嗤(わら)われる能力と、掃き溜めの仲間たち
第八雑成百人隊への配属が決まったその夜。 俺は、これから寝食を共にする**「班」**のメンバーと共に、焚き火を囲んでいた。
この百人隊では、五人一組を「班」と呼び、行動を共にする。 だが、掃き溜め部隊だけあって、まともな奴はいない。どいつもこいつも正規軍を追い出されたり、素行不良で飛ばされたりした連中だ。
「おい新入り。ここに来たからにゃ、互いの『手札』を知っておく必要がある」
話しかけてきたのは、熊のような巨漢だった。 名前はゼグ。元は重装歩兵だったが、上官を殴ってここに飛ばされたらしい。筋肉の塊のような男だ。
「この世界じゃ、一日に一回しか能力(能)を使えねぇ。誰が、いつ、何ができるか。それを共有しねぇと死ぬからな」
ゼグは焚き火に薪を放り込みながら、ニヤリと笑った。
「まずは俺様からだ。俺の能力は【剛力】。一発だけだが、城門だろうが巨岩だろうが粉砕するパンチが打てる。単純だが最強だろ?」
豪快に笑うゼグ。確かに、前衛としては頼もしい。 次に口を開いたのは、削いだナイフで爪の手入れをしていた痩せぎすの男、ロッツォだ。
「……俺は【影縫】だ。一日一回、相手の影にナイフを突き立てれば、一分間だけ動きを止められる。地味だが、殺しには向いてるぜ」
元盗賊だというロッツォは、蛇のような目で俺を見た。 そして三人目は、この掃き溜めには珍しい女兵士だった。 短い赤髪に、そばかすのある顔。名前はセリナ。
「アタシは【風視】。一回だけ、風の流れを読んで1キロ先の標的でも必中させる。弓兵よ」
なるほど。 馬鹿力の前衛、拘束役の遊撃手、そして長距離狙撃手。 性格に難はあるが、戦力としてのバランスは悪くない。
「で、だ」
ゼグが巨大な顔を俺に近づけた。
「お前だ、アルレン。第四部隊で唯一生き残ったんだ、さぞかし強力な能力を持ってるんだろうなぁ?」
三人の視線が俺に集中する。 俺はため息を殺し、正直にステータスを告げることにした。隠していても、実戦になればバレる。
「……俺の能力は【極小創造】です」 「創造? すげぇな、武器でも出すのか?」 「任意の物質を出せますが、制限があります。質量は最大100グラムまで。そして生成物は一時間で完全に消滅します」
一瞬、場が静まり返った。 薪がパチリと爆ぜる音だけが響く。
そして次の瞬間、ゼグが腹を抱えて爆笑した。
「ぶっ……ギャハハハハハ!! ひゃ、100グラムだとぉ!? お前、それ何に使うんだ? 戦場でお菓子でも出すのか!?」 「ククッ……傑作だな。消える武器かよ。刺した瞬間に消えたら、敵も驚いて笑い死にするかもな」
ロッツォも肩を震わせて嗤う。 セリナに至っては、興味なさげに焚き火へ視線を戻し、冷たく言い放った。
「……ハズレね。期待して損したわ。足手まといにだけはならないで頂戴」
散々な言われようだ。 100グラムという質量は、彼らのような「力」の世界に生きる者にとって、あまりにも矮小で無価値に見えるらしい。
だが、俺は怒らなかった。 むしろ、好都合だとさえ思った。
(笑っていろ。無警戒な奴ほど扱いやすい)
彼らは知らないのだ。 100グラムの「金」があれば、敵兵一個小隊を買収できることを。 100グラムの「猛毒」があれば、水源地を汚染して城一つを落とせることを。 そして、1時間で消滅するという特性が、いかに完全犯罪に適しているかを。
俺は卑屈な愛想笑いを浮かべながら、頭の中で冷静に彼らの「使い道」を計算していた。
ゼグの剛力は、俺が作った爆弾を遠くへ投げる投石器として使える。 ロッツォの影縫いは、俺が毒を盛る際の時間稼ぎに最適だ。 セリナの必中弓は、俺が生成した「特殊弾頭」を敵将の眉間に届けるデリバリーシステムになる。
「……精一杯、皆さんのサポートに回りますよ」
俺の言葉に、ゼグは涙を拭いながら俺の背中を叩いた。
「おうおう、せいぜい水筒の予備でも作ってくれや! 頼りにしてるぜ、補給係!」
再び沸き起こる哄笑。 俺は泥だらけのパンをかじりながら、静かに目を細めた。
今はまだ、ただの補給係でいい。 だがいずれ、この部隊の誰もが俺の「100グラム」なしでは動けなくなる日が来る。 その時、誰が本当にこの班を支配しているのか――教えてやる。
その時、遠くで角笛が鳴り響いた。 敵襲の合図ではない。出撃命令だ。
「おい、行くぞ雑魚ども! 仕事の時間だ!」
百人将ボルグの怒鳴り声が響く。 俺たち第八雑成百人隊の初陣。 嗤われた俺の能力が、この荒くれ者たちの常識を覆す最初の夜が始まる。




