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さまよい刑事  作者: 永橋 渉
23/29

第23話 廃墟ビル爆破事件


 発破が爆破予告をしたちょうどその頃、市街地を定時パトロールで走るパトカーの中に、

発破と高校の同級生だった佐藤と鈴木がいた。

運転している佐藤が鈴木に質問をした。

「なぁ、捜査課で働いてた薮中さんを覚えているか?」

「あぁ覚えているよ、市民にはやたらと評判が良かったけど、

犯人にはすこぶる嫌われていた刑事さんでしょ」

「その薮中さんなんだけど、まだ捜査課で働いてるって、知ってたか」

「えっ、だって、確かこの前殉職(じゅんしょく)したろ?」

「そうだけど、幽霊になって、今も刑事として働いているらしいぞ」

「まさかぁ〜」 

突然、無線が入った。

「本部より緊急指令。これから一時間後に北曙町八丁目の廃墟(はいきょ)ビルの中で、

爆発物を爆破させるとの110番通報。移動中の警ら隊は現場に急行してください」

鈴木が無線のマイクを持って応答した。

「機捜2了解。いたずらじゃないか?」

「多分な」

鈴木は赤色灯とサイレンのスイッチを入れた。

佐藤はアクセルを踏み込んで前を走る車を避けて行った。


 三分ほどで廃墟ビルの駐車場にパトカーがゆっくりと現れて静かに止まった。

二人は赤色灯の回ったままのパトカーを後にして、廃墟ビルの左側にある

ドアが開け放たれた出入口から中に入って行った。

鈴木が廃墟の中を見渡してつぶやいた。

随分(ずいぶん)薄気味悪いところだなぁ」

佐藤は(あた)りを冷静に見ていた。

「足元をよく見ろよ、ホコリが()まっているのに足跡が無いぜ」

「どう言うことよ」

「誰もこの中に入っていないってこと」

「でもさぁ、ここ薄気味悪いことにかわりないじゃん」

「つべこべ言わずさっと調べて終わりにしようや」

鈴木が無線機で本部に連絡を入れた。

「機捜2から本部」

「こちら本部」

「爆破予告現場に到着。辺りに人影はありません。これから廃墟の中を捜索してみます」

「本部了解。注意してください」

「機捜2了解」

佐藤が捜索プランを口にした。 

「とりあえず一階の部屋から順繰(じゅんぐ)り見て行こうや」

「そうだな、そうしよう」

「飯前にちゃっちゃと終らせようぜ」

「おう。なぁ、昼、何食おうか」

佐藤はうれしそうに自慢した。

「えへぇ〜今日は愛妻弁当なんだぁ〜」

鈴木は顔をしかめた。 

「何だよ」

二人は廃墟ビルの一階から捜索を開始したが、足跡すら無いホコリの溜まった廊下に

新たな足跡を刻みながら、廊下に面した部屋を流し見して行った。

二人が廊下を端まで歩き、階段を上ろうとした時、佐藤が階段に刻まれた真新しい足跡に気づいた。

「おい、階段に新しい足跡があるぞ」

「てことは、誰かが居るってことか」

「かもな」

二人は足跡を追うように階段をゆっくりと上って行った。

二階の廊下が見えた時、鈴木が声を上げた。

「なぁ、廊下に足跡があるぞ」

二人は階段を駆け上がると、佐藤が廊下に(かが)み込んで床を見た。

「あっちこっち歩き回った感じの足跡だな」

「この階を重点的に見た方がいいのかな」

「そういうことかもな」

二人は事件性や現実味を感じてきたのか、緊張した面持(おもも)ちで二階にある部屋の一つ一つに入っては、

放置された家具や瓦礫(がれき)に何か隠されていないか慎重な捜索をはじめた。

だが、二階の中央付近まで捜索しても何も発見できなかった二人は、

やはりいたずらだったのかと思い、中央部の階段から下りようとした時、

鈴木が上り階段に足跡があることに気づいた。

「なぁ、上に向かった足跡もあるぞ」

佐藤が上り階段に刻まれた足跡に近づき屈んで足跡をじっと眺めた。

「なぁ、この足跡、上から下りてきているものだぞ」

「だから?」

「俺たちをだます気なんじゃねえか?この足跡をたどって何も無ければ、いたずらってことだろ」

「もうちゃっちゃか終らそうぜ」

「そうだな」

二人は階段に刻まれた足跡をたどりながら階段を上がって五階へとたどり着いた。

廊下にも足跡がある。二人は辺りを見回して瓦礫が散乱する廊下を歩き出そうとしたその瞬間、

ネズミが部屋から飛び出して、鈴木の足元を横切って行った。

「うぁ!」

と鈴木が身構えながら叫んだ。

「どうした!」

「ネズミが飛び出してきた!」

「ネズミくらいでビビるなよ……」

佐藤は鈴木の驚き方に少々(あき)れていた。

佐藤がふと足元を見ると、部屋の中に続いている足跡があることに気づいた。

二人は発破が金属製の箱を隠した部屋へと入った。

二人が部屋に入ると、二人共、急に立ち止まり辺りを見回した。

鈴木が(かす)かな電子音に気づいた。

「おい、何か音がしないか?」

「えっ、そうかぁ」

佐藤は辺りの捜索をはじめた。

鈴木は微かな電子音の出所を探すべく耳に神経を集中させた。

方位が定まった鈴木は音の発信源を求めて机に歩みよると、そっと机の下をのぞき見た。

そこには金属製の真新しい箱があり、微かな電子音を()てながら、

箱の上部に(もう)けられていた小さな液晶画面に残り時間を刻んでいた。

鈴木は発破の置いていった金属製の箱を見つけると佐藤を呼んだ。

「なぁ、これ何だろ?」

「おい、どうした?」

佐藤が鈴木に歩み寄った時、箱の上部に設けられていた小さな液晶画面の表示が

残り5秒を示し(なお)もカウントダウンを続けていた。

佐藤は焦った。

「おい!ヤバいぞ、逃げろ!」

佐藤と鈴木は慌てて部屋を飛び出そうと必死で走り出した。

その時、無情にも時限装置のタイマーがゼロを示して爆弾が炸裂(さくれつ)した。

辺りは何も見えないほど真っ白に輝き、佐藤と鈴木か(はっ)した断末魔の叫びをかき消すかのような

大きな爆発音と共に爆風が辺りにあった全ての窓ガラスを一瞬にして破り、窓から瓦礫と共に噴き飛ばした。


 佐藤と鈴木が廃墟の捜索をしていた時、薮中とベルは曙埠頭(あけぼのふとう)に置かれているコンテナの上で、

変質者事件が解決した満足感を感じながら、寝転がり日光浴をしていた。

心地よい風に乗ってユリカモメの「ギューイ、ギーィッ」と鳴く声が、

のどかな埠頭を演出するかのように聞こえた。

薮中はとても心地よい休日を満喫していた。

「なぁベル、のどかでいいなぁ〜」

「そうですねぇ〜」

「あの露出狂犯の藻子里、月影くんにこってりいびられたんだろうなぁ〜」

「でも、奥様が大事に(いた)らなくて本当に良かったですね」

「そうだな。もし、明香里を傷つけるようなことをされたら、私の怒りは収まらなかったろうなぁ」

突然、地鳴りのように大きな爆発音が聞えて辺りの物が微かに揺れた。

薮中は驚き身を起こして辺りを見回した。

「何だ!」

「ごっ、ご主人様!何の音でしょう」

薮中の目に遠くの方で白い煙がのぼっていくのが見えた。

「何かが爆発したみたいだぞ。行くぞ!」

薮中とベルは、コンテナの上から華麗なジャンプを決めて地上に舞い降りると、

さっそうと走り出して辺りの物をすり抜けて消えた。


 廃墟ビルの窓から吹き飛ばされ地上に落ちて倒れた佐藤と鈴木が半透明の状態となって立ち上がった。

佐藤は頭をさすりながら鈴木に声を掛けた。

「痛ー!……おい、大丈夫か?」

「あぁ、何とか大丈夫だ。しかし五階から落っこちて助かったのは奇跡だな」

鈴木は制服に付いたホコリを両手で払いながら立ち上がった。

「本部に連絡しなきゃ」

鈴木が制服に付けた無線機を取ろうとしたが無くなっていた。

「あっ無線機が無くなってる」

「俺の無線機で、あっ!」

佐藤も無線機を無くしていた。

「俺、PC無線で署に連絡してくるよ」

鈴木はパトカーに走り寄って、ドアノブを掴んでドアを開けようとした。

だがなぜかドアノブを掴むことすら出来ない。

「あれ、どうしたんだろ?」

佐藤が鈴木の隣に駆け寄った。

「おい、どうした?」

「ドアノブが掴めないんだ!」

「何バカなことを言っているんだよ」

佐藤もドアノブを掴んでドアを開けようとしたが、なぜかドアノブを掴めない。

「あれ、何でだ。俺も掴めないぞ」

二人の体が、突然、輝きはじめるとゆっくりと宙に浮き上がり上昇をはじめてしまった。

佐藤と鈴木は顔を見合わせた。

「……まさか俺たち、死んじゃったのか!」

そう二人がハモった途端(とたん)、二人は弾けるように消えた。


 予告爆破が実行され、爆音や立ち上る煙を見た人たちから警察と消防には数多くの通報があった。

警察官や消防隊員たちは、(ただ)ちに廃墟ビルに向かった。

廃墟ビルの前にある駐車場には爆破から五分も経たないうちに、消防車、パトカーなどが多数集結していた。

微かなホコリが五階の窓から棚引(たなび)いていただけで、火は出ていないと一人の消防隊員が安堵(あんど)しかけた瞬間、

目の前の路上に倒れてみるも無惨な姿に変わり果てた佐藤と鈴木の遺体を発見した。

「被害者を発見しました!」

その声にその場にいた警察官や消防隊員たちは一斉に振り向いた。

そして駆け付けた救急隊員が息を飲んだ。

「ひどすぎるよ」

救急隊員は救急車に戻って毛布を二枚持って来ると、亡くなった二人にそっとかけた。

警察官や消防隊員たちはやるべき仕事をこなした者から遺体の回りに集りはじめ、

それはやがて円陣となり、変わり果てた姿になってしまった佐藤と鈴木を見つめ、

皆、歯を食いしばって怒りに震えた。

覆面パトカーの無線で、佐藤と鈴木が爆破に巻き込まれたとの一報を聞き付けてやって来た豊田が、

梶原と共に円陣をかき分けて中に入ると、遺体に掛けられた毛布を(まく)った。

そこには血まみれで焼きただれ、むごたらしく変わり果ていた後輩たちの遺体があった。

「なんてことを!」

豊田はうつむきながら小刻みに震えた。

「俺の後輩に(むご)いことをしやがって」

梶原が豊田の肩に手を()えた。

ベルが円陣の周りを犬のように()ぎ回っている。

薮中はその後をたどりながらベルに声を掛けた。

「どうだ?」

「霊魂の匂いはこの辺りにしかないです」

「犠牲になった警官たちのだな」

薮中は円陣の外にいた堤に歩み寄り、警棒で堤の肩をそっと叩いた。堤は振り向いた。

「薮中さんですね」

円陣に加わっていた警察官や消防隊員たちが一斉に薮中が居るであろう方向を見ると、

堤が遺体の身元を姿の見えない薮中に向かって説明をした。

「薮中さん、犠牲になったのはうちの署に勤務する警ら隊員です」

「まだ若い警官たちなのにな」

梶原が円陣の中から出てきた。

「薮中、俺たちで仲間の無念を晴らすぞ」

薮中は両手で警棒を握りしめた。

「分かっています」

ベルは決意に満ちた表情の薮中を見つめた。

梶原の携帯電話から黒電話の鳴る音がしはじめた。

「もしもし、梶原です。……はい分かりました。すぐにそっちに向かいます」

堤が梶原に問いかけた。

「どうしたんですか?」

「容疑者が電話をした発信源を突き止めたらしい。俺たちも行くぞ」

「了解」

梶原と堤は遺体に歩み寄り会釈(えしゃく)すると、豊田を現場に残して覆面車に乗り込んだ。

そして薮中とベルも覆面車のリアドアをすり抜けて(すで)に乗り込んでいた。

堤が薮中が乗っているのかを確認をした。

「薮中さん、乗りましたか?」

「あぁ」

薮中はそう言って警棒で軽く窓を叩いた。

「堤、出してくれ」

梶原がサイレンのスイッチを入れると、堤は覆面車のアクセルをゆっくりと踏み込んだ。

薮中たちを乗せた覆面パトカーはサイレンを鳴らしながら廃墟ビルを後にした。

サイレンを鳴らしながら市街地まで来ると幹線道路が渋滞していた。

梶原がマイクのスイッチを入れて辺りの車に呼び掛けた。

「緊急車両が通ります。左に寄って道を開けてください」

堤は左に寄せきれていない車に苛立(いらだ)ちながらも、神妙な面持ちで運転しながら車の間を()うように走った。

薮中がぽつりとつぶやいた。

「何で…あんな酷いことができるんだ」

「ご主人様……」

ベルはいつもと違う感じの薮中に不安を抱きはじめていた。


 堤の運転している覆面パトカーが爆破予告電話の発信源に近づくと

サイレンと赤色灯を止めて静かに住宅地を走った。

爆破予告の電話が掛けられた玉替邸の前には、複数の警察車両が時を合わせたように

現れて玉替邸の周りを囲むように止まった。

刑事たちは玄関(げんかん)を中心に裏や庭に面した逃走経路になりえる場所を押さえるための

配置に付いて玉替邸を取り囲んで様子を(うかが)った。

家の中からはテレビの音が外に()れているが、室内の様子が確認できないでいた。

薮中とベルは何のためらいもなく玄関のドアをすり抜け中に入って行った。

薮中とベルが居間の壁をすり抜けて中を(のぞ)くと、テレビの発する音の発信源である居間では、

この家の曾祖父である玉替 金玉(たまがえ きんぎょく)がベージュ色のステテコに、

孫からもらったのであろうか黒地の生地に、「Michael Jackson」の白文字と

爪先立ちするマイケル・ジャクソンの白いシルエット姿が描かれたトレーナーを着こなして、

刑事ドラマを見ていた。

薮中は玉替の容姿を見て驚いた。

「何だ、この爺さんは?」

「ご主人様、この方が犯人ですかね」

「いゃ〜違うだろ〜」

居間に呼鈴を鳴らす音が聞こえてきた。

玉替は大音響でテレビの音を聞いているわりには、玄関の呼び鈴に対する反応は早かった。

「誰だぁ……は〜いよ〜。よっこいしょ」

薮中は今にも崩れてしまいそうな玉替の動きに不安を感じた。

「おい、爺さん、大丈夫か?」

ベルは玉替に歩み寄り不思議そうに玉替を眺めた。

「よぼよぼですね」

玉替はやっとの思いで立ち上がると、壁に手をつきながら、よたつく足取りで玄関へと向かっていった。

玉替邸の玄関前には、ドアを挟んで、堤、梶原、豊田、泉、月影たちが玉替の発した

「はいよ〜今開けますよ」

という言葉と共に拳銃を身構えてドアの向こうを狙った。

玄関の扉が開くと堤、梶原、豊田、泉、月影が一斉に玉替に銃口を向けた。

「はぁぁぁ!」

玉替はあまりの驚きに、総入れ歯を床に落として両手を上げながら放心状態になってしまった。

堤が目をパチクリさせながら戸惑った。

「えっ、この人が犯人ですか?」

薮中は玉替の後ろから、銃を構えて凄む堤たちを見て頭を抱えた。

刑事たちはこの時、犯人にだまされたと直感した。


 この日の夜、曙警察署の会議室に「予告爆破事件捜査本部」の張り紙が貼られた。

県警から応援に来た刑事たちも捜査に加わり、現場検証の結果、過去の前科者リスト、

爆発物に造詣がありそうな人材の洗い出しなどの情報が本部に集まりつつあった。

薮中とベルは部屋の後ろからその様子を見ていた。

「何か手がかりは見つかったのか?」

「ご主人様の声は皆さんに聞こえませんよ」

「分かってはいるが、ついな」

堤が走りながら捜査本部に入って来ると藤堂課長に歩み寄った。

「課長、鑑識からの報告で、犯人は玉替さん宅の電話回線に割り込んで電話をかけていたとのことです」

「電気関係に詳しい奴だな。泉どう思う」

「玉替さん宅はコードレスフォンだったので、周波数さえ掴めれば比較的容易に割り込めると思います」

豊田は連続犯になる危険性を感じていた。

「梶さん、犯人またやらかす気ですかね」

「110番通報の時の感じだとまだやる気だな」

科学知識の豊富な泉は、爆発物の残骸に重要なヒントが隠されていのではと感じていた。

「課長、科捜研に行って爆発物に関する詳しい分析を手伝ってきます」

「そうしてくれ。それから月影くん、泉についていって記録や連絡のアシストを頼む」

泉と月影は「はい」と力強い返事をして捜査本部から走り去っていった。藤堂課長がぽつりとつぶやいた。

「犯人がまた、爆破予告をしてくる気がするよ……」

ベルは不安な胸騒ぎを覚えた。

「ご主人様」

薮中もまた長年勤めた刑事のカンが不吉な予感を感じ取っていた。

「何だかやな予感がする」



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