空に世界があるという事の意味
視点:久禮 火龍
「次は・・・人員の確保だな。」
いくら兵器があっても人員がいなければ意味がない。無人機であればこの限りではないのかもしれないが、それができない以上は人員を確保するしかない。そう思って公募をかけた。公募の内容は対外防衛部隊の設立についてだった。入隊条件は男女を問わない。年齢も不問。経歴も不問とした。期限は明後日の昼の鐘が鳴るまでとした。
結果的に50人程度の年齢も経歴も性別もバラバラな人員が集まった。軍で言えば小隊規模の人員がそろったので小隊として使うことにした。50人の中から部隊長を2人選出し、第1普通科小隊と第1戦車小隊を設立した。普通科小隊には89式小銃を支給、戦車は61式戦車を支給した。その後しばらくは武器の扱い方や戦車の操縦法などのマニュアルを用いて演習期間とした。演習期間が過ぎるころになると50人だった部隊の人数は100にまでなっていた。そんな中、俺は1つ悩みを持っていた。
「そろそろ副官が欲しいな。」
今の俺には直属の副官はいない。だから現状、すべての書類や伝達などは直接出向いて行っている。その際に口調を変えなければならないのも面倒な事の1つになっている。それと同時に対外演習も行わなければならない理由もある。部隊設立以降も騎士団が外部でのモンスター討伐に行っているのだが、大体が未帰還だったり重傷で戻ってくる。なので、そろそろ対外任務を行わなければ騎士団の存続自体も危うくなる。そう考えた俺は第1戦車小隊を連れて外部への演習に行くことにした。
「第1戦車小隊。本日から都市外での演習を行う。全員気を引き締めていくように。」
「了解しました!」
・・・第1戦車小隊は61式戦車4両の小隊だ。1両に4人が乗っていることから実質的には16名の小隊になる。使用する61式戦車は主砲に61式52口径90mmライフル砲、副武装にM2ブローニング機関銃を装備している。行動距離は200km、速度は45km/hだ。戦後初の国産戦車として生まれ、その後40年近くも日本を守り続けた戦車だ。
「すでに偵察を城塞の上から行い、演習ルートを決めてある。ただし、本日は操縦手が1名風邪で倒れている。よって本日は私が1号車に乗って指揮する。以上。」
その言葉を聞いて全員がすぐに戦車に飛び乗りエンジンをかけた。エンジンをかけ、出発の合図を出す。
「出撃開始!戦車隊前へ!」
その声と共に戦車が敷地を出て中央道路を曲がる。曲がってすぐのところにある門をくぐり、都市の外部へと出る。外部に出ると決められた道を通りぬけていく。戦車は今も昔も騒音を出しながら進む。それがモンスターたちを出す結果につながった。右からも左からもモンスターが現れてくる。
「全車へ、発砲を許可する!繰り返す。発砲を許可する!」
戦車の中では大声でないと基本的に通信はできない。それゆえの大声だった。そして主砲がほえる。初速910m/sのライフル弾が敵に向かって突進していく。あるモンスターは頭部を貫かれて動かなくなり、またあるモンスターはその場で粉みじんになっていく。近づいたモンスターは副武装のM2ブローニングでハチの巣にされていく。そんな光景が数回も続き、戦車隊は折り返し地点まで来た。折り返し地点はユグドラシルの下と決めてあった。その下に到着して全車に指示を飛ばす。
「全車に。しばらくこの場で監視を行う。出発は5分後。」
その言葉に了解の言葉が返ってくる。そのまま待機すること3分。その時、3号車から報告が入った。
「指揮官!空から何かが落ちてきます!」
その言葉で俺はハッチを開けて外を見た。
視点:???
火龍がハッチを開けて外を見ると確かに何かが落ちてきていた。光を反射しながらその何かは帰り道のあたりに落ちていく。
「全車両行動開始!落下したものを確認する!」
火龍はそのままエンジンをかけさせて落下地点にまで向かう。落下地点に向かうと、そこには金髪の女性が倒れていた。見た目だけで言うと騎士のような鎧を身に着けている。
「空から女性が落ちてきただと?どこかの映画の王女様じゃあるまいし。」
普通に考えれば空から人が落ちてくることなどありえない。しかしこの世界では空にも世界がある。ゆえに空から落ちてくることはあり得る。・・・生きているかどうかは別にして。
「息は・・・あるな。脈もある。よし!司令部にまで運んで手当をする!」
そう言って火龍は戦車に乗せた。もともと狭い車内だが、車長席を使って乗せることに成功した。車長は外側に座って車内に携帯されているの武器で目を光らせていた。帰りの道中は何もなく、無事に都市内にまで入ることができた。そして戦車のエンジン音を最大にまで鳴らしながら司令部へとたどり着き、その女性を医務室にまで運んだ。
「ドクター。容体はどうだ?」
「脈拍、呼吸、すべて正常です。」
その言葉を聞いて火龍はほっとした。ちなみに軍医は女性しかいない。なぜか薬学系の知識を持っている人が女性しか集まらなかったからだ。
「そうか。気が付いたら報告を頼む。」
「了解しました。」