遺跡の奥に潜むもの
遺跡の奥へ続く階段は、底が見えないほど暗かった。
薄い霧が漂い、冷気が肌を刺す。
レオンが剣を構えながら呟く。
「ここ……本当に学園の演習場の近くなのかよ……?」
リリアも魔杖を握りしめ、不安げに答える。
「完全に封印されていたはずなのに……ユウの覚醒で反応したんだわ」
ユウは黙って先頭を歩いていた。
第二覚醒で変化した魔力は、今も微かに体の周囲で揺らめいている。
暖かいような、冷たいような、不思議な感覚。
それは“始原”の欠片が脈打つたびに、身体の奥底で響いた。
階段を降りきると――巨大な空間に出た。
壁一面に古代文字が刻まれ、中央には黒い球体が浮いている。
ゆっくりと脈動する光。
レオン「なんだ……アレ……?」
リリアはその球体を見た瞬間、顔色を失った。
「……魔核よ。
しかも……普通の魔核じゃない。
“瘴帝”より上位の……魔神級の核……!」
レオン「は!? そんなやつ学園レベルで扱っていい存在じゃねぇぞ!」
ユウは足を踏み出した。
すると、黒い魔核がユウの魔力に呼応し、低く唸り始める。
ゴ……ォ……ン……
レオン「反応してるぞ!? やばいだろこれ!」
リリア「ユウ!! 一旦下がっ――」
だが、遅かった。
魔核が裂け――黒い影が漏れ出した。
ビキビキビキ……ッ!
黒い液体のような影は蠢き、床を侵食しながら形を成していく。
巨大な四肢。
槍のような尾。
禍々しい無数の眼。
そして――
ガァアアアアアアアッ!!
叫び声が空間を震わせた。
レオン「う、嘘だろ……魔神級の瘴影獣……!」
リリアの声が震える。
「魔神クラス……倒すには軍団が必要なのに……!」
ユウは静かに息を吸った。
胸の奥で、始原が囁く。
《——試練だ。第二段階に至ったならば、乗り越えられる》
ユウ「やるしかない……!」
瘴影獣が襲い掛かってきた。
凄まじい速度と重圧。
一撃でこの地下空間を吹き飛ばしかねない。
レオン「くそっ! 守りを固めろ!!」
リリア「障壁展開――《セレスティア・ウォール》!」
純白の障壁が展開される。
だが――
バキィイイッ!!!
触れた瞬間、簡単に砕かれた。
リリア「きゃっ……!!」
レオンがリリアを庇う。
「ぐっ!! ったく……理不尽にもほどがあんだろ……!」
ユウが拳を握る。
胸の奥から力が溢れる。
第二覚醒で得た深い魔力が、体を満たす。
「……大丈夫だ。
俺がやる」
レオン「ユウ……!」
リリアも震えた声で叫ぶ。
「危険よ! 魔神級なんて、いくらあなたでも――」
ユウは優しい笑みを見せた。
「信じて。
二人を守らなきゃいけないから」
そして――踏み出す。
影獣が咆哮し、黒い槍の尾を振り下ろした。
ユウは手を上げ――
「《断界陣・護》」
静かに呟く。
次の瞬間、空間が“割れた”。
尾が触れた部分が歪み、砕け、存在が凍結したように停止する。
レオン「な、なんだ今の……?」
リリアは震えながら呟く。
「空間魔法……? 違う……もっと根源的……
まさか、理そのものを断絶して――」
ユウは一気に距離を詰める。
影獣が腕を振り上げ――
絶対の破壊が迫る。
ユウは光の刃を構えた。
「《始原魔法・断界刃・双月》!!」
二振りの光が弧を描き――
ズバァアアアアアッ!!!
影獣の腕が切断され、黒い血が飛び散る。
影獣は咆哮するが――
ユウは止まらない。
「はあああああああっ!!」
胸の奥から、第二覚醒の力が溢れる。
影獣が大地を割る一撃を放つ。
しかし——
ユウの拳がそれを打ち破った。
ドゴォオオオッ!!!
影獣の巨体が吹き飛び、壁に叩きつけられる。
レオン「すげぇ……もう俺らの次元じゃねぇ……」
リリアはユウを見つめた。
「これが第二覚醒……“始原の力の本質”に触れた者……」
影獣が苦しげに吠えた。
だがユウは、その首元に手を向ける。
「終わらせるよ」
光が集まり——
《断界・零》
静かな声とともに、影獣の頭部が白く消滅した。
影獣は跡形もなく消えた。
全てが終わった。
レオンが尻もちをついた。
「……勝った……のか……これ……?」
リリアも胸に手を当て、息を吐く。
「信じられない……魔神級を……三人だけで……」
ユウはゆっくりと振り返り、微笑んだ。
「二人のおかげだよ」
リリアが涙を浮かべて笑う。
「本当に……無事でよかった……」
レオンも笑った。
「……やっぱり、お前はとんでもねぇ奴だな」
だが——
その時。
黒い魔核の残骸から、別の光が漏れた。
青白い、鋭い光。
ユウが眉をひそめる。
「……まだ何かある」
遺跡全体が震える。
ズズズズズ……ッ!
天井の古代文字が青く発光し、空気が狂ったように揺らぎ始めた。
リリア「ユウ! あれ……!」
青い光がユウの胸へ吸い込まれた。
「っ……!」
レオン「おい! 何が起きてんだ!!」
ユウは胸を押さえ――膝をついた。
胸を灼くような痛み。
始原とは別の、冷たい力。
闇と光が体の中で混ざり合い、暴れ始める。
リリア「これって……もしかして……
“封印されてたもう一つの力”がユウに反応した……?」
レオン「は!? 二つもあんのかよ!」
ユウの身体が震え、瞳が青く輝く。
《——目覚めよ、始原の器よ》
新たな声が響いた。
リリアが凍りつく。
「……今の声……古代文献にしか載ってない……まさか……!」
レオン「誰の声だよ!」
リリアは震える口で答えた。
「“創生”の存在よ……!
始原と対になる、もう一つの神話級の根源……!」
レオン「はあああ!?
そんなのまでユウの中に入ったのかよ!!」
ユウは叫ぶ。
「やめろ!! 二つ同時に起きるな!!」
光と闇が絡み――
遺跡を揺るがす大爆発が起きた。
ユウの身体が青白い光に包まれ、宙へと浮かぶ。
レオン「ユウ!!」
リリア「だめ! これ以上は身体がもたない!!」
だが、ユウは光の中で、静かに目を閉じた。
その瞳の奥には――
“第三段階覚醒”の気配が宿っていた。




