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「ルミナス・アーカイブ 〜転生者の記憶〜」  作者: 田舎のおっさん|AIで人生再々起中
第1章 入学と転生

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《影なき魔物(シェイドグリフ)》

ユウたちが遺跡崩壊を防いでから数日。

 学園は静かな熱気に包まれていた。

 新設された研究班──**「ルミナス・アーカイブ」**に、学園中の視線が集まっているからだ。


「ユウ、また徹夜? 肌ぼろぼろだよ」

 研究室の扉を開けたリリアが呆れたように眉を寄せた。


「徹夜じゃないさ。仮眠は取った」

 ユウは机に広げた魔法陣と、大量のメモを指差す。


「遺跡で見た装置……あれを再現すれば、魔法の数値化ができる」

「学園史に残る大発見だよ、それ」

「だろ? だから寝てる暇は──」

「寝なさい!」


 ぱしん、とリリアがユウの額を軽く叩く。


「……痛っ」


「まったく。ひとりで研究進めないでよ。アーカイブは“チーム”でしょ?」


 その言葉に、ユウはくすりと笑った。

 あの日、遺跡での危機を乗り越えた後、彼は気づいたのだ。

 自分はもう、前世で孤独に生きていた高校生ではない。

 仲間がいる。信じてくれる人がいる。


「……わかったよ。じゃあ、今日はここまでに──」


 そのとき、研究室の窓が震えた。

 遠くで、鐘が鳴っている。


 ──魔力警報。


「非常招集!? 何が起きたの……?」

 リリアは顔を引き締めた。


「行こう、ユウ!」


 学園中央広場には、生徒たちが半ば混乱しながら集まっていた。

 その中心で、学園長エルドラが宙に魔法陣を浮かべている。


「……影属性の魔力反応? でも、これ……生き物の反応じゃない」

 リリアが青ざめた顔で呟く。


 広場の地面に、黒い“染み”のようなものが広がっていた。

 そこから煙のように立ち上る影──しかし影には、“本体”がない。


「おいユウ、来たか」

 レオンが駆け寄る。「見たか、あれ……気味が悪すぎる」


「魔物……じゃないよね?」

「わからん。だが、放っとけば学園中に広がる」


 影はじわじわと弧を描き、まるで意思を持ったように移動していた。

 近づいた生徒の靴が触れた瞬間、影が跳ね上がり、靴底を“削り取る”。


「っ……!」

 生徒が悲鳴を上げて倒れ込む。

 足の裏が一瞬で黒く侵食され、魔力が吸い取られている。


「……影なき魔物シェイドグリフ

 エルドラの声が広場に響いた。


「古代文明の遺産の一つ。魔力を糧に増殖する危険存在だ」


 ユウは凍りついた。

 ──古代文明……また、僕たちのせいなのか?


「落ち着けユウ。まだそんなことはわからん」

 レオンが彼の肩を掴む。


「だが、あれを止められるのは……お前しかいないかもしれん」


「シェイドグリフ」は複数体に分裂し、校舎へと広がり始めた。

 生徒たちの魔力を吸い取る影を、教師陣が必死に抑え込む。

 だが攻撃魔法は影をすり抜け、封印魔法も効かない。


「魔力が“どこにも存在しない”みたいに見える……」

 リリアの分析に、ユウはひらめいた。


「存在しない……いや、それだ。魔力の空間座標がゼロなんだ」


 レオンが眉を上げる。


「つまり?」

「影は、本体を“別の次元”に置いてる。今見えてるのは投影……影だけを攻撃しても意味がない」


「……じゃあ、どうすれば?」

「本体を、こちらに引きずり出す」

 ユウは両手を広げ、魔法陣を展開させる。


 すると、またあの感覚が襲ってきた。

 前世の記憶の奥に眠る声──古代文明の“始まりの転生者”の意識が、静かに語りかけてくる。


 ──“影は波だ。空間の歪みを逆行させれば、存在位置を確定できる”

 ──“式は教えた。あとは、お前次第だ”


「……行くよ。レオン、リリア! 僕の魔法に魔力を流して!」


「了解!」

「任せて!」


 三人の魔力が重なる。

 ユウの背後に巨大な魔法陣が浮かび上がり、空気が震える。


『次元固定式・逆位相計算──発動!』


 青白い光が広場を包み、影の動きが止まった。

 影の表面が波打ち、黒い球体がゆっくりと姿を現す。


「これが……本体!」

 レオンが驚愕した。


「今だ、レオン!」

「任せろ!」


 レオンの炎が本体に叩き込まれ、リリアの風が炎を増幅させる。

 ユウは三人の魔力を束ね、最後の封印式を重ねた。


『封印魔法──《黎明のドーン・ケージ》!』


 光が爆ぜ、影は静かに崩れ、霧のように消え去った。


 戦いが終わると、広場は静寂に包まれた。

 エルドラが近づき、ユウの肩に手を置く。


「よくぞ防いだ。だが、この影がなぜ今現れたのか……気にならぬか?」


「……遺跡の装置を起動したせい、ですよね」

「それも一つの可能性だ。だが──」


 エルドラは空を見上げた。

 三つの太陽が、ほんのわずかに“色を失っている”。


「世界の魔力循環が乱れつつある。君らの力が、再び必要になるだろう」


 ユウは深く息を吸った。

 胸の奥で、あの声が微かに響く。


 ──“この世界は、まだ終わっていない”


「……わかりました。僕は逃げません。仲間と一緒に戦います」


 隣で、リリアが微笑む。

 レオンは腕を組みながら、低く笑った。


「当然だろ。俺たちは“アーカイブ”だ」


 三人の決意は、揺るぎなかった。


 その夜。

 研究室では、封印したはずの黒い影が、ユウの机の下で微かに蠢いていた。


──そして、誰にも気づかれぬまま、消えていった。


 次に現れる場所を探すように。

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