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【短編小説】駅員室にて

掲載日:2025/12/17

 座るのはここでいいですか?

 ああ、はい。ありがとうございます。

 いえ、すぐにお暇させていただきますから結構ですよ。

 え?

 はぁ、いや、それは拒否しますよ。


 実はわたし、久しぶりに電車に乗ったんです。

 通勤を自転車やバイクに変えてからあまり電車に乗る事が無くなりまして、最近の電車にトイレがついている事を知って驚くくらいには、世間の流れについていけなくなっています。

 便利ですね。

 いちいち電車を降りずに済むとか、最終電車との天秤にかけるとかしなくて済むのは、ありがたい話です。


 あのトイレを使うのは大人の方が多いと思います。

 なぜって、成長して大人になると漏らす、または漏らしそうになる事が増えますよね。

 これは逆説的に聞こえるかも知れませんが、事実ですよ。

 わたしの経験上、この程度の便意なら次の駅まで間に合うとか考えがちですが、その目測を誤るのです。

 駅までは間に合う、だが駅のトイレまではどうか。

 懐かしいロボットダンスの様な動きでトイレに向かう自分を何度、客観視したでしょう。



 ちなみに膝の上を叩くと多少の便意を一時的に退けられるらしいですよ。

 サッカー選手なんかがやるそうです。

 わたしはやったことがないのですが、試してみて下さい。

 


 そう、トイレの話じゃありませんでしたね。

 便意の話でもない。

 でもそんな下らない事を考えていると、隣の車両から二人の少女たちがわたしのいる車両にやってきたんです。



 車両を移動すると言うのは割と子どもに多い。

 乗る駅で歩こうが、電車の中を歩こうが、着いた駅を歩こうが、基本的には移動距離は変わりません。

 しかし子供はどうにも降りてすぐに階段や改札と言うのが好きなようですね。

 馬鹿げていると思いますが、気持ちはわからなくもありません。

 わたしも電車通学の子どもで、同じことをしていましたから。



 その二人は私立の学校でしょうか。

 制服を着て同じランドセルを背負っていました。

 別に深い意味があって見た訳じゃないですが、二人ともランドセルの横にあるネームプレート入れ部分に、名刺サイズの小さなフレスコ画が挿してあるのが見えました。

 聖書のどのシーンかは分かりません。

 勉強しておくべきだったでしょうか。



 そういう種類の学校なのでしょう。

 そういえば妹もそういう中学校に通っていました。

 一時期は罪だとかの意識に酷く苛まされていたように思いますが、いまはどうなのでしょうね。しばらく会っていないので分かりません。

 目の前にいる少女たちも罪の意識を植え付けられて苦しむのでしょうか。



 二人の少女のうち、髪の毛が細く、やや縮れている方の少女は……そうですね、きっと茨キリあたりの中学に進んで、そのまま常磐線にたむろしている地元のヤンキーと劇的な恋に落ちたりするんでしょう。

 罪も罰も忘れて、やがて祈りのある生活から乖離していくのです。

 そうして子どもを育てたある日、実家に帰った時にちょっとした用事で乗った電車で神の事を思い出すのです。

 その時の空はきっと曇っているに違いない。

 どこかの屋根の上に十字架が見えたりもするでしょう。

 ただその景色が流れ去ってしまうと、また神のことは忘れてしまう。

 そんな気がします。



 もう一人の眼鏡をかけている方の少女は……そう、高校生くらいまでは裏で人気があるタイプのモテ方をして、大学生くらいから自覚的になって、それが爆発するタイプなんじゃないでしょうか。

 決して派手なタイプではありませんが、他人との距離感が近い雰囲気がします。

 男兄弟がいそうな気もします。

 そう、だから陰キャから陽キャまで幅広くモテるんです。


 

 でも彼女、きっとサセ子では無いです。

 だからきっと色んな男子のトラウマになるんだろうと思います。

 何故って、彼女は神学校の生徒ですから。

 彼女の目、まるで野菜をくし切りにした様な、それでいて妙な引力のあるあの目で相手を見る時、もしかしたら誰かの中に神を見たりするのかも知れません。


 それだけですよ、ぼくは触ったりしません。

 ですので、コチラのかつ丼も結構です、このまま帰らせていただきますので。

 え?

 いえ、何もしていませんよ。

 連絡先は……

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