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インターンシップ会長補佐(Side 生徒会

各章ごとに視点が変わっています。地の文内での登場人物の呼び名が章によって全く違いますが、視点の持ち主にとっての相手の呼び名が反映されているとお考えください。

「後一人だぜ」


 補佐のお試し期間が始まって二週間。二人の候補はすでに、補佐を辞退したらしい。残るはあと一人。

 腕を組み、仁王立ちで笑う御影を椿は冷ややかな目で見つめた。


「なにやってんですか、馬鹿らしい」

「手酷いな」

「あなたに言われたくありません」


 今日から最後の一人がやってくる。一年と聞くから今までの二人より容易に扱えることだろう。

 御影はじわりと込み上げる笑みを堪えることが出来なかった。

 最後の一人を追い出せば、秋吉は自分の補佐を勤めてくれるだろうか。

 来週から傍に立つはずの者を思い浮かべ、御影は目を閉じた。


――コンコンッ


「入れ」


 補佐候補の書類を持ってきた秋吉を迎え入れた二週間前のデジャブのようだ。

 最後の一週間の扉が静かに、開かれた。


「一年五組、結城美晴です。よろしくお願いします」


 武道を(たしな)んでいたのか、凛と背筋を伸ばして頭を下げる様もきびきびとしていて嫌みがない。第一印象は合格。だが、どうにかして欠点を探したい御影にとっては厄介な相手だった。


「お前の席はそこだ。……座っていろ」


 最初が肝心。素っ気ない口調で、本人の顔も見ずに席を指差した。

 結城は文句も言わず席につく。ここまでは前の二人も同じだった。問題はこれから。


 御影はまず、徹底して補佐に仕事を回さなかった。

 生徒会というコミュニティの中、異物な自身とどう折り合いを付けるのか。


 一人目はすぐに御影に色目を使って仕事をねだり、二人目は泣きそうに潤んだ瞳でじっと机を見ていた。

 さて、三人目は……。


「って、お前、何してる」

「え? 宿題ですけど。……だって、仕事ないんでしょ?」


 テキストとノートを広げ、三人目は堂々と課題を片付けている。

 他の二人と違い、補佐という立場に執着していないように見えた。それが新鮮と言えば新鮮か。


「お前、補佐をなんだと思っている?」


 純粋な疑問だった。前の二人には聞いていない。

 三人目はきょとんとした顔で、御影を見つめた。


「お忙しい会長様の仕事をお手伝いする立場ですよね。忙しくないなら手伝う必要なし、とそういう判断です」


 正論。

 御影は感心し、補佐用に取っておいた書類を渡した。


「仕事だ。分からないことがあったら聞いてくれ」

「なんだ。仕事あるんですか」


 いそいそとテキストとノートを片付け、三人目は書類を受け取った。

 それから、暫くは紙面をこするペンの音しか聞こえない、静かな時が流れた。


 さて、次の嫌がらせだ。

 御影は三人目が提出した書類について、思いつく限りのダメ出しをした。重箱の隅をつつくような、自身で直しても負担にならないほどの小さなミスでもなんでもだ。

 一人目はそれで怒りをあらわにし、二人目ははらはらと涙を溢しながら、謝罪を口にした。

 三人目は不思議なほどに、御影をじっと見つめたまま、動かなかった。指摘を終えた御影が書類を突っ返せば、すみません、と一言席へと戻っていった。

 三度の修正でやっとokをだした御影は一日目をそこまでにして三人目を帰らせた。

 去り際も三人目は何かを思案するように、不思議そうな顔で頭を下げ、生徒会室を出ていった。


「……変なヤツ」

「あなたに言われたくないですね」

「お前が文句を言うな、椿」


 一段落、という体なのか、役員たちはわらわらと御影の座る会長席に群がった。


「まぁ、確かに、今までとは毛色が違う感じですね。変な子と言えば、変な子でしょうか」

「あの子、凄くキレるらしいよー」

「……暴力を振るうようには見えませんが」

「分かってる癖にー……。頭の良く回る子ならいい?」

「ストリートダンスでもやっていたんですか?」

「……………えいぃー。椿ちゃんがいじめるー」

「副会長、あんまりからかわないでくださいよ」

「分かってますよ。ちなみにそれは『あっきー』情報ですか?」

「もちろん。自慢気に言ってたよ。自分の話じゃないのにね。すごく嬉しそうだった」


 思い出すように遠くを見る鉄心に浮かぶ表情は楽しげではない。


「どうもさ、あっきーは自分を下に見すぎてると思うんだよ」

「悲劇のヒロインを気取ってるんじゃないですか?」

「厳しいー。それなら、まだ楽だと思うんだよねー? あっきーのあれは、……うーん」

「藤堂は奨学生だろう? その所為じゃないのか?」

「しょうがくせい……。漢字がないと伝わりにくい肩書きだね」

「椿ちゃーん! 話の腰いちいち折らないで」

「そうか。あいつ、特待だったんだな。どうも腰が低いのはその所為か」

「カイチョー、今の椿ちゃん総スルーなのね。……まぁ、いいや。多分ね。周りはみんな御曹司だし? 肩身狭いのかも」

「そんなもんかね」

「でも、それにしたってあっきーのカイチョー信仰は異常」


 鉄心はそう言って肩をすくめると自席に戻った。それを見た英も同じく席に戻る。

 残ったのは椿一人。御影が見上げて見れば、嬉しそうに口端を持ち上げている。


「何笑ってんだよ」

「どっちが勝つかなと思って」

「俺に決まってる」

「俺様乙」

「黙れ」

「まぁ、頑張ってくださいよ」


 にやにやと笑みを浮かべて漸く椿も自席に戻った。

 全く、せっかくの美形が台無しだ。


 ともあれ、あと四日。結論はすぐに出るだろうと高をくくっていた。


***


 その当てが外れ、三日目。ちょうど半分。三人目も慣れてきたのか、次第に効率よく、細やかで目の行き届いた書類を作成するようになった。


「…………いいだろう」

「どぉも」


 それならば、と大量の仕事をふっかけてみた所で三人目は特に苦にする様子もなく淡々と仕事をこなしていく。

 他にどんな嫌がらせをしてやろうかと思案していれば、終わった仕事を差し出された。

 やけに早いと思って隅から隅まで粗を探すが、目に付くような所はない。

 まるで完璧。……つまりは、面白くなかった。


「前の二人もこうやって追い出したんですか?」

「………っ!?」


 不思議そうな響きで投げかけられた言葉に、御影は過敏に反応してしまった。

 がたんっ、と音を立てて立ち上がる。これでは認めたも同然である。しかし、そんなことは関係ない。

 一筋縄ではいかない、とそう言った椿の声が脳裏をよぎった。


「認めたってことでいいですか? あなたもバカですね」

「俺に向かってバカとはなんだ」

「……また、言われてる」

「椿、黙れ」

「はいはい」

「それで?」

「これで俺まで追い出したら、あの人、隊長やめますよ?」

「なんだと!」


 息巻いた御影も三人目は軽くいなすに留める。


「俺を採用しろと言ってる訳じゃないですけどね。

 自分には見る目が無かったんだと、御影様のお役に立てる隊員を見つけることが出来なかったと、自分を責めて、やめます。もう二度と先輩の前に姿を見せないかもしれない。……それでもいいんですか?」

「……どうしてそう言い切れる」

「そういう人だからです」

「俺もー、結城くんに一票ー」

「平塚……?」

「確かにあるかもしれないよ。『もう、御影様に顔向けできません』とか言いそう」

「候補がみんなダメだったのなら、自分が……とは思わない人です」

「おい、三人目。お前、俺に対する態度とあいつに対する態度が違いすぎねぇか」

「端から名前も覚えようとしないような人に払う敬意は持ち合わせていません」


 ぐぅの音も出ないとはこの事か。


「確かに君は、良く気が付く子なんだね。結城くん」

「副会長……」

「会長、腹くくったらどうですか? この子だったら、仕事も早いし、どうやらあなたの親衛隊とはいえ、あなたに興味はないみたいだ」

「………」

「図星ですか?」

「……人が悪い」


 結城は眉間に皺を寄せたが、椿はそれを楽しそうに見ているばかりだ。


「会長」

「……試用期間は一週間だ。金曜日に決める」


 そう、ぶっきらぼうに言い放つと、御影は生徒会室を出て行った。

 仕事は、と思えばいつの間にやら片付けてある。抜け目ねぇな、と一人ごちて、椿は結城に顔を向けた。


「会長が帰ってしまったので、今日は帰っていいですよ。お疲れさまです」

「今のが素ですか」

「僕は腹黒副会長ですからね」

「……?」

「役目の話です」


 にこりとウィンクされ、はぐらかされた気もしたが、結城は渋々生徒会室を後にした。


***


 それからは、結城にも適切な量の仕事とそれ相応の指摘が与えられた。

 他の役員たちも結城に慣れ、すっかり生徒会の一員だった。

 そして、金曜日。

 水曜日のすったもんだが功を奏したのか、結城は晴れて会長補佐の身になった。


「秋吉……」


 一人悔しそうな会長はさて置き、結城はほっと胸をなで下ろした。



次回は土曜日を予定しています。

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