フェロモンは危険な香り
少年は眠っていた。いつに無く深い眠りだった。眠りの淵から、誰かが囁いている……。
(思い出せ……、お前の使命を。お前のやるべきことを。思い出せ、思い出すのだ……)
子供のころから続いている。いつもと同じ夢だ。少年は考える。
(何だ? ……俺のやるべきこと、とは。何を、しなければ、ならない……)
いつも答えは出ない。でも、既に知っているような気もする。では、何故思い出せないのか? 判らない。何をすればいい、というのだ……。
「阿久津は今日も居眠りか! わしの授業で堂々と居眠りする奴には、これをくれてやるわ」
こう言うが早いか、教師は手に持ったチョークを少年に投げつけた。
チョークが今正に少年の額を直撃しようとした直前、それは見えない壁に阻まれた。のみならず、チョークを弾き返した。少年の詰襟の学ランは、彼自身によって改造されていた。あらゆるモノから彼を護る防護スーツは、自動防衛行動によって、教師の投げたチョークを『敵』と判断したのだ。弾き返された白い円柱は、その軌道を逆にさかのぼった。そして、見事に教壇の教師の額へと命中した。
「うっ、ぐぁ!」
「あはははは」
生徒達の嘲笑が木霊する中、恥をかかされた教師は、少年の席に歩みを進めようとした。だが、ちょうどその時、<キーンコーンカーンコーン>と、終業を知らせるチャイムが響いた。
「うぐぅ、おのれ。……きょ、今日はここまで!」
苛々した調子の教師は、そう言って教室を出るなり、<ガシャン>と力任せに扉を閉めた。
「博くん、博くんたらぁ。もー、お昼だよぉ」
少女──榊生美は、机の脇から少年を揺すっていた。
「博くん、いつまで寝てるのぉ」
少女の声が、少年を現界に呼び戻した。半覚醒状態で、少女を見上げる。
「おはよ、博くん。お昼、一緒に食べよ」
少年は未だ、ホヤ~としながらも、
「おお、もう昼か? フワァ~」
と、天に両手を掲げた。大きく伸びをした少年は、少女に向き直った。未だ、目元がぼんやりとしている様子だ。
「昼飯かぁ。……さて、今日は何を喰おうか」
本日の昼食のメニューを想起した彼に、少女は、おずおずと声をかけた。
「あのね、博くん。わたし、おべんと作ってきてるんだ。一緒に食べようよ」
「弁当? 俺の分もか?」
少年が、きょとんとして尋ねると、
「うん」
と、彼女は、にこやかにそう答えた。そして、背後に隠していた物を取り出した。それは、大小の包であった。
「そうか、済まんな。じゃあっと……、屋上にでも行くか。今日は快晴だし」
「うんっ」
大きく頷いた少女は、のっそりと立ち上がった少年の後を、弁当の包と共にトコトコと着いて行った。
穏やかな陽光の下、校舎の屋上には、昼食を摂りに来ている学生達が数組、散らばって座っていた。二人は、あまり人の多くないところを選ぶと、並んで腰を降ろした。
「今日は、ちらし寿司なんだよぉ。美味しく出来てるといいな」
少女はそう言いながら、大きい方の包みを少年に差し出した。
「おう」
少年は、ぶっきらぼうに答えて受け取ると、包を膝にのせ、結び目を解いていた。
「はい、お茶」
「ん? 今日は、自分で淹れてきたんだな」
「だ、だって……。こないだみたいになると、やだから」
「あ、……そうだな」
こないだのこととは、先日の『間接キス事件』のことであろうか。少女は、未だこだわっているようだ。
この話題が出た為か、二人はあまり雑談することもなく、淡々と昼食をすることとなった。
「あ、あーっと。あのね、それ初めて作ったんだけど……。味、変じゃないかな」
少女は、少年から目を反らすと、おずおずと訊いてみた。
「ん? そうなのか。結構、美味いぞ」
彼は、膝の弁当箱から目を離さずに答えた。
「そか、よかったぁ。博くん何にも言ってくれないから、あんまり美味しくないのかなって、思っちゃった」
「そ、そうか。悪い」
「あ、謝んなくていいんだよ。ちょっと……、ちょっとだけ気になってただけだから」
「それにしても、こっているな。玉子なんか、こんなに薄焼きでもしっかりと味ついてるし。蓮根なんか、歯ごたえを残して煮しめるのは、結構難しいぞ」
決しておだてるわけでもなく、彼は正直に感想を述べた。
「この前、五目稲荷を作ったときに覚えたんだ」
「お前、何でも出来るのな。料理とか裁縫とか」
「そ、そんなこと無いよ。博くんは頭良いし、色んな資格や特許だって、いっぱい持ってるし。……わたしなんか、とろいし、よくこけるし。こんなんじゃ、全然釣り合わないよ。友達にも、『よく話が出来るね』なんて言われるくらいだもの」
少女の俯く様子は、少し悲しげに見えた。
「俺は、そんなの気にしないぞ。生美といると、落ち着いてゆっくり出来るからな」
「そかな?」
「そうだよ。夕べだってさぁ、科学雑誌に投稿する論文を精査してて夜中過ぎまでかかったし……。頭だけ良くっても、何にも良いことなんて無いさ」
これは、少年の本音だった。小さいころから神童と呼ばれ、物心ついたときには、欧米へと留学した。そこで様々な勉学に励み、色々な学位や賞を取得した。持っている特許も数多く、賞金や特許料で、働かずとも贅沢な暮らしが出来る程だ。
彼の両親などは、とっくの昔に仕事を辞めて、今はマレーシアで悠々自適の生活をしている。
ただ、これだけの実力を持っていると、彼を狙ってくる組織や団体も多い。英語のキャサリン先生は、実はCIAのエージェントである。教頭には陸自の息がかかっているし、校長の親族には公安の幹部がいるとも聞く。彼の住むマンションなどは、管理人も含めて、住人のほとんどがどこかしらの組織や団体のエージェントである始末だ。
そんな中で暮らしていると、毎日が息が詰まる。それから開放してくれるのが、少女と過ごしているこんな時間なのだ。
少年は、両親から離れて一人暮らしをしている。だが、相手をしてくれる者ならば誰でもいい、という訳ではない。やはり、この少女でなければならないのだ。そんな感情を、『恋』という言葉で表現するには、少年は未だ幼かったし、未熟でもあった。何せ、『本当』の幼少期を過ごして来れなかったのだから。
「ああぁ、喰った喰った。ごちそうさまです」
「おそまつさまです」
食べ終えた二人は、両手を合わせていた。
「昼飯喰ったら、また眠くなってきたな。……おい生美、膝、貸してくれないか」
「えっ、何?」
という彼女の言葉をみなまで言わせず、少年は少女の膝に頭を乗せると、すぐに寝息を立て始めた。
「も、もう、博くんたら。恥ずかしいよ。……周りでいっぱい見てるし。……ねぇ、博くんったらぁ」
少女は顔を赤らめて少年から逃れようとしたが、どうしても出来なかった。
(恥ずかしいなぁ)
そう思いながらも、何故か心地よさを感じている。それがどうしてなのかは分からなかったが、少女も少年といるときが、一番ほっとするのである。
(まぁいいか。今日も、いいお天気)
少女は、予鈴の鐘が鳴るまで、このままこうしていようと決めた。
「生美ちゃん、いい感じじゃない」
「いいな、榊さん」
しばらくして、彼女も眠気に誘われかけていたところを現実に戻したのは、親しくしている友人達であった。
「あっ、由香里ちゃん、志野さん」
顔を上げて名前を呼ぶと、
「彼氏に膝枕なんて、この贅沢モノが」
と、少々冷やかしたような言葉が降ってきた。
「か、彼氏とか、そういうんじゃないんだけど……」
少女がしどろもどろになって、言い訳をする。しかし、二人の様子を周りから見れば、誰しも彼氏彼女と思うだろう。
「しっかし、どうやったら、この美形天才少年様と仲良く出来るのかねぇ? 教えて欲しいよ」
「えっ? そんな大した事無いよ。前に、勉強教えてもらった時からだし……」
「なるほどね。確かに、それは妙案ですな。こいつに取っちゃ、高校の授業なんか、幼稚園児のお遊び程度だもんね。『ここ分かんないんですけどぉ♡』なんて言うのは、近づく口実にはもってこいだよね」
ニヤニヤと含み笑いを浮かべる友人に対し、
「そんなんじゃないよぉ」
と、少女は反論した。
「だって、榊さんだって結構頭いいでしょ。いつも学年10位以内だし」
「そうなんだよねぇ。この『天然ボケ』が学年のトップクラスってのが、また、七不思議なんだなぁ」
由香里と呼ばれた方は腰を伸ばすと、半分呆れたようにそう曰わった
「じゃぁ、由香里ちゃんも勉強教えてもらったら?」
こう言われた友人──大木由香里は、急に形相を変えると、以ての外という態度で首を横に振った。
「無理! 無理だって。こいつ、おっかなそうなんだもん。それに、難しいこと説明されても、分かんないよぉ」
「そこは大丈夫だよ、大木さん。彼、教員免許も持ってるそうだし。きっと、丁寧に教えてくれるよ」
友人のもう片方──志野と呼ばれた女子が、由香里に解説してくれた。だが、彼女は、更にムズカシイ顔になった。
「えっ、マジかよ。じゃあ、何でこんな田舎の高校なんかに通ってるんだ」
大昔に気が付いていなければならないような疑問を、由香里は口にした。
「息抜きだって」
応えたのは少女だった。
「前にNASAで観測してたときに、折角の新発見を、『軍事機密になるから』って、発表させてもらえなかったんだって。何かそれで、嫌になったんだって。結局、NASAを辞めて日本に帰って来ちゃったんだって」
少女の答えに、二人の友人は絶句してしまっていた。
「NASAって、……うちら平民とはレベルが違いすぎるわぁ」
「その前は、アメリカ空軍の要請で、無人戦闘機のコンピュータを作ってたんだって」
「戦闘機……。そんな物騒なの作ってないで、『惚れ薬』なんて作ってくれたらいいのに」
「由香里ちゃん、そんなの無理だってば」
「惚れ薬かぁ。それなら作れるぞ」
いつの間に目を覚ましていたのか、少年が少女の膝の上から答えた。
「えっ、マジ?」
真剣に聞き返した由香里に、膝枕のままの少年は、こう話した。
「出来るぞ。十歳くらいの時に、各種動物や昆虫を選択的に誘引するフェロモンの研究開発をしてたからな」
つまらなそうに話す少年を、少女は嗜めた。
「もうっ、博くんたらぁ」
だが、由香里の方は、興味津々だった。
「いいじゃん、生美ちゃん。なぁ、阿久津、作って作って! あたし、それ欲しい。逆ハーよ、逆ハーレム」
小躍りでもしそうな由香里だったが、
「そんかわり、不細工もよってくるけれど。それでもいいってんなら、作ってやるよ」
との少年の言葉で、態度を変えた。
「そうなのかぁ。う~ん。それはぁ、ちょっとぉ……。待って、少し考えさせてもらっていい?」
そんな少女達の雑談の中、少年の至福の時間は中断されることとなる。それは、予鈴の鐘などではなく、次の言葉だった。
「おい、阿久津。また女に囲まれてちゃらちゃらしやがって」
そんな因縁をつけてきたのは、三年の近藤であった。彼は、この辺の不良どもを仕切っている番長でもあった。
「お前、こないだ、俺のダチ公に痛い目見せたんだってな」
遂に、少年は起き上がった。大きく伸びをすると、
「何だ? もしかして、脱臼したのを治してやった奴のことかぁ?」
と答えた。番長に対して、全く動じていない。
「そ、う、だ、よ。稀代の大天才様は、そんな『些細なコト』まで覚えてくれてて助かるぜ」
近藤の挑発にも、彼は冷静だった。
「あいつ、ちゃんと治ってたろう。まったくもう、折れてもいないくせに、大げさに言いがかりをつけてくるからだよ」
「おう、その辺はちゃんと言い聞かせといた。でもなぁ、そんかわりに、アレがトラウマになってなぁ。すっかり意気地なしになっちまった。……この落とし前、つけさせてもらうぜ」
仁義は通したものの、近藤もただでは置かないと決めていたようだ。
「で、どうするって言うんだ?」
そう言って、少年は立ち上がった。
「博くん、やめなよ。怪我なんかしたら、タイヘンだよ」
「そうだよぉ、阿久津。あいつ、三年の近藤だよ。この辺りの頭だ」
少女達は、何とかこの小競り合いを納めようとしていた。だが、少年はどこ吹く風だった。ぶっきらぼうにこう言うと、制服のズボンに両手を突っ込んだ。
「やりたいなら、やれば? 後悔することになると思うけど」
無防備な状態で、そんなことを言ったとあって、近藤の怒りは更に燃え上がった。
「減らず口をききやがって。やろう、叩きのめしてやる」
大柄の不良は、拳を振り上げると、力任せに殴りかかってきた。
「キャー」
「やめてー」
少女達は悲鳴を上げるだけで、どうすることも出来なかった。少年も動かない。
少年がなすがままに殴られようとしたとき、不可視の何かが岩のような拳を遮った。のみならず、陽の光の下に投射されていた少年の影が、不自然な形態をとった。それは、近藤の足元まで伸びると、爪先から踵へ、足首へ、更にそこから両足を伝うと、黒いモノが影のように這い登っていったのだ。
「うわっ。何だこりゃ。てめぇ、何しやがった!」
「特に何も。あんたが俺に敵対行動を取ったから、防御システムが自動的に反応したまでさ」
少年は、悪魔のような笑みを浮かべると、そう言った。
「何だよ、これは。きしょく悪いぞ。てめぇ、何とかしろよ」
狼狽える番長に、少年は無慈悲に説明を始めた。
「そいつはなぁ、極小のマイクロマシンの集合体だ。お前の身体に取り付いて、ある種のフェロモンを発生するように創ってある」
「な、なんだよ。そのフェラ何とかって」
少年の説明は、彼には難しすぎたようだった。
「教えて欲しいか? 聞かない方がいいと思うぞ。ま、聞いても聞かなくても、無駄だがな」
少年がそう言っているうちに、何かが這うような<カサカサ>という音や、<ブーン>という羽音が、周囲で鳴り始めた。
「うわっ、何だこりゃ!」
それは、数匹のハエやゴキブリであった。それらは、あっという間に数を増し、近藤の身体を覆いつくそうとしていた。
「フフフ、ヒヒヒ、フハハハハ。笑えるなぁ、番長さんよぉ。たかが虫けらが怖いなんて。その黒いのは、ハエとゴキブリを強力に誘引するフェロモンを、お前の表皮の老廃物から生成する。そして、高濃度で大気中に発散させるんだ。あんたには、お似合いの、オ、ト、モ、ダ、チ、だぜぇ。ヒャッハハハハ」
少年は被造物の性能を確信すると、腹を抱えて笑い始めた。
「うわっ、気持ち悪りぃ。おい、助けてくれよ。何とかしてくれ!」
さすがの近藤も、脅しても殴っても効果が無いモノには、対処が出来ないようだった。害虫達を捕まえて投げ捨てても、一向に数は減らない。かといって、身体に取り付いたものを叩けば、それらは潰れて不快な汚汁と化す。
「があ、服の中にも入ってきた。お、俺が悪かった。悪かったよ。あ、謝るから、何とかしてくれ、……くれよぉ」
既に威厳を失った番長に、少年は無慈悲な提案をしただけだった。
「お前って、番長なんだろ。だったら、その得意の拳でぶん殴ってやりゃぁいいじゃぁないか」
「そんな事言わずに。誰か助けてくれ……下さい」
不快な音を立てる黒塊は、助けを求めて屋上を彷徨い始めた。近寄られた学生も、その気持ち悪さに遠くへと後退る。
「博くん、もういいでしょう。スイッチ、切ってあげなよ」
「残念だがな、アレは、予め組み込まれた動作を繰り返すしか出来ないオートマトンなんだ。コントローラーはないね(←嘘)」
ハエとゴキブリの塊は、屋上をあちらへこちらへと、助けを求めていた。その挙げ句、明り取りの出っ張りに足を引っ掛けると、転倒してしまった。そして、とうとう動かなくなってしまった。
「あ、大変。保健室に連れてかないと」
「だ、誰が? あたし、あんな気持ち悪いの、ダメ。触るどころか、近寄ることも出来ないよ」
「わ、わたしも……」
「ハエとかゴキブリなんて、僕だって嫌だ」
学生達は、そのあまりの気持ち悪さ故に、遠巻きにして見守るだけだった。騒ぎを聞きつけてやってきた教諭達も、あまりの事に唖然としていた。
「博くん、あれじゃ、酷すぎるよ」
「俺の至福の時間を邪魔した罰だ」
「博くん! ヤ、リ、ス、ギ。助けてあげないんだったら、もう膝枕なんかしてあげない!」
「ええ~、そりゃ無いだろう。だってさぁ、向こうから因縁つけてきたんだぞ」
「ヒ、ロ、シ、くん!」
少女の剣幕に、ようやく少年は折れた。溜息を吐いて、右手をポケットから抜くと、頭を掻きむしる。
「あー、しょうがないなぁ、もう。おい、誰か、バケツに水汲んで来いよ」
「お、おう。分かった」
しばらくして水が届くと、少年は、制服のポケットから小さなカプセルを取り出した。バケツに近づくと、その中味を水面に振り落とし、無造作に手でかき混ぜる。溶液が均一になったのを確認すると、彼は立ち上がった。
「こいつをぶっ掛けてやんな。二時間くらいすれば、虫も興味を失うだろう」
腹いせなのか、彼は、まるで他人事のように言い捨てた。
「博くんが掛けてあげなさい」
しかし、少女は許さなかった。
「何で、俺がそこまでしてやらなぁならんのだ、生美」
「博くんの所為でしょ」
「うぐぐ。もう、しょうがないなぁ。分かった、分かったよ。俺がやるよ。やれば良いんだろう」
愚痴をこぼしながらも、少年はバケツを手に取ると、虫まみれの近藤に近づいた。そのまま、無造作にバケツの水をぶっかける。
「これでいいだろ、生美」
「もう、すぐにやりすぎるんだからぁ」
少女に睨まれた少年は、
「分かったよ、悪かったよ」
と、謝ることとなった。
(何で俺が謝らないとならないんだ?)
腑に落ちない少年であったが、それも一時のことだった。屋上に予鈴が鳴り響いたからだ。
「さぁ、授業だぞ。皆、教室に戻りなさい」
ハッと目覚めたように、教師達は学生達を屋上から階段へと追い立て始めた。
一方、近藤の方はといえば、やっと駆けつけてきた保険医と数人の教諭達に、遠巻きに囲まれていた。
「大丈夫だよ、生美。さっき水ぶっ掛けるとき、奴の身体をスキャンしておいた。ちょっと気を失っているだけだ」
「ホントに? あの人、だいじょぶ?」
何度も確かめる少女に、少年は頭を下げていた。
二人とも、友人と共に他の学生に続いて教室に戻ろうとしていた。
こうして、この日も平和に暮れ、人類はその滅亡までのタイムリミットを更に一日延ばすことが出来たのだ。