正体と計画
俺は死んだのだろうか?それともこれは夢なのか?高度10000mの高空からパラシュートなしのスカイダイブと同じことをして着水したところまでなら覚えている。だとすれば、今の俺は魚のえさにでもなっているのだろうか?だが今の俺は自由落下をしているような、それでいてどこまでの上昇しているような、あるいは回転しながらその場を滞空しているような、そんな不思議な感覚が続いている。これが輪廻の輪に入るってことか?・・・?なんだあれは?人か?いや違う。何か自分の常識を超越した何か。・・・なんだこの記憶は?幼少期の記憶・・・?そうだ。俺はお前に会ったことがある。小さい時に・・・そうだ。俺はお前を知っている!お前の名は・・・!
「・・・ヨグ=ソトース。時空の制限を受けない外なる神。」
「そうだ。私の名はヨグ=ソトース。お前をここに呼び出したのも私だ。」
「どういうことなんだ?なぜ俺を呼び出したんだ。ここはどこなんだ。お前と俺の関係は。俺はどうなったんだ!」
「あわてるな。1つずつだ。まず呼び出した理由についてだ。お前にはこの世界の外側に位置する世界に行ってもらいたいのだ。」
「外側に位置する世界?異世界と呼ばれるやつか?」
「そうだ。お前たちの世界ではそう呼ばれている選択肢の分かれて進んだ世界だ。次に2つめの質問の答えだ。ここは世界と世界の狭間。」
「世界と世界の狭間?」
「大樹が枝分かれをし、その間に空気が入るのと同じ理屈。その空気に当たるところだ。ゆえに何もない。3つ目の質問の答えだ。私とお前は直系の関係に当たる。」
「・・・聞いたことがあるぞ。ヨグ=ソトースと人間が子をなしたことがあったらしいな。確かH.Pラブクラフトの書いた小説に出るウェイトリー家の話だ。」
「それも知っているのか。ならば話が早い。ウェイトリー家の兄弟のうち2人は死んでしまった。だが、ウェイトリー家にはもう1人いた。それの子孫がお前に当たる。そして4つ目の質問の答えだ。お前の肉体は滅んだ。だが、魂は今この場でも生きている。」
「そうかよ。ならなぜ俺は異世界へと行かなければならない!」
「お前が行くであろう世界には私の子はいない。そしてお前のいた世界にはお前以外のもう1人の私の子孫がいる。名前はフェデリカだ。」
「・・・それで?俺が行く世界はどんな世界なんだ?」
「土着の神々がいる世界だ。だが、力で見ればお前の敵ではない。その世界で新たな秩序として君臨してもらいたい。」
「・・・断ったら?」
「このまま元の世界に戻ってもらう。どちらにせよ元の世界では生きられないだろう。」
「あ~そうかよ。わかったよ。行ってやろうじゃないか。」
「それがいい。」
「ところで聞くけどよ・・・俺には何か能力があるのか?」
「どんなものでも出せる。それだけだ。」
「召喚術みたいなものか?十分すぎるじゃないかよ。」
「当然だ。人間の創造力、私の次元を超えた力、ハスターの無形を操る力。それがお前にはある。」
「なんだ?俺はクォーターなのか?」
「そうだ。そうでなければ送り出したりはしない。さあ時間だ。またいずれ会うことにしよう。思う存分暴れてくるがいい。我が子孫よ。」
そうヨグ=ソトース告げたと同時に世界が反転した。起き上がってみるとそこは森の中だった。そして俺はあることに気が付いて驚いた。
視点:???
「空がない?」
そう。火龍が起き上がってから何度見ても空がない。正確に言えば空はある。だが、空のどこを見てもあるのは土色の土だけだ。右を見れば木、木、木、木だらけ。空を見れば土、土、土、土だらけ。そしてそんな火龍の後ろには大きな樹。それが頭上の大地とつながっている。
「嘘みたいにでかい樹だな。これは何の樹だ?楠でもこんなバカでかいのは見たことないぞ?」
そう思っていると遠くの方から獣の鳴き声が聞こえてきた。
「なんだ?獣がこのあたりにいるのか?とにかく武装をするか。」
そう言って火龍はある程度の武装を創り出した。時代的にも国家的にもバラバラな装備になっていた。ヘルメットは自衛隊の戦闘用ヘルメットである88式鉄帽、迷彩服は戦闘装着セット、念のために個人用防護装備を身に着けておく。その一方で銃器は旧ソ連のバトルライフルの1つであるAK-47とドイツ・スイス製拳銃のSIG SAUER P226E2を使用。ナイフは昔からその名称のダガーを使うことにした。統一性の全くないような装備だが、すぐに彼の頭に思い浮かんだ装備がこれだけだった。そんな武装をし終えた時、目の前からところどころ服が破れた人間が飛んできた。火龍は見た目から貴族だろうと思った。その直後、コウモリほどの生物が出てきた。
「なんだこの古いRPGに出てくるようなモンスターは。」
そう言うとそのモンスターは火龍に向かって突っ込んできた。反射的に火龍は横に跳び、AK-47で射撃を行った。射撃の結果はすぐに出た。そのモンスターは重力に逆らえなくなったかのように地面へと落ちた。
「どうやら安全ではなさそうだな。・・・おい、大丈夫か?起き上がれるか?」
そう言ってさっき飛んできた人間の肩を軽く叩く。1,2回は反応がなかったが、3回目でようやく意識を取り戻したらしく、起き上がった。
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。・・・私を追っていた魔物は・・・?」
「あのコウモリみたいなモンスターか?あいつなら叩き落としたぞ?」
「本当ですか!ありがとうございます。」
「そんで、ここはどこなんだ?それと、なぜあんたはここに飛んできたんだ?」
「その前に自己紹介を。私はテルノ・ミッドガートという者です。」
「俺は久禮火龍だ。」
「カリュウ?聞きなれない名前ですね。」
「そうか?まあ珍しい名前かもな。そんで、なんであんたはこの場所に飛んできたんだ?」
「実はこの森で最近、市民を襲う魔物が発生するようになりまして。」
「それで、あんたが兵隊を引き連れて討伐しに来た・・・違うか?」
「その通りです。・・・なぜわかったのですか?」
「ん?まあ、お約束だろう?」
「・・・まあそんなわけで私は兵士を引き連れて来たはいいのですが、その途中で魔物の大軍と遭遇しまして。我々も勇敢に戦ったのですが、残ったのは私だけになり。」
「なるほどな。」
「あなたこそなぜこんな森に?それにその姿は何なのですか?」
「ん?俺か?気が付いたらここにいた。そんでこの姿は戦闘用の装備だ。」
「気が付いたらここに?それはいったい?」
「さあな。こっちが聞きたいところだ。それより、こんなモンスターの多い場所に長居は無用じゃないか?」
「それならばこちらにどうぞ。城まで案内します。」
「そうか。ありがとうな。」
そう言って俺はそのテルノについていった。そんなテルノの正体に驚くのは城についてからになる。