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百瓦戦記  作者: 呉羽錠


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6/11

貧乏くじと、訳ありの荷物

特製スープで束の間の平和を味わった翌日。  俺たち第四班は、百人将ボルグの幕舎に呼び出されていた。


「――護衛、ですか?」


 俺が聞き返すと、ボルグは不機嫌そうに木の机を叩いた。


「ああそうだ。本陣からの直々の命令だ。『極秘裏に物資を輸送する商人を、指定のポイントまで護衛しろ』だとよ」


 俺たちは顔を見合わせた。  掃き溜め部隊である俺たちに、護衛任務?  普通、そういう任務は身元のしっかりした正規兵か、騎士団が受け持つものだ。素行不良の集まりである俺たちに回ってくる仕事じゃない。


「おいおい、俺たちは運び屋じゃねぇぞ」


 巨漢のゼグが不満げに鼻を鳴らす。  だが、ボルグは鋭い視線でそれを制した。


「勘違いするな。正規ルートは敵の目が光ってて通れねぇ。だから、**『正規軍に見えない薄汚い部隊』**を使って、裏道からコソコソ運ばせたいんだとよ」 「なるほど。おとりか、あるいは密輸か」


 斥候のロッツォが皮肉な笑みを浮かべる。  要するに、汚れ仕事だ。  だが、命令は絶対だ。俺たちはしぶしぶ幕舎を出て、合流地点である野営地の裏手へと向かった。


 ***


 そこには、古ぼけた幌馬車が一台停まっていた。  御者台には、深くフードを被った小柄な人物が一人座っている。


「……お前らか? 護衛というのは」


 フードの奥から聞こえたのは、鈴を転がすような、だが妙に威厳のある女性の声だった。  商人? 女がか?  この戦時中に、たった一人で?


「ああ、第八百人隊の第四班だ。アンタが依頼主の商人か?」


 俺が一歩前に出て尋ねると、彼女は短く「そうだ」と答え、荷台を顎でしゃくった。


「中には重要な『交易品』が積んである。傷一つつけないよう頼む」 「へいへい。中身は酒か? それとも貴族様の宝石か?」


 ゼグが馴れ馴れしく馬車に近づき、ほろをめくろうとする。  その瞬間。


 ヒュッ。


 女の腕が鞭のようにしなり、ゼグの手首をパシッ!と払い除けた。  速い。  ただの手払いじゃない。最小限の動きで、的確に急所を狙う動きだ。


「……触るな。下賎な手で」 「あぁ!? テメェ……!」


 ゼグが激昂して掴みかかろうとするが、俺は慌ててその間に割って入った。


「落ち着いてくださいゼグさん! ……すみません、依頼主様。部下が失礼しました」


 俺はゼグを押し留めながら、目の前の「自称・商人」を観察した。  フードからわずかに覗く、プラチナブロンドの髪。  商人の服を着ているが、その姿勢は糸で吊るされたように良く、隙がない。  何より――。


(……指だ)


 手綱を握るその指先。  ペンや硬貨を扱ってきた商人の指じゃない。  剣ダコだ。それも、相当な手練れの。


(ただの商人じゃない。……軍属か? いや、それにしてはこの高圧的な態度は……)


 俺の中に、嫌な予感が警鐘を鳴らす。  正規ルートを通れない荷物。  身分を隠した、腕の立つ女。  そして俺たちのような「捨て駒部隊」への指名。


 これは、「ただの輸送」じゃない。  俺たちはとんでもない爆弾トラブルを背負わされようとしているのかもしれない。


「……名前を、伺っても?」


 俺が慎重に尋ねると、彼女はフードを少しだけ上げ、琥珀色の瞳で俺を射抜いた。


「……エリスだ。それ以上は知らなくていい」 「了解です、エリスさん。俺はアルレン。この班の補給……いや、まとめ役です」


 俺は当たり障りのない笑みを浮かべた。  エリスと名乗った女は、俺の顔をじっと見て、フンと鼻を鳴らした。


「頼りなさそうな男ね。……いい? 私の指示には絶対に従いなさい。無駄口は叩かないこと。遅れれば置いていくわ」 「……はいはい、仰せの通りに」


 俺が肩をすくめると、彼女は馬車を出し始めた。


 泥だらけの山道を行く、奇妙な一行。  セリナが俺の耳元で囁く。


「ねぇ、あの子。……なんかムカつくわね。アタシよりいい匂いするし」 「シッ。聞こえますよ」 「で、どうなのアルレン。あの中身、何だと思う?」


 俺は遠ざかる馬車の背中を見つめ、小声で答えた。


「さあね。……ただ、一つだけ確かなことがある」 「何?」 「俺たちの貧乏くじは、まだ底が見えないってことですよ」


 俺は懐の時計を確認し、ため息をついた。  今日の分の能力は温存しておこう。  この旅は、間違いなく「何か」が起きる。


 馬車の車輪が軋む音と共に、俺たちの新しい任務が幕を開けた。

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