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「ルミナス・アーカイブ 〜転生者の記憶〜」  作者: 田舎のおっさん|AIで人生再々起中
第三部《創生継承編》

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「虚空王との対話」

 虚空境界域──

 世界の端っこにある、“何もない”はずの空間。


 だが今、そこには人影のような“何か”が佇んでいた。


 輪郭は曖昧。

 顔はなく、眼も口もない。

 けれど、不思議と「こちらを見ている」と分かる。


 ノアへ向けて──

 まるで、迷子の子を迎えに来た親のように。


「……ゆう……」

 ノアは震える声で、ユウの袖を掴んだ。


「“くう”が……すぐそこに……いる……」


 ユウは、ノアの手を握り返す。

 手は小さく、冷たい。

 けれど、その震えには強さも混ざっていた。


「大丈夫。僕たちがいるよ」


◆ 1. “虚空王の影”との対峙


 影は一歩──踏み出した。


 その瞬間、

 周囲の空間が破れるような音と共に、

 “色”が奪われ始める。


「くっ……!」

エルザが氷盾を展開する。


 だが盾の表面は、触れた瞬間からモノクロに変色した。


「私の氷が……!?

 概念ごと、無に近づけられてる……!」


「なんて力だ……!」

レオンが歯を食いしばる。


 リリアはノアを庇いながら、必死に声を張り上げた。


「ユウくん!どうするの!?

 このままじゃ……!」


 ユウは影を見据える。


 影はただ立っている。

 攻撃しようとしていない。


(……攻撃する気がない?

 じゃあ……目的は──)


 ユウは一歩前に出る。


(対話……か?)


 影がこちらを向く。


 声はない。

 しかし、“声が聞こえた”。


『──返せ』


 ユウの頭の中に、冷たい声が響く。


「返せって……何をだ?」


ノアを──返せ』


「……ノアを?」


 影の輪郭が揺れる。


『光は“封印”。

 封印は、本来の場所に戻るべき』


「……ノアを、封印に戻すだって……?」


 レオンが憤った。


「ふざけんなッ!!

 そんなの、ノアが消えるってことだろ!!」


 影は無言で頷いたように感じられた。


『光が戻れば──静寂は完成する。

 世界は苦しみから解放される』


「苦しみ……?」

エルザが眉をひそめる。


『存在は、苦しみ。

 終わりのない痛み。

 争い、哀しみ、喪失……

 それらは“存在”が生んだ呪い』


 リリアが怒りに震える。


「そんなの……勝手な押しつけだよ!

 世界には、悲しみだけじゃない!

 楽しいことも……嬉しいことも……!」


 影は、寂しげに揺れた。


『……記憶にはある。

 かつて、私は“存在”だった』


「!!」


 その言葉に、全員が息を呑む。


(虚空王は……元々、“存在”だった?)


 影は続ける。


『やがて私は、すべてを失った。

 心も、身体も、名前も、未来も。

 残ったのは──“無”だけ』


 ノアの目が揺れる。


「……くう……

 あなた……」


『光よ。

 おまえは、私が失った“最後の欠片”。

 戻れば……私は完全に静寂になれる』


「静寂って……世界の終わりじゃないか!」

レオンが叫ぶ。


『終わりは……救い』


 影の声は、

 泣いているようにも聞こえた。


◆ 2. ノアの決断


 ノアはユウの袖をそっと離し、

 一歩、影の方へ進む。


「ノア!?」

「ダメよ!!」

「待て!!」


 仲間の声を背に、ノアは震える声で言った。


「……くうは……さみしいんだよね……」


 影がピクリと動いた。


「わたし……すこしだけ、わかる……

 “どこにもいられない”って……

 “じぶんだけ、いらない”って……」


 ユウの胸が締め付けられた。


(ノア……)


「でも……

 わたしは……いなきゃいけないの……」


 涙をこぼしながら、ノアは影を見上げる。


「だって……

 この世界には……

 ユウがいて……みんながいて……

 わたしに“いていいよ”って言ってくれた……」


 影が揺れる。

 風のない空間で、波紋のように揺れた。


「だから……

 わたし……“もどらない”」


 虚空境界に、静寂が落ちた。


 次の瞬間──


空間が破裂するような音が響き、

虚空王の影が激しく震えた。


『……ならば……

 奪うしか、ない……』


「来たっ!!」

レオンが槍を構える。


「みんな、構えて!!」

リリアが詠唱に入る。


「ユウ……!」

エルザが横に並ぶ。


 ユウは、ノアをかばいながら光影創生を展開する。


「虚空王……

 対話ができるなら、まだやり方はある!」


 だが影は、悲しげに首を振ったように見えた。


『……もう遅い。

 私は“静寂”への道を選んだ。

 世界は、思い出させるだけ……痛い……』


 影が腕を伸ばした瞬間──


虚空の本体が、ついに世界へ接触した。


 空間の奥──

 巨大な“顔のない人型”が、ゆっくりと姿を現す。


(……来た……!)


(本物の、虚空王……!)


 ノアが震える声で呟く。


「……ゆう……

 “くう”が……ほんとうに……めざめちゃった……」


 虚空王は、世界を破壊する気などない。


 ──ただ、“静寂の完成”を望んでいるだけ。


 仲間を守るため、

 ノアを失わせないため、

 ユウは剣を構えた。


「虚空王……

 もう一度だけ聞く」


 ユウの声は震えていなかった。


「本当に……“無”だけが望みなのか?」


 虚空王は答えなかった。


 ただ──影が一歩、こちらへ近づいた。


 世界の“色”が震えた。


(避けられない──)


(戦いが始まる……!)

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