──六つ目の影──
封印の真実を聞かされてから、
三日が経った。
学園ではいつも通りの授業が行われていたが……
生徒たちの間には妙な噂が流れ始めていた。
「北方で……雷とは違う“黒雲”が出たらしい」
「瘴気が空ごと凍っていくって……本当か?」
「魔物が急に凶暴化してるらしいぞ!」
平和な日常に、不気味な揺らぎが混ざっていく。
■ 1 北方からの緊急報告
「――ユウ、至急、学園長室へ」
突然の放送。
ユウはリリア、エルザ、レオンとともに学園長室へ向かった。
部屋に飛び込むと、
学園長ミレイアはすでに魔導通信の水晶に手を当てていた。
「来たわね……。
緊急事態よ」
水晶には北方基地の術士が映っていた。
『ミレイア学園長……!
ただいま北方領域上空に“未知の黒雲”が発生!
凍結・腐敗・破裂……複合的な現象が同時に起きています!!』
「複合……?」
エルザの表情が険しくなる。
『さらに……さきほど、魔物たちの背後に“巨大な影”が確認され――』
その瞬間、通信が乱れた。
バチッ!! ガガ……ガッ……!!
『……“六つ目の封印”が……
目覚めようと……し――』
通信はそこで途切れた。
■ 2 “同時に複数の属性を操る封印”
「ミレイア学園長……六つ目の封印って……」
ユウが問う。
「記録にはほとんど何も残っていない。
ただ一つだけ――」
学園長は石板の裏側を示す。
そこには、他の封印にはない特殊なマークが刻まれていた。
《複合属性紋》
「複数の力を同時に扱う封印……!?
そ、それって反則じゃない!?」
リリアが青ざめる。
「雷も氷も深淵も……
あれだけ単体で強かったのに……
複合なんて……」
エルザの声が震える。
「……つまり、今までで一番強ぇってことか」
レオンの拳がわずかに震えた。
■ 3 封印の連鎖は“止められない”
学園長は目を閉じ、静かに語った。
「ユウが覚醒したことで、
封印たちは“最後の準備”を始めているの。
もう連鎖は止められない」
「じゃあ……僕が先に進まなきゃ……
封印を終わらせなきゃいけない……?」
「ええ。でも――」
ミレイアはユウに歩み寄り、
そっと肩に手を置く。
「あなた一人で背負う必要はないわ。
あなたには、仲間がいる」
「……っ」
その言葉は、
深淵の魔女戦で折れかけた心を支えるように響いた。
「ユウ、来るなら行くよ!」
リリアが明るく手を上げる。
「……もちろん、私も行く」
エルザが静かに寄り添う。
「なんだよ、俺を忘れてねぇよな?」
レオンが笑って拳を突き出す。
ユウは三人を順に見て、深く頷いた。
「……行こう。
六つ目の封印を止めに」
■ 4 出発の前、エルザの小さな不安
学園長室を出るとき。
エルザが少しだけユウの袖を引っ張った。
「……ユウ」
「どうしたの?」
「六つ目の封印……
“凍結”と“腐食”と“闇”……複合系……
私でも……読めない」
「……怖い?」
「……ちょっとだけ」
エルザは小さく頷き、
ユウの手に自分の手を重ねる。
「でも……ユウがいてくれるなら……大丈夫」
その言葉に、ユウも優しく微笑んだ。
「僕こそ……エルザがいてくれたら心強いよ」
リリアが割り込んでくる。
「ユウ!! 私もいるからね!?!?!?」
レオンも肩を組んできた。
「もちろん俺もいるぜ!!」
「わ、わかったから! 四人で行こう!!」
廊下が笑い声に包まれる。
■ 5 六つ目の封印が目覚める
その頃――北方領域。
氷と霧に覆われた大地に、
巨大な“影”がゆっくりと姿を現す。
黒い巨体。
六枚の腕。
背に広がる無数の触手。
身体の一部からは雷、氷、深淵……複数の属性が同時に漏れている。
封印獣第六体
《凶合獣》
その咆哮は、大地を震わせた。
「――――グォォォォォォォォ!!!」
黒雲が北方全域を包み込み、
大自然そのものを腐らせ、凍らせ、引き裂いていく。
■ 6 新章、動き出す
一方、学園ではユウたち四人が
北方へ向かう準備を終えていた。
「ユウ、覚悟はいい?」
「もちろん!」
「……ユウ、手……」
「う、うん……!」
「相棒、行くぞ」
四人は大きく息を吸い込み――
北方へ向けて、光の転移陣へ踏み出した。
(六つ目の封印……
必ず止めてみせる)
新たな挑戦が、ここから始まる。




