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さまよい刑事  作者: 永橋 渉
26/29

第26話 爆破事件の犯人を追え! 後編


 早朝を(むか)えた曙警察署の連続予告爆破事件捜査本部では、藤堂課長が一人で電話の前に座っている。

ホワイトボードには三十人程の顔写真が並べて貼られ、(すで)にいくつかの写真に×印がしてあった。

×印のない写真の中に発破の写真もある。だが、発破による強行だと言うことを知る(よし)も無い藤堂課長は、

大きな手がかりも得られない捜査状況に、苛立(いらだ)ちを感じていた。

そこへ薮中とベルがドアをすり抜けて飛び出してきた。

薮中は警棒で壁を激しく叩いた。

藤堂課長の耳に壁を激しく叩く音が聞こえた。

「薮中か!」

壁を叩く音がニ回聞こえた。

薮中はボードに走り寄り顔写真を眺めてすぐに発破を見つけた。

「あったぞ、こいつだ!」

ボートを何度も叩く音が藤堂課長に聞こえた。

「薮中、犯人が分かったのか!」

ボートを叩く音が二回聞こえた。

「どいつだ!」

突然の吉報に藤堂課長は興奮した。

薮中はボートに貼られた発破の写真を何度も叩いた。

だが藤堂課長には、ただホワイトボードを叩く音しか分からなかった。

「薮中、それじゃあ分らんよ」

ベルが薮中を見上げて意見した。

「ご主人様、鉛筆で写真を()がせばよいのでは」

「おっ、その手があったか」

薮中は上着の内ポケットから新品の鉛筆を二本取り出すと、鉛筆を箸のように使い、

写真の(はし)()まんで剥がした。

発破の写真が宙を(ただよ)って藤堂課長の前に来た。

藤堂課長は戸惑いながら写真を受け取って見つめた。

「こいつなのか!」

ホワイトボートを叩く音が二回聞こえた。藤堂課長は薮中の居ない右側を見て

「薮中、お手柄だったな」

と労をねぎらった。

薮中は少しむくれた様子で藤堂課長を見つめてつぶやいた。

「課長、私はもう少し右に居るんですよ」

藤堂は早速、裁判所に発破の家宅捜索礼状の発行を電話で請求した。

そして電話をきった時、梶原と月影が捜査報告のために帰って来た。

藤堂は犯人が発破であることを伝えると、薮中を連れて裁判所に寄ってから、

家宅捜索に加わるよう指示を出した。


 梶原が運転する覆面パトカーは、助手席に月影、後部座席には薮中とベルを乗せて、

途中裁判所で家宅捜索令状を受け取ってから、発破が住む場所へと向かった。

覆面パトカーの後部座席で薮中が腕組みをしながら、窓の外を流れる風景をただじっと見つめ、

ベルはおすわりしながら、薮中の横顔をじっと見つめていた。

梶原が突然、薮中に話しかけた。

「薮中、やっこさんの部屋に着いたら、部屋の中を覗いて様子を確認してくれるか」

「了解」

リアドアのガラスを軽く叩く音がした。

月影は後ろを振り向いて薮中の姿を見ようと、目を細めて(にら)むように見つめてきた。

ベルは身を引き気味にしてぼやいた。

「ご主人様、この方のお顔が不細工になっています」

「月影君、可愛い顔が台無しだぞ」

月影は目を細めて何度も目蓋(まぶた)(こす)り、薮中の姿を見ようと努力し続けた。

発破が住むグレイトハイドマンションの前には既に先着していた堤と豊田が、

路肩(ろかた)に止めた覆面パトカーに乗ったまま、発破が住んでいる五階の中央にある部屋の様子を(うかが)っていた。

発破の部屋に明かりが(とも)っており、時折、人らしき物影が見える。堤がつぶやいた。

「居るみたいですね」

「応援はまだか」

豊田が(あせ)る思いを(おさ)えながら無線のマイクを手に取りスイッチを入れようとした瞬間、

刑事たちを乗せた複数の覆面パトカーが(あた)り一帯に静かに止まった。

そして無線から梶原の声が聞こえてきた。

「配置に着いた。発破はまだ居るか」

豊田が現状の報告をした。

「時折、窓に人影が見えます」

「よし、行くぞ」

梶原の指示で刑事たちは車から一斉に降りると、県警から応援に来た刑事たちが、

グレイトハイドマンションの周りに手際良く散って、逃走可能な経路を確保した。

捜査課の刑事たちが正面口から入って行く。薮中とベルもその中にまぎれて行った。

刑事たちがエレベーターで五階フロアに到着し、無線で外から発破の部屋の様子を窺っている刑事に

連絡を取ると、まだ人影が部屋に見えることを伝えてきた。

刑事たちは部屋の中に発破が居ることを確信して玄関(げんかん)前の通路を足早に歩き、

発破の部屋の前でドアを挟んで二手に分かれると拳銃を構えた。

梶原が薮中に指示を出した。

「薮中、部屋の様子を確認して踏み込むタイミングを教えてくれ」

薮中は通路の手すりを一回軽く叩いて、ベルと共にドアをすり抜けて部屋の中に入って行った。

廊下を歩き居間のドアをそっとすり抜け、ドアから頭だけを出して覗くと、

辺りにはパイプラックが組まれ、複数のコンピュータが置いてある。

その周りに爆発物の製作に使われたと思われるリード線やプライヤーなどの加工道具が雑然と置いてあった。

薮中とベルはドアをすり抜けて辺りを見回した。

「何だ、ここは?」

「あっ、ご主人様、あれを見てください」

ベルがカーテンにプロジェクターが映し出す人影が映っていることを発見した。

「はめられたか。奴は確かにここに居ないな」

「そのようですね」

薮中が壁を勢いよく警棒で叩いた。

その音を聞き付けた刑事たちが玄関をこじ開けて居間に雪崩(なだ)れ込んで来た。

豊田が拳銃を構えて叫んだ。

「警察だ!」

泉がプロジェクターを見つけてだまされたことに気づいた。

「だまされてたのか」

薮中は刑事たちに聞こえるはずのない声で言った。

「もうここには居ないぞ」

薮中とベルは壁側に寄り、刑事たちを時々避けながら捜索の様子を見つめた。

刑事たちが分散して部屋を捜索している。

月影が拳銃を構えてトイレのドアを開けて中を確認した。

「トイレには居ません」

梶原が拳銃を構えて浴室ドアを開け、風呂(おけ)(ふた)を恐る恐る剥がした。

「風呂場にも居ないぞ」

豊田と堤が拳銃を構えて寝室のクローゼットの中やベットの下を確認して堤が叫んだ。

「寝室にも居ません」

刑事たちが居間に集まって辺りの捜索をはじめた。

泉が辺りを見回して思いを口にした。

「発破はこうなる事を予測していましたね」

梶原も同感だった。

「完全にはめられたようだな」

豊田が居間を歩いて捜索しているとトラップに足を乗せてしまった。

「カチッ」

と何かのスイッチを入れてしまったような感触と共に、何かが作動したであろう

規則正しい電子音が聞こえた。

豊田は焦り身動きがとれない状況に追い込まれた。

「何かの仕掛けを踏んでるみたいだ」

泉が叫んだ。

「動くな!動いたら起爆するかもしれん!」

泉は豊田の足元に(かが)んでトラップの構造を把握(はあく)するためにトラップから伸びている

リード線の接続先をたどっていった。

そこには金属製の箱があり小さな液晶画面と赤いパイロットランプが点滅を繰り返していた。

泉はポケットから赤いビクトリノックスのスモールオフィサーを取り出すと、

ラージブレードを引き出してリード線に()を当てがった。

「リード線はニ本ある。どちらかを一方を切るか、同時にニ本を切るかだ」

豊田は覚悟を決めたようだった。

「ニ本同時に切ればいいんじゃないか」

「私もそう思っていたよ」

泉は持っていたナイフを強く握りしめるとリード線二本を同時に引き切った。

すると金属製の箱で点滅を繰り返していた赤いパイロットランプが消えた。

豊田がトラップの上から恐る恐る足を離そうとした瞬間、金属製の箱にある小さな液晶画面に

180秒の表示が現れ一秒づつのカウントダウンをはじめた。

豊田が液晶の表示を見て驚いた。

「おっ、おい。どういうことだ!爆弾のタイマーがまた動きだしたぞ!」

泉は焦りながらも金属製の箱を色々な角度から見て打開策を考えていた。

「今、構造を確認しています」

梶原が泉に駆け寄った。

「こんな所で爆発させたら大変だぞ」

「分かっていますが、この箱をどうやって開ければいいのかも分からないんです」  

梶原が指示を出した。

「堤、月影、他の連中とこの部屋に隣接する住人を避難させろ!」

「了解!」

堤と月影はその場を走り去って行った。

豊田が泉に叫んだ。

「もうダメだ!俺を置いて早く逃げろ!」

「お前を見捨てられるか!」

突然、壁を激しく連打する音が聞こえた。

豊田が辺りを見回して叫んだ。

「薮中さん!俺が起爆装置を踏んでいます。多分この足を上げるか カウントがゼロになるかで

起爆する恐れがあります」

薮中は警棒で豊田のトラップに乗せた足のかかとを警棒の先で軽く叩くと、

警棒の先でトラップを押さえ込んだ。

豊田は薮中の合図が理解できたようで、恐る恐るゆっくりと足を持ち上げたが

トラップのスイッチが作動しないことに気づいた。

薮中は怒鳴った。

「早く逃げろ!」

豊田は目をきょろきょろさせてトラップのスイッチを見つめていたが、

泉は薮中のとっている行動に察しがついたようであった。

「きっと薮中さんがこのトラップを押さえているんですよ」

梶原が()えた。

「逃げろ!」

刑事たちは部屋を飛び出すと玄関前通路を全力で走って逃げた。

薮中の側にいたベルが

「ご主人様」

と体を薮中に持たれかけるようにおすわりをした。

薮中は叫んだ。

「お前も早く逃げろ!」

ベルは薮中の目をじっと見つめていた。

「いいえ、ご主人様のお側にいます」

薮中はベルの言葉を聞いて微笑(ほほえ)んだ。

「相変わらず義理堅い奴だな」

起爆装置のカウンターが60秒を切り、液晶表示が赤く点滅しながらカウントダウンを続けた。

薮中は右手に持った警棒でトラップのスイッチを押さえ続けながら、ベルを優しい眼差(まなざ)しで見つめると、

左腕でベルを固く抱き締めた。

「どっかに吹っ飛ばされるなよ」

「はい」

ベルが返事をした時、起爆装置のカウントダウンの表示がゼロを示した。

薮中とベルが一瞬身をすくめると、金属製の箱からクラッカーの炸裂(さくれつ)音がした。

そして発破の録音された声が流れ出した。

「あれービックリさせちゃいました?ハッハッハーハッハッハーハッハッハー」

発破の人を小馬鹿にした笑い声が辺りに響いていた。

薮中もベルも気づきはしなかったが、パイプラックの上に置かれているモニターの上にあった

可動式のWEBカメラが(かす)かに動いた。

そして(なお)も繰り返す発破の人を小馬鹿にした笑い声に薮中は激怒していた。

「調子に乗りやがって……」

薮中は警棒で辺りの物を殴って弾き飛ばした。


 その頃、発破は曙埠頭(あけぼのふとう)に隣接している倉庫街の片隅に止め置かれた白いプリウスの中で、

可動式のWEBカメラで(とら)えた映像をノートパソコンの画面で見ていた。

モニターに映る自分の部屋では、誰も居ないにも関わらず、物が勝手に弾き飛ぶ様子が映っている。

発破は疑問を抱いていた。

「んっ、どういう事ですか?」

独り言を言いながらスニッカーズを口いっぱいに(ほお)張った。


 薮中とベルが発破の部屋から出て行くと、梶原、豊田、泉が廊下の端からこちらを覗いている姿が見えた。

薮中は梶原たちに歩み寄ると

「もう大丈夫だ」

と警棒で壁を軽く二回叩いた。

壁を叩く音が聞こえた梶原、豊田、泉は発破の部屋に走って向かった。

ベルが薮中に質問をした。

「ご主人様、我々はどうします?」

薮中は少し考え込んで言った。

「……爆破された地下街へ行ってみるぞ」

発破の部屋に向かって走って行った泉が、部屋に入る前にふと後ろを振り向いた。

すると薮中とベルの去り行く姿が一瞬ではあったがハッキリと見えた。

泉は思わずつぶやいた。

「薮中さん…その犬は何者ですか?」

部屋の中から梶原の声が聞こえた。

「泉、早く来てくれ」

「はい」

泉は部屋の中に入って捜索を続けた。


 爆破されたダイヤモンド地下街は、いつ地下街全体が(くず)れるか分からない状況下で現場検証も進まず、

地下街へ通じる出入口には規制線が張られて地下道内に動く人影はなかった。

辺りは非常灯の明かりだけが薄暗く(とも)り、散乱している瓦礫を照らしていた。

薮中とベルが()ちかけた壁をすり抜けて地下道内に現れた。

二人は瓦礫(がれき)の散乱した間をゆっくりと歩いた。

「一瞬にしてこれじゃあ、何が起ったのか分らないで死んだ人も多いだろうにな」

「ご主人様、何故こんな事をするんでしょう」

「分らんな。でも、人間の感情があるとは思えん」

二人の前方でうずくまってすすり鳴いている年の頃は五才くらいであろう女の子がいる。

ベルがその女の子に気づいて右前足で女の子を()し示した。

「ご主人様、あそこ」

薮中は女の子に走り寄って声を掛けた。

「どうした。…一人なのか?」

女の子には薮中の声が聞こえるらしく、か細い声で話しはじめた。

「お母さんと一緒に居たの」

「お母さんはどうしたんだ」

「お空に昇って行っちゃった。…ねっ、おじさん、私は死んじゃったの?」

薮中がふと横に目をやると瓦礫の隙間から事切れている女の子の遺体が見えた。

薮中は目をつむり込み上げる涙を(こら)えた。

「……あぁそうだ。…痛かったか」

女の子は首を横に振った。

「おいで」

薮中はそう言って両腕を広げると歩み寄って来た女の子を固く抱き締めた。

「お母さんがきっとお空で待ってるよ」

「うん。…おじちゃん、悪い奴をやっつけてくれる?」

「あぁ、おじちゃんが必ず悪い奴をやっつけてやるから」

「おじちゃん、約束だよ」

「あぁ、約束だ」

薮中の腕から女の子の体がすり抜けて宙に浮かんだ。

「おじさん、きっとだよ」

女の子の姿が消えた。薮中は警棒を固く握りしめた。

「きっと…きっと、だぁ!」

そう叫んだ薮中は、地下道の壁を警棒で力強く叩いた。

その衝撃で薮中たちの後ろ側にある天井が大きく抜け落ちた。

ベルはその衝撃に驚き、全身の毛を(さか)立てて後ろ足で立ち上がった。

その後、薮中は女の子の遺体の前に座り込んでじっと遺体を見つめ、涙を流しながら一夜を過ごした。


 早朝のことだ。薮中が前日に崩落(ほうらく)させた天井の確認作業のために

消防の救助隊が階段通路越しに懐中電灯で辺りを照らしながら様子を窺いに現れた。

薮中はその存在に気づくと警棒で側にあった瓦礫を一定の間隔で叩きはじめた。

その音は救助隊員にも聞こえたらしく、二人の救助隊員が瓦礫をかき分けながら薮中の方へと近づいて来た。

薮中とベルは立ち上がり身を引いた時、救助隊員の一人が瓦礫の隙間にいる女の子の存在に気づいた。

「おい!ここに女の子がいるぞ!」

救助隊員は手袋を外して屈み込むと、人指し指と中指を合わせて、女の子の頸動脈(けいどうみゃく)の辺りを触り

バイタルサインを確認しようとした。

だが指先から伝わってくるものは力強い鼓動ではなく、事切れて冷たくなった感触だけだった。

救助隊員はうつむいて歯を食いしばった。

「今すぐ助け出してあげるからね」

二人の救助隊員が瓦礫をそっと動かし、事切れた女の子を優しく抱きかかえると、

出入口へと向かって行った。

薮中は女の子を抱きかかえた救助隊員の後ろを眺めながらつぶやいた。

「あんな小さな子が、こんな恐いところに一人で居るなんて、(つら)かったよな」

薮中は子供の頃、母親と死別して一人きりになった時のことを思い出していた。

ベルもまた薮中の辛い過去を思い出して無言のまま涙を流していた。


 その後、薮中とベルはまっすぐに善願寺(ぜんがんじ)ヘと向かった。

善願寺の参道まで来ると薮中は立ち止まった。

そして上着の内ポケットから家族写真を取り出すと無言のまましばらく見つめた。

ベルは薮中を(あお)ぎ見て心配げに声を掛けた。

「ご主人様」

「……行くぞ」

と薮中は上着の内ポケットに家族写真をしまい参道を歩きながら姿を消した。


 善願寺の本堂で稲荷住職|(八十八歳)が内陣(ないじん)を向いて御経(おきょう)(とな)えていると、

賽銭箱の向こうに薮中とベルが(うっす)らと現れた。

薮中とベルは御経を唱える稲荷住職の後ろ姿を無言のままじっと見つめていた。

稲荷住職が何か気配(けはい)を感じたのか、突然、御経を唱えることをやめた。

そして再び何事も無かったかのように御経を唱え続けた。

薮中が縁側(えんがわ)に上がるとベルも縁側に上がった。

ベルは縁側でおすわりをすると、薮中は前に進み出て稲荷住職の後ろで正座をした。

稲荷住職が御経を唱えて終えて(りん)を鳴らすと、後ろに向きに座り直して静かに語りはじめた。

「薮中くんだね。君が来る予感がしていたよ」

「稲荷住職」

「何じゃ」

「私は人の犯した罪ではなく、人を許せなくなってしまいました」

「…予告爆破事件の、犯人だね」

「何故、分るんですか」

「沢山の無念を抱いた霊の叫びが、聞こえてきたのじゃ」

「私ははじめて、犯人を(あや)めたい気持ちになりました」

「人が人を殺める事は、本来あってはならん事だと思う…だがな、この世には人の皮を被った鬼畜もおる。

……わしがこんな事を言ってはいかんのだが、鬼畜に変わりし者は、もはや人ではない」

薮中はうつむいて拳を握りしめた。稲荷住職には薮中の心の中の葛藤(かっとう)が伝わっていた。

(おのれ)の思いを信じろ。これからも君が正しいと思う道を進めばよい」

「はい」

薮中は深々と一礼すると立ち上がり、ベルと共に走り去ろうとする。

稲荷住職は走り去って行く薮中を心の目で見つめ、独り言を言った。

「薮中くん…君だけに罪を背負わせる事はさせないよ」

稲荷住職は再び内陣を向いて座り直すと、御経を唱えはじめた。


 薮中は何か吹っ切れるものがあったのか、(みずか)らの正義を貫くべく、ベルと共に走った。

行く()てが(さだ)まっていたわけではないが、刑事として(つちか)ってきたカンが示す方向に導かれるまま、

物や人をすり抜けてただ走り続けた。

突然、ベルが立ち止まり辺りを見回してた。

「どうした」

薮中が問いただすとベルは、右前足で方位を示した。

「あっちの方で大きな邪悪の気配を感じます」

「行くぞ」

「はい」

薮中とベルは行きつくべき方位を定めつつあった。



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