エピローグ ──平穏の日々──
影の王を倒してから、一ヶ月が経った。
学園は完全に復興し、いつもの賑やかな日常が戻っていた。
授業の合間、ユウは研究室で魔法陣の研究をしていた。
「んー……この理論式を応用すれば、魔力効率が上がるはず……」
ノートに数式を書き込んでいると、扉が開いた。
「ユウー! お昼ご飯だよー!」
リリアが弁当を持って入ってくる。
「あ、ありがとう」
「もう、また徹夜したでしょ? 目の下にクマできてるよ」
「ちょっと夢中になっちゃって……」
するとレオンも入ってきた。
「よう。また研究か?」
「うん。始原と創生の知識を活かして、新しい魔法体系を作ろうと思って」
「相変わらず真面目だな」
三人は研究室で弁当を広げた。
窓から差し込む陽光が、穏やかな空気を作り出している。
「そういえば」
リリアが口を開く。
「来月、学園祭があるんだって」
「学園祭?」
「うん。一年生も出し物をするらしいよ。私たち、何かやる?」
レオンが笑う。
「俺たち、もう学園の有名人だからな。何やっても注目されるぞ」
「うーん……魔法の実演とか?」
ユウが提案する。
「いいね! 私たちの連携魔法、見せたら盛り上がりそう!」
三人で楽しそうに話し合う。
こんな日常が——何よりも幸せだった。
■ 平和な時間
午後の授業が終わり、三人は中庭を歩いていた。
「そういえばユウ」
リリアが尋ねる。
「始原と創生の力、本当に完全に消えたの?」
「うん。もう別の存在としては感じない。でも……」
ユウは手を見つめる。
「力そのものは、僕の中に残ってる。僕自身の一部になった感じ」
「すごいね……」
「でも、もう暴走する心配はないから。これからは自分の意志で使えるはず」
レオンが肩を叩く。
「ま、何かあったら俺たちがいるしな」
「うん。ありがとう」
三人は学園の塔を見上げた。
あの日、影と戦った場所。
今は修復され、何事もなかったかのように静かに立っている。
「……本当に終わったんだね」
リリアが呟く。
「ああ」
「これからは平和な学園生活だな」
ユウは微笑んだ。
そう——これからは平和な日々が続くはずだった。
少なくとも、この時は——そう信じていた。
■ 不吉な予兆
その夜。
ユウは一人、研究室に残っていた。
古代遺跡から持ち帰った資料を読み解いている。
「この文字……古代語だけど、少し読めるな……」
始原と創生の知識が役立っている。
文字を追っていくと——
ある一節に目が止まった。
『影の王は七つの封印の一つに過ぎず』
『残る六つが目覚める時、世界は真の終焉を迎える』
ユウの背筋が凍った。
「……七つの封印……?」
影の王は——一つ目だった?
まだ——六体も残っているのか?
ページをめくると、さらに衝撃的な記述があった。
『七つの封印を解く鍵は、"始原創生の器"』
『器が目覚めた時、連鎖は始まる』
ユウの手が震える。
始原創生の器——それは、自分のことだ。
つまり——
「僕が……覚醒したせいで……他の封印も……」
ガタンッ
資料が床に落ちる。
ユウは窓の外を見た。
遠くの森——あの遺跡のある方向。
そこで、微かに黒い光が明滅していた。
「……まさか……」
嫌な予感が胸を締め付ける。
だが、今は確証がない。
ユウは資料を閉じ、深く息を吐いた。
「……明日、ミレイア学園長に相談しよう……」
不安を抱えたまま、ユウは研究室を後にした。
その背後で——
古代文字が淡く光り、新たな一節が浮かび上がった。
『二つ目の封印、目覚めの時近し』
文字は静かに消え——
闇に溶けていった。
──エピローグ 終──




