収益化プログラム
Pタンが武器屋で調達してきたのは、アバター用の信号拳銃。ジャンクパーツと一緒にゴチャっとカウンターに置いてから、編集画面を開いて「ふむ」と、一呼吸すると、色を変更しながら配置していく。
書いている作品は、ハイファンタジー。
作っているのはスチームパンク風拳銃。
マイブームは、続いているみたい。
「創作なんて、考え方の片寄った人種のすることだろうな。読者の些細な反応や、欲しかった感想、想定を超える高評価。自己完結型の俺は、それなりに承認欲求を満たしてくれる、この場所が好きなんだ」
「と……相互さんに、言われたんですか」
「よくわかんねー奴だが古い付き合いだ。頼りになる」
Pタンよりも、Pタンに詳しい人。 ……相互さん。
学生時代から一緒に活動してきた。
3年前、一緒に退会しようとした。
少し羨ましい。
「わたしは?」
「猫昆布茶さんは、どっちかっていうと看板キャラか」
「え~?!」
「おーい、ねこんぶちゃーん!」
「ねこみさん? こんにちは!」
ねこみうろんさんがパタパタ走ってくる。
座標指定で瞬間移動できるんだけどなぁ。
隣をキッと睨み「先輩?」と疑問形で尋ねる。
Pタンが不機嫌そうに「渡したぞ」と答えた。
ちょっと驚いてから、「上出来よ」と笑った。
この短いやりとり、なんだろ。
「あの……どうしたんですか?」
「公式見た? 大ニュースよ!」
「公式ニュース? あ、これ?」
新サービス『収益化プログラム』提供と事前登録のお知らせ……?
小説投稿サイト『文筆家になろう』系列サービスで収益還元――
収益還元……円?
日本の通貨単位。
―― 円?
「小説作品の収益化~?!」
「これは【 なろう商店 】で予告していた投げ銭では無いな」
「違うみたい。ポイント付与して還元する、広告系っぽいよ」
「現行の仮想通貨『なろポ』は廃止かもな。早弓の見解は?」
「詳細不明、続報待ちってイケボで言ってた」
「 「 イケボ……関係無い 」 」
「でも非現実的だった表紙絵依頼、もう絵空事じゃないよ!」
有名な絵師さんで、「え?!」と思ったけど。
これなら、表紙絵有償依頼も夢物語じゃない。
チリツモで依頼できる日が来るかもしれない。
少々遅れて、早弓くんが現れた。
「ども!」
「早弓くん、収益還元ってお小遣いってこと?」
「コーヒー代ですね」
「えっ?」
「古いフリーソフトやシェアウェアに『珈琲を奢ってよ』と英語で記載していて。知り合いに聞いたら、昔はパソコン機材が高額だったので、気の利いた言い回しでカンパを募ることがあったそうです」
「それは、ドネーションウェアだろ?」
「オレが見たのは設定ファイルでした」
「ほぉ?」
あまり興味がなさそうだったPタン。
このエピソードに興味があるらしい。
作りかけの、奇妙な拳銃を片付けた。
「続けろ」
「その方の知る実例ですが。冗談で書いたプログラマさんが何気なく記帳したら、塵も積もれば山となる……と言いますか」
「一生コーヒーが飲めるようにでもなったか?」
「はい。億単位の数字が、通帳に印字されたと」
「 「 「 億? 」 」 」
「これは極端な例ですね」
「それは極端すぎるよ!」
Pタンは「いや、参考になった」と、呟いた。
腕組みをして。
少し考えごと。
しばらくして。
「ここ数年で同種のサービスも増え、法律も随分変わった。老舗の存続にも先立つものが必要な時代になった、その結果なのかもな。 ……収益還元の唐突な実装。良くも悪くも、と言うべきだろうが」
「わたし、億万長者を目指します!」
「ねこんぶちゃんには難しそうよ?」
「相変わらず現金なやつだ」
「ね、Pタンも一緒にやろうよ~!」
「そうだな、やってみるか」
「 「 「 え?! 」 」 」
ストイックな自己完結型。
小銭目当てで頑張れるタイプには見えないけど?
「相談相手が欲しい。ねこみうろん氏に頼みたい」
「アンタが相談?!」
「猫昆布茶さんや早弓は、スタイルが違いすぎる」
Pタンは書きかけの原稿を開いた。
冒頭を斜め読みする、ねこみさん。
彼女も、得意分野ではなさそうだ。
難しい顔をした。
「夢や、希望や、熱い想いに満ちた空想世界を心の支えにして、俺は生きて来た。それを誰かに伝えたくって、素人作家になったんだ。地位も、名声も、一攫千金もいらない。でも今は止まれない。伝えてないことが山積みのままで、くすぶってる場合じゃないんだ」
ねこみさんも共感するところがあるのだろう。
ゆっくりと頷いた。
「創作は孤独な作業、前に進み続けるには燃料が、ココロの燃料が必要だ。それは人それぞれ違ってて、人の数だけあると思う」
すこし、間があって。
Pタンは「だからこそ」と続けて。
目を閉じた。
「塵も積もれば、1杯の珈琲……悪くない話だ」
「それがPタンの、ココロの燃料?」
「まぁな」
「じゃあ、一生うちのお店で珈琲が飲めたら?」
「創作を趣味にする人間なら、誰でも書斎を持ちたいと思うだろう。加えて珈琲と笑顔がついてくるなら、最高だ。そんな日々が、穏やかに続いていく……それは、願ってもない話だろうな」
彼を突き動かすのは、情熱で。
欲しいのは珈琲と読者の笑顔。
それなら、わたしは ――――
「Pタンの作品が完結するたびに、珈琲を淹れて、お祝いします」
「そうだな。もちろん対価は支払うが、それが俺の原動力になる」
ずっと作品を書いていたい。
読者は、多いほうが良いし。
なにかが届いたら、嬉しい。
そのために、メンタルケアが必要で。
ちょっとお休みしたっていい、けど。
やっぱり、わたしは……
「4年目も、心機一転がんばろ――!」
わたしは、創作で繋がるバーチャルリアリティーの異空間。
ここ、【小説家になろう商店】の世界がお気に入りなんだ。





