響いた。
ライフル銃の弾は車のフロントウィンドーに当たりはしたが、ガラスに微かなひびが入っただけであった。
特殊部隊の隊員たちは発破の車が意思を持って動き続けるのを見て驚いた。
そしてタイヤやボティーを打ち続けた。
だがボディーには傷が付く程度で、タイヤもパンクすらしなかった。
発破は車の中であざ笑った後にこう言った。
「警察って、バカじゃん」
薮中は両手で警棒を握りしめ、怒りにまかせ発破にとびかからないようにしようと必死に堪えた。
その頃特殊部隊員たちは動揺していた。
「何故阻止できん!」
激怒する上司の激しい声がヘッドセットから聞こえた。
「あの車は防弾仕様です。私たちの装備では歯が立ちません」
「何とかしろ!」
うろたえを隠せない上司の言葉が帰って来た。
発破は自分が狙撃されることを予期していたのか、防弾仕様に改造されたプリウスに乗ったまま、
我が物顔で埠頭内を走り続けていた。
警察は発破のプリウスを止める手立の無い状況ではあったが、現状の打開策を模索していた。
善願寺の本堂では稲荷住職が薮中と共に戦うべく、激しく御経を唱え続けていると、突然、
胸元を握りしめ苦しそうに倒れながら、辺りにあった物を倒した。
仏具が乱れて倒れる音が本堂に響くと、その音を聞き付けた住職の娘が廊下を走って本堂を覗き、
倒れている稲荷住職に気づいて驚いた。
「お父さん、どうしたの!」
住職の娘は稲荷住職に走り寄り肩を叩いた。
「ねぇ、ちょっとどうしたのよ!」
稲荷住職は苦しそうに数珠を握りしめて、本堂の内陣を見据えた。
「薮中…薮中守の魂を、守りたまえぇー」
強い念を込めた思いを叫ぶと倒れ込んだ。
「ねぇ、お父さん。お父さん、しっかりして!誰か救急車を呼んで!」
住職の娘が発した悲痛な叫びが本堂に響き渡った。
曙埠頭の中では、プリウスに乗り、我が物顔で走り続ける発破を
薮中は後部座席から投降するように説得し続けていた。
「もう逃げられないぞ」
「逃げる?何故、私が逃げなければいけないんですか」
「犯した罪を償え。警察に投降しろ」
発破は不敵に笑った。
「やですよ。目的を達成するまでは、やめられないですね」
「目的とは何だ」
「昔、僕をいじめた連中への復讐です」
「何故、関係ない者まで巻き込むんだ!」
「彩りですよ、彩り。それにきっと悪い事を沢山していますよ」
「ふざけるな!」
窓ガラスを激しく叩く音がする。
「その窓は防弾ガラスなんで割れませんよ」
発破は薄ら笑いを浮かべ、胸のポケットから合成麻薬であるMDMAの錠剤三錠を口に入れて力強く噛んだ。
「あっあぁ〜」
発破は白目を剥き急激に沸き上がる高揚感を味わっているようだった。
「おい、今何を飲んだ」
「薬ですよ、僕は麻薬の常習者なんです。頭がおかしいから、捕まってもすぐ釈放ですよ」
そう言って不敵に笑い続けた。
薮中はうつむき両手で警棒を握りしめながら怒りに震えて叫んだ。
「そんな事が、通用するかー!」
「うるさいお化けですねぇ。早く降りてください」
発破は車を加速させながら激しく左右に車を振り回した。
泉は埠頭内の移動通路を覆面パトカーで塞ぐように停車させた車内から、
不可解な動きで車を走らす発破に困惑していた。
「いったい犯人は、何をしているんだ?」
同乗している月影が首を傾げながらこう言った。
「もしかしたら、薮中さんが何かしているのかも」
「どうやって?」
「それは分からないですけど、神出鬼没ですから」
「確かに薮中さんなら有り得るな」
堤は埠頭の出入口付近から、発破の態度が豹変したように激しく蛇行運転する車を見て、
発破の車に薮中が乗っているに違いないと確信した。
堤は直ちに無線機で捜査員たちに連絡した。
「捜査課の堤です。現在容疑者の車に薮中刑事が同乗している模様。狙撃を中止してください」
「狙撃隊了解。指示を待ちます」
無線機から藤堂課長の声が聞こえた。
「堤、埠頭内から絶対に発破を出すな!」
「了解!」
発破が激しい蛇行運転をしている車内では、薮中が警棒で車内を激しく連打する音が
タイヤのスキル音と共に響いていた。
発破は興奮しだした。
「うるさいお化けは、もういいです。バラバラにした悪い連中のように、
ここにいる全員をバラバラにしちゃいますよ」
発破は車を急に加速させると、埠頭内通路を塞ぐように止まる覆面パトカーやパトカーの周りを走りながら、
威嚇するように火炎放射器の炎を吹き付けて走り続けた。
警察官たちは発破の逃走経路を車両で塞ぐくらいしか為す術もない現状に苛立ってはいたが、
発破の強行を傍観するしかなかった。
発破は奇声を上げて尚も興奮した様子で車を蛇行させながら、警察官を威嚇し続けた。
発破の運転する車の後部座席にいる薮中の脳裏に、爆破事件で犠牲になった人々の
苦痛で無念に満ちた顔が浮かんだ。
薮中の心に押さえることの出来ない強い怒りが止めどなく沸き上がってくる。
その怒りは無念の死を遂げた犠牲者の思いを代弁するかのようでもあった。
そして薮中は最後に、瓦礫に潰されて母親と離ればなれになった女の子が口にした末期のお願いと
薮中が口にした約束を思い出していた。
『おじちゃん、悪い奴をやっつけてくれる?』
『あぁ、おじちゃんが必ず悪い奴をやっつけるから』
『おじちゃん、約束だよ』
『あぁ、約束だ』
薮中は女の子と約束を交わした情景を思い出すと大粒の涙を止めどなく流しながら、
体を小刻みに震わせていた。
薮中はいつも罪を憎んではいたが、人を憎まない冷静な自分でありたいと日々努力していた。
凶悪な発破に対しても、犯した罪を憎み、何としても人として憎まないようにすることが、
自らが守ろうとしていた自分自身への誓いだった。
「みんな、みんな、生きる資格のないクズたちです。皆殺しにしてやるー!」
発破が嘲笑いながら叫んだ言葉に、薮中の思いを止まらせていた防波堤が一気に決壊した。
「お前だけは…お前だけは…お前だけは、絶対、生かしておけない!」
薮中が心の底から溢れ出た強い怒りを叫ぶと、上空に鉛色の雲が急速に集まりはじめた。
刑事たちや機動隊員たちが驚きの余り空を見上げて放心状態になっていた。
稲妻が発破の運転する車に落ちて辺りに轟音が響いた。
その時、薮中が後部座席の上に立ち上がり屋根をすり抜けながら警棒を振り上げると、
薮中の体が黄金色に輝きながら具現化した。
捜査課の刑事たちや機動隊員に輝く薮中の姿が確かに見えている。
堤が声をあげた。
「あっ!薮中さん」
「うそ!」
月影が目を見開いて驚いた。
皆の眼の前で薮中の振りかざした警棒の先に稲妻が落ちた。
「お前だけは、お前だけは、生かしておけないんだ!……天誅!」
薮中は多くの無念を抱いて殺された者たちの怒りを集約させ、
その思いを警棒に込めていっきに振り降ろした。
警棒は爆音と共に車の屋根をすり抜けて勢いよく発破の頭に当たった。
「うがぁー!」
発破は炸裂音と共にうな垂れた。だが車は尚もゆっくりと走り続けている。
ベルが何かを感じ取ったのか、突然、発破の車へ目掛けて物凄い勢いで走り出した。
薮中は頭から血を流してうな垂れている発破に吐き捨てた。
「お前は、地獄へ落ちろ!」
すでに事切れていると思われた発破がうな垂れたまま肩を揺らして薄ら笑った。
「あなたも、道連れですよ」
「何!」
その時、ベルが発破の車に駆け寄りリアドアをすり抜けて勢いよく薮中にタックルしたのと同時に
発破は首からさげていた起爆リモコンを押した。
発破の車が走りながら、突然、大爆発を起こした。辺りに閃光と爆風が襲った。
驚き身を伏せる捜査課の刑事たちと機動隊員たち。
堤が叫んだ。
「薮中さん!」
梶原も叫んだ。
「薮中!」
豊田が肩を落としてつぶやいた。
「そんな……」
発破の車が激しく燃えながらパトカーに当たって止まった。
機動隊員たちが消化器を持って燃え盛る車に走り寄よると一斉に消火をはじめた。
辺りに消化剤の煙が勢いよく立ち込めると、煙の中から幽体離脱した発破が
笑みを浮かべながらうつむいて伏し目がちに現れた。
だが捜査課の刑事たちや機動隊員たちに見えることはなかった。
突然、発破の周りに何本もの光り輝く光の帯が激しく飛び回りはじめると、
発破の体に力強く巻きつきはじめた。
発破は叫んだ。
「何だ、これは!離せ!」
発破は激しく身悶えながら抵抗した。
光の帯は尚も発破を強く締め付ける。
発破は天を仰ぎ見て絶叫した。
「私は永遠だぁぁぁ…ガァー!」
そう絶叫した発破が悶え苦しみながら宙へ浮き上がると、突然、弾けるように砕け散った。
発破は世の人たちに何も真実を語ることもないまま消えてしまった。
薮中は発破の運転していた車から爆発する間際にベルの体当たりによってベル諸共、
勢いよく車外に転げ落ちた。薮中は勢いよくしかも何回も激しく路上を転がると、
係船柱に後頭部をぶつけて止まり、難を逃れていた。
薮中はあまりの痛さに顔を歪め後頭部を手で摩りながら起き上がろうとした時、
ベルが走り寄って薮中に抱き着いた。
ベルは嬉しそうに薮中の顔を舐め回そうとした。
「わっ、分かったから、そんなに興奮するな」
薮中はベルを固く抱き締めた。
「ありがとうな、ベル」
薮中はそう言ってベルを両手で抱き締めながら頭を撫でた。
ベルはしっぽを左右に激しく振りながら満面の笑顔だった。
その後、薮中とベルは、発破の車をただ呆然と見つめている仲間たちの元へと歩み寄った。
薮中のとった行動に感極まった月影が涙を拭きながら叫んだ。
「薮中さーん!」
「はーい」
薮中は月影に聞こえるはずのない返事をすると、少し照れくさそうに頭をかいた。
梶原が車の残骸を見つめながら手を合わせてこう言った。
「薮中、ありがとう」
泉がつぶやいた。
「薮中さんには、ずっと捜査課に居てもらいたかったな」
薮中は何度もうなずいていた。
豊田がうつむいてつぶやいた。
「薮中さん、かっこいいっす。最高の男っす」
薮中は気持ちのよい高揚感に満たされて、顔が綻んでいた。
堤が薮中の高揚感に水をさすような思いを真顔でつぶやいた。
「薮中さん、本当に死んじゃったんですね」
「ん?」
堤の発言に違和感を覚えた薮中は、堤のお尻を警棒で二回つっ突いた。
「あっ、あっ!」
堤が裏声で声を上げて振り向くと、捜査課の刑事たちも、何事かと一斉に振り向いた。
薮中がいることに安心した堤は、嬉しそうにこう言った。
「薮中さん、死んだかと思いましたよ」
「私はもう死んでいるんだかな」
ベルが右前足を口にあてがい声を押し殺すように笑っていた。
こうして薮中は仲間たちと生還の喜びを分かち合った。




