気になる木になる
「気になる木には水をあげすぎないようにしましょう」
先生はそう言っていた。気になる木に水をあげすぎると成長してしまって、よりたくさんの『気になる』が実になってしまうらしい。『気になる』が実になってしまえば、自分の内側が筒抜けになってしまうから、成長しすぎたらいけない。
かと言って、全くあげないのもよくないらしい。「自分の気持ちを大切にしましょう」とも先生は言っていた。
だから、私が水をやるのは朝に一回。それも雨の降っていない日だけにしている。
「いいですねぇ、佐藤さんの気になる木は。大きすぎず小さすぎず、ちょうどいいですね」
家庭訪問の日。チラリと庭に目をやった先生は、私の気になる木を見てそう呟いた。喜ぶように気になる木が風に揺れる。
「はぁ、そうですかね。ありがとうございます」
「そうですよ……おや、あの木の実は最近流行りのアニメですか。へぇ、あれが好きなんですか? なんとも残酷で恐ろしくって、私はあまり好きではありませんでしたがねえ」
「あっ……あぁ、そうなんですか。いや、私、まだ見ていなくて、そうですか、へぇ、そうなんですね」
嘘だった。本当は全て見ていた。しかも、リアルタイムで。いつもは早くに寝るというのに、その日だけは夜更かしして見ていた。
ただ、先生が嫌いだって言うから、私の評価が下がるんじゃないかと、妙な心配をして咄嗟に嘘を吐いてしまった。
上の方になっている気になる実が少し大きくなった。実に描かれているのは、先生の顔。
バレる。バレてしまう。私が先生の目を気にしてる、って。
急いで玄関の扉を開けて、先生に笑いかける。
「せっ、先生! そろそろ始めないと……家庭訪問、まだまだ続きますよね」
「あぁ、そうですね。そうしましょう」
先生は左手首につけた腕時計に目をやる。それからひとつ頷いて、おじゃましますと私の家に入ってきた。
扉を閉めるとき、庭で揺れている気になる木が目に入ってきた。暖かい風に揺れてさわさわと音を立てる。私の心のざわめきなど、ほんの少しも気にしていなかった。
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