影の王
森の奥へ走る三人の足音が、静寂を破る。
周囲の木々は黒く変色し、地面からは瘴気が立ち上っていた。
「ユウ……本当に大丈夫なの……?」
リリアが心配そうに声をかける。
ユウの顔色は明らかに悪く、額には汗が滲んでいた。
「……大丈夫。まだ動ける」
嘘だった。
第三段階の力を全開にした反動で、身体は悲鳴を上げている。
魔力も半分以上を消耗していた。
それでも——止まるわけにはいかない。
レオンが前を見据えて呟く。
「……来たぜ」
森が開け、巨大な空間が現れた。
そこは——古代遺跡の最深部だった。
■ 1 遺跡最深部
円形の広場の中央に、巨大な黒い結晶が浮いていた。
結晶からは無数の黒い糸が伸び、周囲の大地に突き刺さっている。
「これ……封印装置……?」
リリアが呟く。
「いや、違う。これは……"繭"よ」
「繭……?」
レオンが眉をひそめる。
「何かが……孵化しようとしてる……」
その瞬間——
結晶にひびが入った。
ピシ……ピシピシ……ッ
黒い光が漏れ出し、空気が震える。
ユウの胸が激しく疼いた。
始原と創生が同時に警告を発する。
《——来る。退け!》
しかし、遅かった。
バァァァンッ!!!
結晶が爆発し、黒い瘴気が吹き荒れる。
三人が吹き飛ばされ、地面を転がる。
「ぐっ……!」
「きゃあっ!」
瘴気が晴れると——
そこに"彼"が立っていた。
■ 2 影の王
黒い外套を纏った人型の影。
顔は仮面で覆われ、目の部分だけが赤く光っている。
背中からは八つの黒い翼が生え、王冠のような角が頭部から伸びていた。
その存在感は——圧倒的だった。
立っているだけで、空気が重く、呼吸が苦しくなる。
リリアが震える声で言った。
「……影の王……」
レオンも剣を握る手が震えている。
「こいつが……ラスボスか……」
影の王がゆっくりと顔を上げ——
ユウだけを見つめた。
低く、重い声が響く。
『待っていたぞ、"始原の器"よ』
ユウは拳を握った。
「……お前が、僕を狙っていた理由は何だ」
『理由? 簡単なことだ』
影の王が一歩前に踏み出す。
『我は貴様を喰らうために、千年の眠りから目覚めた』
「喰らう……!?」
リリアが叫ぶ。
『始原と創生——二つの根源を宿す器など、この世界に二度と現れぬ。貴様を取り込めば、我は完全なる存在となる』
ユウの背筋を冷たいものが走った。
「……だから、僕を狙っていたのか……」
『そうだ。そして——』
影の王が手を伸ばす。
『貴様が転生したのも、我が仕組んだこと』
「……!?」
三人が息を呑む。
『千年前、我は封印された。だが、我は諦めなかった。異世界から"器"となる魂を呼び寄せる術式を残した』
ユウの頭が真っ白になる。
「じゃあ……僕が転生したのは……」
『我が呼び寄せたからだ。貴様は最初から、我の糧となるために——この世界に来たのだ』
ガクリと膝が折れそうになる。
全てが——仕組まれていた。
自分の転生も、出会いも、全てが——
「ユウ!!」
リリアが叫ぶ。
「そんなの嘘よ! あなたは私たちの仲間! 誰かの糧になるために生まれたんじゃない!!」
レオンも叫ぶ。
「そうだ! お前は俺たちと一緒に戦ってきた! それは本物だ!!」
ユウは二人の顔を見た。
涙を浮かべて叫ぶリリア。
必死に励ますレオン。
(……そうだ)
(僕は……一人じゃない)
ユウは立ち上がった。
影の王を睨みつける。
「確かに……お前が僕を呼び寄せたのかもしれない」
拳を握る。
「でも……僕がここで生きてきたことは本物だ。仲間との絆も、戦ってきた記憶も——全部本物だ!」
胸の奥から、力が溢れる。
「お前の思い通りになんか……させない!!」
白と青の光が爆発的に溢れ出す。
影の王が僅かに後退した。
『……フン。抗うか』
八つの翼を広げる。
『ならば力尽くで奪うまでだ』
凄まじい瘴気が放たれ——
戦いが始まった。
■ 3 絶望的な力の差
影の王が手を振るう。
それだけで、黒い刃が無数に飛んでくる。
「くそっ! 《フレイム・ウォール》!!」
レオンが炎の壁を展開するが——
簡単に貫通され、肩を斬られる。
「ぐあっ!!」
「レオン!!」
リリアが風の魔法で援護する。
「《ストーム・バリア》!」
だが、影の王は動じない。
翼を一振りし——
バキィンッ!
バリアが粉砕され、リリアも吹き飛ばされた。
「きゃあああっ!!」
「リリア!!」
ユウが叫ぶ。
影の王がユウに向かってくる。
『貴様だけいればいい』
瞬間移動でユウの背後に回り——
黒い手がユウの首を掴んだ。
「がっ……!」
締め付けられ、息ができない。
『さあ、力を寄越せ』
黒い瘴気がユウの身体に流れ込んでくる。
魔力が吸い取られていく感覚。
(くそ……このままじゃ……!)
視界が霞む。
意識が遠のく。
その時——
「ユウから……離れろおおおっ!!」
レオンの炎の斬撃が影の王に襲い掛かる。
影の王は片手でそれを弾き——
レオンを吹き飛ばした。
「ぐはっ!!」
レオンが地面に叩きつけられる。
「レオン!!」
リリアも立ち上がり、必死に魔法を放つ。
「《ウィンド・ランス》!!」
だが、影の王には届かない。
圧倒的な力の差。
誰も——影の王を止められない。
ユウは朦朧とする意識の中で思った。
(……このままじゃ……みんなが……)
胸の奥で、始原と創生が囁く。
《——限界を超えろ》
《——第四段階へ至れ》
(第四段階……?)
《そうだ。だが、代償は大きい》
《命を削る覚悟があるか?》
ユウは迷わなかった。
(……やる)
(みんなを守るためなら……!)
次の瞬間——
ユウの身体が眩い光に包まれた。
『な……!?』
影の王が驚いて手を離す。
ユウは宙に浮かび——
全身から白と青の光が溢れ出す。
髪が逆巻き、瞳が輝く。
周囲の空気が震え、大地が割れる。
「これは……第四段階覚醒……!?」
リリアが呆然とする。
レオンも信じられない表情で見つめる。
「ユウ……お前……!」
ユウはゆっくりと影の王を見据えた。
その瞳には——揺るぎない決意が宿っていた。
「……今度は……こっちの番だ」
影の王が後退する。
『馬鹿な……第四段階だと……!? それは人の身では不可能なはず……!』
ユウは静かに答えた。
「僕は……一人じゃない。仲間がいる。だから……限界を超えられる」
光がさらに強くなり——
ユウの姿が変わり始めた。
白い外套が身体を包み、背中から光の翼が生える。
右手には始原の剣、左手には創生の盾。
完全なる——始原創生の戦士。
影の王が咆哮する。
『ぐぬぬぬ……ならば! 全力で潰す!!』
八つの翼を全開にし、全ての瘴気を解放する。
ユウも剣を構えた。
「行くよ——《始原創生・最終解放》!!」
光と闇がぶつかり合い——
森全体を揺るがす大爆発が起きた。
次回、第13話「光と闇の決着」
ユウと影の王の最終決戦。
そして、物語は終局へ——




