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├ あれから【 小説家になろう商店 】で ┤  作者: 塩谷 文庫歌


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6/7

収益化プログラム

 Pタンが武器屋で調達してきたのは、アバター用の信号拳銃。ジャンクパーツと一緒にゴチャっとカウンターに置いてから、編集画面を開いて「ふむ」と、一呼吸すると、色を変更しながら配置していく。


 書いている作品は、ハイファンタジー。

 作っているのはスチームパンク風拳銃。

 マイブームは、続いているみたい。



「創作なんて、考え方の片寄った人種のすることだろうな。読者の些細な反応や、欲しかった感想、想定を超える高評価。自己完結型の俺は、それなりに承認欲求を満たしてくれる、この場所が好きなんだ」


「と……相互さんに、言われたんですか」


「よくわかんねー奴だが古い付き合いだ。頼りになる」



 Pタンよりも、Pタンに詳しい人。 ……相互さん。

 学生時代から一緒に活動してきた。

 3年前、一緒に退会しようとした。


 少し羨ましい。



「わたしは?」


「猫昆布茶さんは、どっちかっていうと看板キャラか」


「え~?!」


「おーい、ねこんぶちゃーん!」


「ねこみさん? こんにちは!」



 ねこみうろんさんがパタパタ走ってくる。

 座標指定で瞬間移動できるんだけどなぁ。


 隣をキッと睨み「先輩?」と疑問形で尋ねる。

 Pタンが不機嫌そうに「渡したぞ」と答えた。

 ちょっと驚いてから、「上出来よ」と笑った。


 この短いやりとり、なんだろ。



「あの……どうしたんですか?」


「公式見た? 大ニュースよ!」


「公式ニュース? あ、これ?」



 新サービス『収益化プログラム』提供と事前登録のお知らせ……?

 小説投稿サイト『文筆家になろう』系列サービスで収益還元――


   収益還元……円?

   日本の通貨単位。


   ―― (JPY)



「小説作品の収益化~?!」


「これは【 なろう商店 】で予告していた投げ銭では無いな」


「違うみたい。ポイント付与して還元する、広告系っぽいよ」


「現行の仮想通貨『なろポ』は廃止かもな。早弓の見解は?」


「詳細不明、続報待ちってイケボで言ってた」


「 「 イケボ……関係無い 」 」


「でも非現実的だった表紙絵依頼、もう絵空事じゃないよ!」



 有名な絵師さんで、「え?!」と思ったけど。

 これなら、表紙絵有償依頼も夢物語じゃない。

 チリツモで依頼できる日が来るかもしれない。


 少々遅れて、早弓くんが現れた。



「ども!」


「早弓くん、収益還元ってお小遣いってこと?」


「コーヒー代ですね」


「えっ?」


「古いフリーソフトやシェアウェアに『()()()()()()()』と英語で記載していて。知り合いに聞いたら、昔はパソコン機材が高額だったので、気の利いた言い回しでカンパを募ることがあったそうです」


「それは、ドネーションウェアだろ?」


「オレが見たのは設定ファイルでした」


「ほぉ?」



 あまり興味がなさそうだったPタン。

 このエピソードに興味があるらしい。

 作りかけの、奇妙な拳銃を片付けた。



「続けろ」


「その方の知る実例ですが。冗談で書いたプログラマさんが何気なく記帳したら、塵も積もれば山となる……と言いますか」


「一生コーヒーが飲めるようにでもなったか?」


「はい。億単位の数字が、通帳に印字されたと」


「 「 「 億? 」 」 」


「これは極端な例ですね」


「それは極端すぎるよ!」



 Pタンは「いや、参考になった」と、呟いた。


 腕組みをして。

 少し考えごと。


 しばらくして。



「ここ数年で同種のサービスも増え、法律も随分変わった。老舗の存続にも先立つものが必要な時代になった、その結果なのかもな。 ……収益還元の唐突な実装。良くも悪くも、と言うべきだろうが」


「わたし、億万長者を目指します!」


「ねこんぶちゃんには難しそうよ?」


「相変わらず現金なやつだ」


「ね、Pタンも一緒にやろうよ~!」


「そうだな、やってみるか」


「 「 「 え?! 」 」 」



 ストイックな自己完結型。

 小銭目当てで頑張れるタイプには見えないけど?



「相談相手が欲しい。ねこみうろん氏に頼みたい」


「アンタが相談?!」


「猫昆布茶さんや早弓は、スタイルが違いすぎる」



 Pタンは書きかけの原稿を開いた。

 冒頭を斜め読みする、ねこみさん。

 彼女も、得意分野ではなさそうだ。

 難しい顔をした。



「夢や、希望や、熱い想いに満ちた空想世界を心の支えにして、俺は生きて来た。それを誰かに伝えたくって、素人作家になったんだ。地位も、名声も、一攫千金もいらない。でも今は止まれない。伝えてないことが山積みのままで、くすぶってる場合じゃないんだ」



 ねこみさんも共感するところがあるのだろう。

 ゆっくりと頷いた。



「創作は孤独な作業、前に進み続けるには燃料が、ココロの燃料が必要だ。それは人それぞれ違ってて、人の数だけあると思う」



 すこし、間があって。



 Pタンは「だからこそ」と続けて。

 目を閉じた。



「塵も積もれば、1杯の珈琲……悪くない話だ」


「それがPタンの、ココロの燃料?」


「まぁな」


「じゃあ、一生うちのお店で珈琲が飲めたら?」


「創作を趣味にする人間なら、誰でも書斎を持ちたいと思うだろう。加えて珈琲と笑顔がついてくるなら、最高だ。そんな日々が、穏やかに続いていく……それは、願ってもない話だろうな」



 彼を突き動かすのは、情熱で。

 欲しいのは珈琲と読者の笑顔。


 それなら、わたしは ――――



「Pタンの作品が完結するたびに、珈琲を淹れて、お祝いします」


「そうだな。もちろん対価は支払うが、それが俺の原動力になる」



 ずっと作品を書いていたい。

 読者は、多いほうが良いし。

 なにかが届いたら、嬉しい。


 そのために、メンタルケアが必要で。

 ちょっとお休みしたっていい、けど。


 やっぱり、わたしは……



「4年目も、心機一転がんばろ――!」



 わたしは、創作で繋がるバーチャルリアリティーの異空間。

 ここ、【小説家になろう商店】の世界がお気に入りなんだ。

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